第3話 管理者より
「――うことですか……ってなんだこれ。」
僕はまた、ダンジョンの自室の真ん中でそう呟く羽目になっていた。管理者さんに話を聞いてもらえないからって嘆いている場合ではない。
いつの間にかまた、ダンジョンの自室に戻ってきていた。自室と言っても寝室でしかなく、睡眠時に放置してプレイするときに長時間いたために自室と言っている。
視界の両端に、小さく水色の半透明のアイコンが5個ずつ並んでいる。左側にはそれぞれ地図、剣、盾、魔法陣、□というアイコン。右側には僕の顔をデフォルメしたアイコン、レティーシャの顔をデフォルメしたアイコン。そして紙と羽ペン、鐘、歯車のアイコン。
などと困惑していると、いきなり鐘のアイコンが点滅して右上に赤丸がついた。
色々と突っ込みたいが、後回しにしよう。ゲームのUIとそんなに変わりがない点を見ると、多分メッセージ系の通知なんだろう。
********
アイコンに焦点を合わせると、そのアイコンに割り当てられた内容が表示された。
地図のアイコンは、ダンジョンの階層を平面、立体それぞれで簡易的に見ることができるもの。
剣のアイコンは、ゲーム時に獲得した攻撃用アイテムの一覧表示するもの。
同じように盾のアイコンは防御用アイテム、魔法陣のアイコンは魔法関連のアイテム。
□のアイコンは何も無かった。多分予備のアイコン。
僕の顔をデフォルメしたアイコンは、僕の体とダンジョンマスターのアバターとを入れ替えるもの。
レティーシャの顔のアイコンは守護者たちの設定を見るもの。
紙と羽ペンのアイコンは、ただのメモ機能。
歯車は、この視界のアイコンの表示方法とかの設定をいじるためのものだった。
そしてい嫌な予感から、後回しにしていた鐘のアイコンに目の焦点を合わせると、いきなり文章が表示された。
『
縺薙l繧偵⊇繧薙d縺上@縺溘?縺九>
【重要】その世界の説明事項等
その世界の名前はボクスーデ。一日は30時間で、一年間は大体400日。
統治者が固有領域というものをそれぞれ持っていて、その固有領域の中に庇護下におく種族を住まわせている。固有領域をもっているのは人間だけじゃないから気を付けるといい。
ボクスーデは身体能力を可視化することはできないが、現地住民によってそれなりに強さのランク付けはされてあるからそれを基準にするといい。
ほかにも伝えたい事項があるけど、干渉していい範囲ギリギリだから最後に一つ。
1年以内に固有領域を2つ以上奪取しないと、無条件で君のダンジョンの守護者を全員の存在を抹消し、君の記憶からも抹消する。
管理者より
』
なんでメールみたいな形式で情報を送ってきたんだ。薬の成分表見たく箇条書きみたいな感じでいいのに。
名前とか日数は絶対だからそれでいいんだけど、一日が30時間っていうのは、この星の自転が現代地球で換算して30時間という状態なのか、この世界の時間の考え方が30進法なのかはっきりした書き方してほしいな。
……僕の気にしすぎなのかな?
問題は次の内容からだよね。統治者って単語がもう怖い。ついさっき”監督者”とか”管理者”に遭ったばっかりだからその系統なのか、それとも総理とか大統領とかみたいな感じなのかさっぱりわからない。
そして固有領域ときた。その中に誰かしらを住まわせているってことは、現実世界にその領域があるってことでいいのかな。人間以外の種族って言うと、まぁファンタジー特有の獣人エルフドワーフその他諸々だろうな。
身体能力の可視化ってなに?ほんとになに?身体能力を可視化できる状態が分からないから、わざわざ”できないが”って書かれても困るよ。
この最後の内容が一番怖い。つまりは400日以内に、統治者から固有領域を自分のものにしないといけない。達成できなかったら寝たきり生活でのほぼ唯一の希望だった愛すべき守護者達の存在が記憶から抹消されてしまうと。
つまり、と言っておきながら何にも要約できてないけどそういうことだ。星全部ダンジョンにしろとかなんとかの件(くだり)を僕が達成しそうにないからって、無理やりしなきゃいけないように仕向けてきたのかな……?
この内容を無視して、彼女たちと緩やかな生活を送れていけたらいいな。とも思うけれど、もしこれが本当の内容であった時、消えてしまうのは僕じゃなくて彼女たちなわけだ。
そんな結末を迎えたくはない。
「やるしかないのか。」
思わず口に出てしまったが、やるしかない。クリアするべき条件とクリアのためのヒントはもう貰っているんだ。前向きにいこう。
まず、固有領域を持っている人物を探すところから始めなければならない。そのためにも、ダンジョンの外を把握しなければ。
ダンジョンマスター権限のマップの機能は、あくまでもダンジョン内のことをマップとして把握できるだけのようだった。なので、ダンジョンの外の様子に関しては自力で見ていくしかない。自力と言ってもおそらくは、彼女たちの中の誰かにやってもらうことになるんだろうけど。
その場合、問題になってくるのは人選だ。少なくとも頭が回る人物でないと、いくら調査をするだけとはいえ想定外の状況に対応しきれなかった場合が怖い。
指名した人物より強い生物が出てきたときは最悪死んでしまうし、もし人間が出てきたとき殺してしまえば友好的に固有領域を奪える可能性が激減する。
かといって、頭が良すぎる人物を行かせると、今度はダンジョン内部の統制が利かなくなるかもしれない。
「この場合の適任だと、アイリーンか。」
守護者統括であるレティーシャ・ゴドウィンを補佐する役目、かつ妹という設定にしたアイリーン・ゴドウィン。補佐という設定だったものの彼女には、ダンジョンの前半までの守護者統括みたいな役回りをさせていた。
この世界の生物がどれくらいの強さを持っているかは分からない。だけれども、種族のモチーフをフェニックスにしたこともありかなりの高い再生能力がある。……という設定だ。ゲーム内とこの世界で、再生能力がどんな違いとしてでるのか分からないのが怖い。
「お呼びでしょうか?」
目の前にアイリーンが立っていた。いつの間にかいた。……?瞬きなんてしてなかったはずだけどな。
背丈は165センチぐらいで、鮮やかな朱色の髪の毛がボブカットになっている。フェニックスから火の鳥を連想して、まぁなんとなく紅色のチャイナドレスを着ている。裾はしっかりくるぶしまで伸ばし、スリットは膝の少し上ぐらいまで。厚底のサンダルみたいな感じの靴を履いており、足の甲が見える。
僕を見つめる目はオッドアイで、右目が橙色。左目が緋色。というそのコントラストがゲーム内での描画と全然違う解像度で見ることができて、だいぶ感動している。
「レティーシャは――」
「ここに」
「――まぁいいかな」
アイリーンの隣に当然のように瞬時に現れたが、瞬きをしていないのに次の瞬間視界にいるのが若干恐ろしい。というかまだ言い切ってなかったぞ……?
あれ?そういえば、今の僕をダンジョンマスターとして認識してる?あぁ、それはどうにかなったんだっけ。
時間軸としては、彼女が僕を殺してから一日経ったあとだったはず……。どういう認識で今この場にいるのかな?
「昨日のこと、誠に申し訳なく思っております。」
呑気にそんなことを考えていたら、レティーシャは土下座をしていた。
理想の箱庭ができるまで 松田竹埋 @syoutikubai10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。理想の箱庭ができるまでの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます