第5話 それぞれの居場所

特急に乗って空港まで行き、飛行機に乗り換える。空の旅も嫌いではない。飛行機は、空を飛ぶにふさわしい形に作られた機能美の極みだと思う。


機内で出して貰ったコーヒーを飲みながら、今回の旅を振り返る。


会いたかった人はまだまだ沢山いたのだけれど、時間と私の体力を考えると、これが限界。まだ、歩けるのに、泳げるのに、私の身体は、もう無理がきかない。


どんどん動けなくなる身体が悔しくて、辛くて、受け入れられなくて、泣きわめいて、どこにもぶつけようのない怒りに暴れたりもした。


けれど、どんな身体でも、これが私の身体。そう受け入れて、生きていくしか仕方ないのだと思い始めてからは、こんな身体でも、できることをやってみようという気になった。


それで今のうちに、会いたい仲間たちに会っておきたい。そう思って旅に出た。ふらっと立ち寄ってみたいところにも行ってみた。


海も見ておきたかった。私が今住んでいるところは、海からとても遠い所で、海の近くで生まれ育った私には、やっぱり海は故郷みたいに思えて。


飛行機を降り、到着ゲートを抜けると、一番大事な人が笑顔で私を待っていた。


「おかえり。」

「ただいま。」


夫が荷物と私を積んで、車に乗り込んだ。

車は空港の明るさを背に、緩やかに進む。


「沢山沢山あなたに話したいことがあるんだ。」

何から話そうかと気持ちが急く。

「そんなに急ぐことはないよ。ちょっとずつでいい。」

彼は運転しながら笑って言う。

「凄く考えさせられることもあってさ。私って『山吹色の魚』なのかもな、って。」

「なかなか興味深い話だね。あとでゆっくり聞こう。」


あとで、って言われたことに、ちょっとだけ拗ねていると、彼は笑った。

「お腹減ったでしょ?時間的に何も食べてないんじゃない?」

「あっ。確かに。」

「何か食べよう。なにがいいか決めて。」


「確かに。」なんて、ルウの口癖。

きっと彼も最愛の妻子の所に戻っている。


「ねぇ。」

「ん?」

「私ね、やっぱりあなたが私の居場所なんだなって思った。」 

「何を今更改まって?」

ふっと彼が小さく笑う。

「私が普通とはちょっとちがってる人でも、あなたは受け入れてくれるから。」

「異ってる?単なる『個性』でしょ。」

「そっか。」

 


「『山吹色の魚』にも可能性があるのかもね。」

ミカルに言った、自分自身の言葉を思い出していた。

 


この人がいてくれてよかったね、私。

改めて、そう思った。



優しい夜が訪れる。

みんなの上に平等に。  

静寂と平和をお布団にして、

おやすみなさい。いい夢を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

山吹色の魚 緋雪 @hiyuki0714

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