天使と悪魔の二刀流(世界平和に向けて、その➀)

月猫

第1話 それぞれの未来。

 炉史杏ロシアンの願い。


 神様、聞いて下さい。

 私の恋人が、最近、菜斗ナトさんと仲良しなんです。

 ずっと私のそばにいてくれるって思っていたのに……

 お願いです。

 彼の心を、私に戻して下さい。

 そうしなければ、私は彼を……

 コ・ロ・シ・テ・シ・マ・ウ・カ・モ。




 宇久來楠ウクライナンの願い。


 神様、聞いて下さい。

 俺は、炉史杏ロシアンが好きでした。

 でも、だんだんと価値観が違ってきたんだ。

 俺は、同じ価値観を持つ菜斗ナトと一緒にいたいんです。

 だから、炉史杏ロシアンが俺のことを諦めてくれますように……



 これを聞いた神は、天界の瑠使ルシを呼んだ。


瑠使ルシよ。恋の三角関係に悩む二人の願いの結末は、お主に任せよう」


 仕事を任された瑠使ルシは、困った。

 炉史杏ロシアンは、恋人が自分の元へ戻ることを望んでいる。

 しかし、宇久來楠ウクライナンの心の中を覗いて見れば、それは無理な話だとわかる。


 一番良い解決法は、炉史杏ロシアン宇久來楠ウクライナンの幸せを願い、この恋に終止符を打つことだ。しがみ付かなければ、新しい愛を用意してやれる。それも、とびきり幸せになれる相手を見つけてやろうと思った。


 瑠使ルシは、炉史杏ロシアンに賭けてみることにした。

 

 炉史杏ロシアンが本当に宇久來楠ウクライナンを愛しているなら、きっと彼を傷つけたりはしない。怒りに身を任せて銃を向けたとしても、発砲はしないだろうと思ったのだ。


 瑠使ルシは、二人を見守っていた。


 人通りのない路地裏で、激しく言い争う炉史杏ロシアン宇久來楠ウクライナン

炉史杏ロシアン。もう、君とは終わったんだ。俺を追いかけるのはやめてくれ!」

「嫌よ! もう一度、やり直しましょう。お願い、宇久來楠ウクライナン


 炉史杏ロシアンが涙を流しながら銃を構えている。

宇久來楠ウクライナン菜斗ナトと別れて! もう一度、私の所へ戻って来て‼」

炉史杏ロシアンすまない。もう、君とは一緒にいられない。でも、君には感謝している。俺を今まで支えてくれてありがとう」


 瑠使ルシは、ここで炉史杏ロシアンが泣きながら銃を手離す…… と予想していた。

 そうして欲しいと願っていた。


 しかし、炉史杏ロシアンは引き金を引いてしまったのだ。

 慌てて、玉の軌道を変える瑠使ルシ

 玉は外れたが、この一発で宇久來楠ウクライナンの心にも怒りが生まれてしまった。


 瑠使ルシは焦った。

 もうすぐ菜斗ナトが銃を持ち、宇久來楠ウクライナンの元へ駆けつける。

 恋人を助けるために……

 そして、菜斗ナトから銃を受け取った宇久來楠ウクライナンは銃口をかつての恋人に向けるのだ。

 きっと、どちらかが倒れるまで発砲し続けるだろう。


 こうなると、瑠使ルシの天使としての仕事は終わりだ。

 

「ここからは、悪魔として仕事をするしかないな」

 瑠使ルシはそう呟くと、未来を書き換えた。


 まずは炉史杏ロシアンから、幸せの道を奪い取る。

 憎しみの果て、血の海の中で息を引き取る未来を与えた。

 死後も浮かばれない魂。

 地獄へと案内する。


 宇久來楠ウクライナン菜斗ナトは……

 はて、どうしたものかと瑠使ルシは考えた。


 悪魔として二人に与える未来は、悲劇だ。

 憎しみと失意のどん底で死ぬ二人。

 それも可哀そうな気がする。

 

 そう、瑠使ルシは天使と悪魔の二刀流。

 どちらの仕事もこなせるのである。


 宇久來楠ウクライナン菜斗ナトには……。 

 悲しみや苦しみを乗り越えて幸せになる未来を残しておこう。


 瑠使ルシは、天使として二人に未来を与えた。


 三人の未来を書き換えた瑠使ルシは、下を見下ろした。

 赤黒い血の吹き溜まりの中で、空を睨みながら息絶える炉史杏ロシアンの姿があった。

 

炉史杏ロシアン、お前が持つべきものは、憎しみと銃ではなく、大きく深い愛だったんだよ」

 

 瑠使ルシはそう呟いた。


                完

 

 


 


 


 


 


 

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天使と悪魔の二刀流(世界平和に向けて、その➀) 月猫 @tukitohositoneko

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