エピローグ

 レイシアちゃん復活! 色々あっちゃったけど、無事にレイシアちゃんは復活することができました。というのも、どうやらソフィアちゃんが瀕死の私を治してくれたみたい。

 治してくれたことも嬉しかったんだけど、私はソフィアちゃんが魔術を使えるようになったことが驚きだね。なんだかんだすぐに編み出しちゃったよね? センスあるよ!

 ソフィアちゃんの魔術は治癒に特化している。それによって今回怪我しちゃったミラとかライダとか他の皆はすぐに治すことができた。

 皆はソフィアちゃんに感謝! だけど「今回は私のせいで迷惑をかけてしまったので……」って言ってた。今回は私を始めとしてたくさん部下が怪我しちゃったからね、かなり大変だったはずなんだけど、ソフィアちゃんは黙々と最後まで治してみせた。

 ま、まぁ……最後は魔力がなくなっちゃって倒れたんだけどね。あの時は焦ったよ。

 ―――その話は置いておいて。

 これから私達は旅に出ることにします。

『早く荷物を馬車に積めよー』

『おい、食料足んねぇぞ!』

『近くの街で買って来るから金をくれ、金を!』

 集まっていた湖畔の麓。そこには多くの馬車が並んでいて、皆が慌ただしく動いてる。

 アジトが知られているから戻ることもできない。それに、王国に喧嘩を売ったような一件だったからこの国にいるわけにはいかない。

 だから私達は旅に出るのです! というより、新しい拠点探しだね。

「う~ん……でも暇だなぁ」

 湖に足をつけて、暇を紛らわせるようにぴちゃぴちゃって足をバタつかせる。

 皆「当主にやらせる仕事じゃないから」って言ってお手伝いさせてくれないんだもん。いや「普通に手伝いたんだけど」っていう私の気持ちはスルー。悲しい。

 ライダは皆に指示を飛ばして忙しそう。こういう仕事は、やっぱりライダじゃないとなーって遠目で見て思ってます。

 ミラは離れた場所で一人右目を抉り出して壊れた魔術具を元に戻そうとしてる。

 右目はソフィアちゃんのおかげで治ったし、今まで通り魔術を使える状態にしたいからっていう話……邪魔しちゃ悪いから暇だけど話しかけにいかない。っていうか、右目を抉るって結構グロいからあまり見たくない……だから、絶賛暇です。遊んでくれる人募集中でーす。

「当主様、こちらにいらしていたのですね」

 暇をこれでもかっていうぐらい持て余していると、不意にソフィアちゃんがやって来た。

「こちらにっていうけど、ずっと私ここにいたんだからね?」

 誰も何もさせてくれないから。

「病み上がりですから安静第一です。私自身、自分の魔術がちゃんと理解できているわけではありませんので、完全に治せたとも言い切れませんから」

「ぶー、そんなこと言ったら他の皆もそうなのにー」

「ふふっ、それは当主様だからこそですよ。皆様、当主様のことが心配なのです」

 心配してくれるのはさ、嬉しいんだけどさ……一人だけ何もしないって、むずむずするんだよね。気まずいっていうかさ。

 ピチャン、って。不貞腐れてますよ感をアピールするために私は足を上げて水面に波紋を生ませる。ちょっと楽しい。ひんやりしてて気持ちがいいんだよね。

「……当主様」

 私がそんなことをしていると、ソフィアが私の横に腰を下ろしてきた。

「ありがとうございます、色々と」

 湖畔を包む心地よいそよ風が輝く金髪を揺らす。

 小さくて上品に笑うソフィアちゃんの姿は湖畔に現れた女神様のようだなって思った。

「それは今回のこと?」

「それもありますが……全てですね、あの時助けてもらった時から全ての話です」

 綺麗な琥珀色の双眸が私に向けられる。

「私がこの場所にいられるのは当主様のおかげです。一人になってしまった私に手を差し伸べてくれて、眩しいほどの背中を見せてもらって、居場所をもらって、あなたの理想を見続けたいと思わせてくれた———これは全て、当主様のおかげなのです」

 たまたま寄った場所にソフィアちゃんがいて、成り行きで助けることになった。

 この出会いが運命なんて大層なものじゃないのは分かってるけど、今隣に座るソフィアちゃんがいるのは間違いなくあの時に出会ったからだ。

 そして、私が理想を追いかけ続けたからこそ出会えたといっても過言じゃないと思う。

「気にしないで、私の方こそありがとうだよ」

「どうしてですか?」

「私と出会ってくれて。これで私は家族がまた増えちゃったから」

私のおかげ……そう言ってくれてるけど、私だけが全部与えたわけじゃない。

 私だってソフィアちゃんにはもらったものがある。守りたいって思える気持ちは素晴らしいことだし、間違いだと分かってる理想を肯定してくれる人がついて来てくれるのは嬉しいこと。

 誰でもいいわけじゃない、優しくて一緒にいて楽しいソフィアちゃんだから嬉しいって思う。

 ミラも、ライダも、ファミリーの皆も……ソフィアちゃんと出会ったことに感謝してるはずなんだよ。家族になってくれてありがとう、って。

「私達は悪党だからさ、これからも危ないこととか世間からは冷たい目を向けられると思うんだ。いっぱい指名手配されてるし、見つかっちゃったら捕まっちゃう」

「ふふっ、そうですね。ですが、もう一度牢屋の中というのはこりごりです」

「でしょ? あんまり好きで喧嘩を売りたいわけじゃないから、捕まらないようにしないとね」

「ですが、今度は私も……ファミリーの皆様が困っていたら助けてあげたいです」

 皆様には笑ってほしいですから、と。ソフィアちゃんは小さく微笑んだ。

「……いい理想だと思うな、私は」

「そう言っていただけると嬉しいです。何せ、私だけの理想ですから」

「そっか……」

 ―――皆が笑っていられるような世界を。

 優しいソフィアちゃんらしい理想だと思う。そして、その理想を私達に向けてくれたことは誇らしくて……とても嬉しい。

「ねぇ、ソフィアちゃん―――」

 今、幸せかな? そう問いかけると、

「幸せですよ、これ以上ないぐらいに」

 ソフィアちゃんは心の底から満足しているような、晴れやかな笑みを浮かべてくれた。

 ……ちゃんと、あの時「最後まで助けてあげるね」って言葉を守れた。

(そっか……)

 私は今回も、ちゃんと理想を追いかけることができたんだね―――

『おーい、当主! そろそろ出発するぞー!』 

 積み荷を纏め終わったのか、馬車が並ぶ場所でライダが私を大声で呼んできた。

「それでは、行きましょうか当主様」

「うんっ!」

 ソフィアちゃんが先に立ち上がって、私に手を差し伸べてくれる。

「これからまた新しい旅の始まりだね!」

「ふふっ、そうですね。私、この国以外の場所に行くのは初めてですので楽しみです」

 皆の下に向かう私の後ろをソフィアちゃんが歩く。

「大丈夫、きっと楽しいはずだよ!」

 私達は悪党だけど、皆がいるから。私の理想を肯定してついて来てくれる人がいるから。

 これからも、理想を追い続ける限り―――皆がいる限り、退屈のしない有意義な人生が待っているはずなんだよ!

「さぁ、行こっか!」

 何せこの私は———


「まだまだ頑張るよ! 大悪党という理想を追いかける人生を!」


 私を変えてくれた大悪党を追いかける、レイシアファミリーの当主なんだから。

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