最終話 戦いは続く

「あ、た、拓斗くん――」

「拓斗くん! こんにちは」

「こんにちは! 会いたかったよ!」


 俺の両腕にまとわりつく葵と向日葵。

 目の前には青い顔をする純と、平然としている垂井瑠衣奈。


 今日はフォーフォレストの四人と会う約束をしていた。

 天気は文句のつけどころがないほどに良好。

 太陽が燦々と輝いている。

 時刻は昼前。

 これから一緒に昼食を取りに行く予定だ。


 ハンバーガーショップを集合場所にしていたのだが……俺が到着するや否や、二人は俺の腕を取ったというわけだ。


「ねえねえ、今日は一緒にダンジョン行ってくれるんでしょ?」

「私たちの訓練に付き合ってくれるんだよね?」

「ああ、そのつもりで来たんだよ。でもまずは腹ごしらえをしないと」


 俺は注文をするために二人に離れるように言うが……彼女らは離す気配がない。

 これじゃ動きづらいから勘弁していただきたいのだが。

 まぁ、両手にアイドルなんて果てしなく贅沢な体験をしているのだけれど。


「早く離れなさい」

「はぁい」

「分かった」


 垂井の命令に近い口調に、二人は素直に従う。

 どうも垂井は、この中ではリーダー格のような存在のようで、皆彼女の言うことを聞くようだ。

 一応、形的なリーダーは純のはずなんだけど。


 二人から解放された俺は、ハンバーガーを二つとナゲットにドリンクを注文する。


「よく食べるんですね」

「うん。お腹減ってるしね。純たちは食べないの?」

「わ、私たちはその……太ったらいけないから」

「ああ……アイドル活動も大変だね」


 そう思う俺であったが、しかし葵と向日葵、それに垂井はテーブル席でバクバク食事をしている模様。

 大変な活動はどこ行った?


「三人は太りにくいらしくて……私は水分取るだけで体重増えちゃうから」

「……大変だね」


 大変なのは純の体質のようだ。

 しかし、水分だけで太る人っているんだな。

 そんな子がアイドル活動のために体型を維持しなけばいけないなんて……考えるだけでも胃が痛くなる。

 でも俺は食べちゃうんですけどね。

 ごめんね、目の前で食べるなことをして。


 俺がそんな気にするような目をしていると、純はこちらの考えに気づいたらしく、俺の目を真っ直ぐに見つめる。


「あ、あの……いつもってわけじゃないんです。今日は体重が増えちゃったから……後、人が食べてるところ見るのは好きなので……気にせず食べてくださいね」

「は、はぁ……」


 純が俺の隣に立ち、注文した品を待つのに付き合ってくれる。

 

「…………」

「…………」


 気まずくない、何も喋らない時間が流れる。 

 ふとそんな時、お互いの指先が触れ、純は勢いよく手を引っ込めてしまった。


「あ、ごめんなさい……」

「いや、こちらこそごめん」

「…………」


 純は何か思案顔となり……そして顔を真っ赤にして、何故かこちらに手を伸ばしてきた。

 そして俺の手を握り――それから申し訳なさそうに手を離し、指先だけ俺の手に触れていた。

 俺は突然のことに心臓がバクバク。

 いきなりどうしたんだ?


「あの……勝てて良かったです。あの日」

「あ、ああ……」

「信じていましたけど、でもやっぱり少し不安で……だけど、信じてたんですよ」

「ありがとう。俺も自分を信じてた。それにあの時純がいたから、自分をもっと信じることができたんだ。純は、その……俺の原動力のような気がするよ」

「え……?」


 何を口走ってるんだ、俺。


「いや、その……アイドルとしていつもファンに元気を与えていてさ……俺も元気をもらってるんだよ」

「私だって、拓斗くんに元気をもらっています」

「いや、俺なんてそんあ、元気を与えられるような人間じゃないよ」


 俺はアイドルでもなければ、もともとモブのような存在。

 間違っても、人に活力を与えらるようなタイプではない。


「でも、始めた会った時から拓斗くんには助けられてばかりです。いつも助けてくれて、サポートしてくれて……本当に感謝してるんです」

 

 純は触れていた手を動かし、またギュッと俺の手を握る。


「だからその……これからも力を貸してくれたら嬉しいです……」


 頭から煙が上がっている。

 恥ずかしいんだな……俺だって恥ずかしい。

 アイドルに手を握られるなんて、普通ありえないことなのだから。


 いや、アイドルだとかそんなことは関係無いな。

 純だから、緊張して、嬉しくて……ダメだ、やめておこう。

 この子はアイドルで俺は一般人。

 しかし一般人というわけでもないか。


「いつかさ」

「はい?」

「いつかその……純と対等な立場に……もっと純の横を堂々と歩けるようになったら話があるんだ」

「…………」


 純はどんなことを想像しているんだろう。

 俺はきっと彼女のことを……

 でも、今の俺はまだ口にすることはできない。


 だからいつか。

 俺がもっと有名になって、トップアイドルである彼女と釣り合いが取れたら。

 その時は俺の想いを彼女に伝えよう。


「……待ってます。話をしてくれるの、待ってますね」


 純はそう言って、繋いでいた手を放す。

 そして赤い顔のまま、他のメンバーたちの方へと行ってしまった。


 これからまだまだ大変なことも多いだろうが、でも、もっと頑張らないとな。

 新しい目標もできたことだし、もっともっと努力して、そして本物のヒーローになるんだ。


 俺は決意を新たに、果てしなく続く道を見据えた。


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無能のモブキャラでしかなかった俺だが、最強チートスキル【エーテルマスター】を手に入れ無双人生が始まった!  大田 明 @224224ta

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