騎士たるもの、刃は落とさず振るうべし。

御影イズミ

されど2つの刃は覚悟を持って振るうべし。

 剣や銃を2つ扱う二刀流。

 その技術というのは誰が見ても突飛したものであり、生半可な技術では扱うことが非常に難しい。


 だからこそ、彼は――イズミ・キサラギはその技術を選んだ。

 愛する者を守るために、誰もが扱わない技術を使って守り抜こう、と。

 愛する者を守るために、自分だけの技術を磨き助けてあげよう、と。


 今日もまた、彼の技術は冴え渡る――。



 時は春の陽気が降り注ぐ直前の、少々冷え込む時期。この日、ロウン王国では騎士・兵士の合同訓練が行われていた。

 過去に何度か行われた異世界からの侵略戦争、それに備えるために各国で対人戦を強化しようという試みが広がっている。


 今回はロウンという小国で複数の国からの騎士・兵士が訓練に参加。アンダスト王国の守護騎士であるイズミ・キサラギも同様に参加していた。



(っつってもなぁ……対人戦、あんまりやりたくないんだけど)



 腰に下げたレイピア2つの柄を押さえつつ、少々ため息を付いたイズミ。騎士の中では少々珍しい二刀流剣士であるが故に、周囲からの視線は突き刺さって離れない。むしろ異質なものを見る目が多く、イズミは少々居心地が悪い。

 大丈夫だ、慣れている。そう言い聞かせながらもイズミはレイピアを壁に立てかけて近くの椅子に座り、ポケットに入れておいた煙草を吸って気を落ち着けた。


 そんな彼の近くに、ロウン国に所属する騎士ベルディ・エル・ウォールが近づいてくる。紅桔梗色の髪を揺らしながら近づいてくるベルディは真っ先にイズミの下へ近づいて、彼が吸っていた煙草を握りつぶす。



「うおっ!? おま、何するんだよ!?」


「訓練前に一服するのは感心しない、と言いたいだけだが。次はお前と私のいるグループの番だからな」


「……ああ、そうかい。忠告ありがとよ」



 大きくため息を付いたイズミは立てかけていたレイピアを片手に、訓練場へと向かう。それに付いていくようにベルディもまた剣を片手に、訓練場へと出向いた。


 今回の対人訓練のためにやってきた騎士は10名ほど。1対1での訓練となり、その間に禁止される事柄は何もない。魔術も、剣術も、好きなように使っての訓練となる。

 そんな条件下でイズミと戦おうという騎士は……ベルディ以外、誰もいない。二刀流剣士を相手にするという事柄自体が初めてな者ばかりだからか、なかなか挙手が上がらなかった。



「マジか。どうなるんだよ、俺」


「まあ、単刀で戦ってもらうか、あるいはベルディが相手するか……だな」



 監督係でもあるガルヴァス・オーストルが苦笑いを浮かべてそう告げる。今までに様々な技術を持った騎士は見てきたガルヴァスではあるが、二刀流を使う騎士はイズミ以外に見たことがないため相手に出来るのが、自分の直弟子であるベルディぐらいしかいないだろうと。

 ちらりとベルディに視線を送ってみれば、彼は無表情を貫いていた。イズミと戦いたいとも、戦いたくないとも言わない姿勢に少々イラついたのか、イズミはレイピアを抜いてベルディに宣戦布告を仕掛けた。


 最強の騎士であるガルヴァスの直弟子ベルディと、稀代の二刀流騎士イズミの戦いを見れるという一大イベントに周囲は沸いた。もちろん、この訓練を見に来ていたアルファード一家の人々も。

 まさかの流れに困惑するイズミだったが、ベルディは逆にやってやると言った顔を浮かべて訓練場の真ん中へと入る。マントを捨て、身軽な姿になった彼は月の剣ルア・イスパーダを構えてイズミを待った。



