一度に持てたら苦労はしない

銀色小鳩

1話完結 一度に持てたら苦労はしない

 ふむふむ。

 初めて参加する、KAC。お題に沿って小説を書くというイベント。お題は「二刀流」だ。

 ……そうか二刀流か。二刀流ね。

 二刀流を私みたいな百合小説好きが書くっていったら、バイセクシャルの話になるに決まってんじゃん。両刀使い。これだ。そういう話を書くしかない。

 しかも、作者自体の考えを述べられる。これは私に書けって言ってるようなもんじゃないか。

 エッセイでも、いいんでしょ。事実でも架空の話でもいいんでしょ。

 いやいや。LGBTものばっかり書いてるからって、二刀流と言われてすぐにそれ書くのって、安直すぎないか? みんな思ってるだろ。二刀流=バイ。考えるだろみんな。ひねりがないよ。

 もっとさ。グッとくるようなものを書かなきゃいけないんじゃないの? かっこいい剣士が出てくるとか。会社での立ち位置的ななんちゃらとか。人生における何たらかんたらとか。


 五分ほど考えたが、私の頭の中には、もう「二刀流」イコール「バイセクシャル」、この繋がりしか出てこなかった。

 残念だが、私の脳のシナプスはそういうもんにしか、繋がってない。だから、しょうがないのだ。


 しかし。

 私の今までの、男も好きになったし、女も好きになったし……そういう人生を振り返ってみて思うのは、私の中で「二刀流」という言葉は確実に「バイ」に繋がっているんだけど、「バイ」、イコール「二刀流」と言えるのかどうかってことだ。

 二刀流っていうのは、一度に、「同時に」別の刀を持つことでしょ。右手と左手で。

 一度に持ったことなんぞないわ! そもそもそんなにモテたこともないわ。

 私はいつも、一つの刀だって持つのにいっぱいいっぱいで、その刀の扱いに失敗して指切ったりするような人間なのだ。下手すると自分の心臓刺しかねない刀だったぞあれは。

 二刀流……そんな器用なイメージを、バイに持たせていいのか。


 そんな器用な人間じゃない。痛いポエムとか書いたりして、痛い恋愛ものの歌とか聞いたりして、――そして、カラオケ帰りに、隣を歩く友人に「切ないものを作る人ってさぁ、だいたいおカオが残念だよねぇ。だって美人だったら切ない境地までいかないじゃん。恋愛成功しちゃうじゃん」とか言われて、「身も蓋もないこと言うなよぉぉ! 切ない歌ばかり歌った私に言うなよ!! 共感しまくりなのがカオのせいになるだろうがぁぁぁ!」とか思っている人間なのだ。


 結論。身も蓋もない法則が働いている中で、二つも刀を持ってる余裕なんぞない。刀の使い方も知らない。怪我をしない方法も知らない。バイだからと言って、二つの刀の切り替えがすんなりいくもんでもない。ターゲットを自由自在に選ぶことだってできない。反応のないものターゲットにしてどうするよ……そういわれても切り替えができない、できたら苦労はしない。


 本気で恋愛したときに、「二刀流」が本当にできるバイなんて、そう多くないのだ。

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