白いカラス
橙田巡
白いカラス
私は時間がある時、私の部屋の窓から外を眺めるのが好きだ。
今日もいつものように外を眺めていると、一羽の鳥が向かいの家の屋根に飛んできた。最初はその姿に目を向けてすらいなかったが、少し思うことがあって、遠くから近くへ目線を移す。
真っ白な鳥、ただそれだけのことだが、私は生まれてからこのような鳥を見たのは初めてだと感じた。人の住む場所、しかも住宅街で見るような鳥は、言ってしまえば濁ったような色をした鳥や、黒いカラスがほとんどだろう。だが目の前にいる鳥の色は、白以外の色素を含んでいないような真っ白という言葉そのままだった。何と言う鳥だろう、どこから来たのだろう、そのほかいろいろな疑問が沸いたが、私に時間があるのと、その鳥が飛びたとうとしないのを見て、ゆっくりと考えることに決める。
まず鳥の種類は何だろうと考え始める。頭に浮かんだのは白色の鳥類、だが白鳥や鶴などとは明らかに違う。形大きさは、まさにカラスそのもの。そのほか白い鳥を私は知らない。そんな私の頭に浮かんだのは「白いカラス」との言葉だった。
白いカラスかどうかは今の私には重要なことではない。だがその言葉を決めつけたい自分がいた。白いカラスと言われると妙にしっくりくるのだ。私は普段カラスをじっくりと見たことはない。それは脳が勝手に日常の背景の一部と認識しているからだと思う。だが、珍しい姿をしたカラスなら、脳はどう反応するだろう。その時私は、少し意地の悪い考え方が浮かんだような気がした。
気分転換に、考えていることを変える。白い鳥はどこから来たのか。
まず、野生か人が飼っているか。それは認定できないような気がした。野生なら一度も見たことがないはずないし、しかもたった一羽でいるなんてことはないだろう。でも人が飼っていたものかといったらそれも違うと思う。じっくりと魅入るような雰囲気にも関わらず、その鳥にはまるでどこにでもいるような雰囲気も感じとることができるからだ。付け加えるなら、何と言ったらいいのだろう、黒いカラスを見たことがなくて、人の住む場所では白いカラスが多くいますと言われたら信じてしまうような……
つまり、何というのだろう、何とも言えない気持ちになる。白いカラスが非日常なことを私の観念で決めつけている。私は世界の物事を知らないのに、このようなことは決めつけることができる。こんな状況に私は複雑な気持ちになった。
周りから見たらめんどくさい考え事は、時間がある今だからこそできる。私は一人でいる貴重な時間を、めんどくさい考え事にもうしばらく使おうと思う。
白いカラスは、まだ目の前にいる。黒いカラスなら気を向けさえしないのに、とても気になってしょうがない。本当にこの鳥が白いカラスだったら、この鳥は突然変異して生まれたといえる。
どのようにして生きてきたのだろう。自然界で突然変異して生まれた動物は、まず生き延びられないとどこかで聞いたことがある。それは、本来の姿は敵に気づかれないようにできているため、そうでないならすぐに見つかってしまうからだという。それはその通りだと思う。だが人間の住む場所に主に生活するカラスならどうだろう。
敵はいるのか、何を食べているのか、カラスのことをそもそも私はあまり知らない。例えば虫などを食べているとして、自身の姿が突然変異、白色なら何か困ることがあるのだろうか。
また、私はカラスが襲われたり、追いかけられたりする姿を見たことがない。敵がいないから人間の住む場所にいるのだろうか。
仮に敵の動物がいないとして、同じカラス同士ならどうだろう。お互いを仲間だと思い、一緒に行動するのだろうか、私はそうならない、と自然に考える。白いカラスを見た黒いカラスは何をするのだろう。びっくりするのだろうか、あこがれるのだろうか、やはり普通じゃない姿のカラスは追い出されるのだろう。カラスがそもそも群れ行動かさえ知らないが。カラスの世界も大変だな、と勝手に感じた。
仲間外れにされた白いカラスはどうするのだろう。白いカラスはそれでも生きていなきゃいけない。
白いカラスは何を思うのだろうか、その姿に生まれたことを憎むのか、はたまた珍しい姿を誇らしく思うのか。もちろん、カラスがどう思おうと、私にカラスの思いを知る術はない。
特に結論の出さない考え事をしていたら、白い鳥はいつの間にかいなくなっていた。日は沈みかけ、空の大半は黒に染まっていた。少し肌寒くなっってきたので、私は窓をゆっくりと閉めた。
白いカラス 橙田巡 @orenji_maru
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