「どうした? まさか、私が怖いか?」


「んにゃろぉ……やってやらぁ!」



 イズミもまた、レイピアを2つ鞘から抜いて中央の訓練場へ。呼吸を整え、構えを取り……開始の合図を待つ。

 静かになった訓練場に、始まりの合図が鳴って試合が始まる。音と同時に前に出たのはベルディの月の剣。刃はイズミの身体を真っ二つにしようと胴体ギリギリに振るわれたが、寸前で2つのレイピアが月の形成を止めイズミの身体を守る。


 ベルディの力の勢いを利用してイズミはそのまま視線を外れながら距離を取り、壁を蹴って勢いを保ったままベルディの背後から右手のレイピアを振り下ろす。その一撃が月の剣によって防がれるのは予見していたため、弾かれた衝撃をそのまま使って上空へと舞い上がってぐるりと一回転し、左手のレイピアを振り下ろした。



「おらぁ!!」


「くぁ……っ!!」



 急行直下の勢いと、イズミの利き手による一撃はベルディの月の剣を通して腕を、肩をわずかに痺れさせる。僅かな衝撃によってベルディの身体が崩れ落ちたかと思ったが、ベルディは倒れる間際にも月の剣を振り下ろしイズミの左手のレイピアへ一撃。

 軽く吹き飛ばされたイズミの身体はそのまま体勢を崩して地面に叩きつけられ、ベルディもまたそのまま地面に思いっきり叩きつけられる。


 勝敗は……まだ、つかない。両者同時に起き上がったかと思えば、再び刃をお互いに向けて振り下ろしたからだ。

 鍔迫り合いが起こり、鋼が擦れる音が小さく鳴る。まだ、どちらも負けていないという意思を見せつけていた。



「テメェ、さっさと降参したらどうだ?」


「何を言う。そちらこそ、体力が追いついてないように見えるぞ?」


「うるせぇ、アルムが見てる以上テメェに負けるわけにゃいかねぇんだよ、こっちは!」



 イズミの視線が少しだけ、応援しているアルファード一族の1人……王女であるアルムへと向けられる。

 彼女とイズミは所謂恋仲。こういったイベントが起きなければイズミもロウンへと訪れることは出来ないため、精一杯自分の姿を見せつけようとしていた。


 だが、それが真に騎士たる者の心構えなのかとベルディは問う。イズミが二刀流を使うのも、アルムに認めてもらうためだけに使っているものではないかと。

 それを言われたイズミは、頭を横に振る。それだけは、絶対に違うと。



「アイツが俺を助けてくれたあの日から、俺は誓ったんだよ。俺にしか出来ない技術、世界中でも誰もが使っていない技術、それを使って守ってやると」


「だが、貴様の場合は自己流の剣術。誰も使わない代わり、弱点が多い。そんな生半可な二刀流剣術を使って、アルム様を守ると言い切れるのか?」


「当たり前だ。アイツの盾になり、剣となるのが俺の役目。……ま、アイツも俺も防御が苦手なんで、二刀流を選んだってだけだがな!」



 断言したその直後、イズミはベルディの足を払い2つの剣をタイミングをずらして振り下ろす。1つ目は月の剣が防いだが、もう1つはどうしても払うことが出来ず……ベルディの敗北。勝敗が決まった瞬間、辺りの観客――もとい騎士達が沸いた。

 最強の騎士の直弟子が負けるという異例の事態。これにはガルヴァスも少々楽しそうな表情を浮かべており、ニヤつきが止まらない口元を隠すように手で覆っている。


 片割れのレイピアを掲げ、イズミは勝利を噛みしめる。その姿を見ていたアルムは彼に向けて手を降っていたため、彼もまた彼女に向けて手を振り返した。




 ――ああ、俺はあの子のためなら何でも出来る。

 ――異例と言われた二刀流騎士になることも、たやすく出来そうだ。


 ――覚悟ならあの日から出来ている。

 ――2つのレイピアを持った、あの日から。



 この日、イズミの二刀流の技術は更に磨かれ、やがては世界を救うものへと昇華された。

 アルムを守るため、世界を守るために、二刀流の騎士は世界をいくつも巡っていく……。

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騎士たるもの、刃は落とさず振るうべし。 御影イズミ @mikageizumi

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