さあゴッドを鍛えましょう!

 迷宮都市キャストルリアーヌは大迷宮の高難易度エリア第百階層。

 即ち最下層に到着しました。

 両開きの重厚な黒い扉を開けると、――そこにはひとりの般若の面を被った老人が立っていました。

 背筋はピンとまっすぐに立っており、軽鎧を身に着けています。

 手の甲のシワや首元のシワで老人と分かりますが、それがなければ青年だと誤認したやもしれません。

 それほどまでに姿勢よく立っている老人の手には、紛れもなく日本刀の輝きがありました。


《よくぞ参った。儂はダンジョンマスター。この重合迷宮の管理者なり》


「ほほう。ダンジョンマスターですか。私以外にものですね」


《左様。儂はもう過去の人物。死に絶えた存在。されど》


「されど?」


《神域に足を踏み入れた剣士でもある。さあかかってこい、小娘ども。我が城を破壊せんとする狼藉者どもよ。共に討ち果たしてくれようぞッ》


 シャラン、という金属音が鳴ると、銀狐が私の目の前を走り抜けました。


 はっや!?


 第六感がなければ首をはねられていたかもしれません。

 咄嗟に一歩、後退しなければ死んでいた……?

 ははは、これは凄い使い手がいたもんですね!!


「ミアラッハ、これは化け物ですよ!!」


「嘘、動きを目で追えなかった!? クライニア、そいつは――」


「私の獲物ですッ!!」


 〈ストレージ〉からアダマンタイトの魔法の剣を抜き放ち、聖戦を発動して斬りかかります。

 黒の重撃。

 闇と重力の波動が尾を引いて地面にクレーターを穿ちました。


 既にその身は目の前になく、日本刀を持った般若面の老人は空中から斬撃の嵐を見舞ってきます。

 重力を反転し、黒の剣を跳ね上げて迎撃。

 〈次元断〉を起動しつつ雨あられと降り注ぐ剣閃を砕き、老人に目掛けて黒の一刀を振り上げます。


 とん、と私の剣を足蹴にして老人は軽やかに飛びました。


 空間を削り取る剣術をどうやって足場にしたのやら。

 もはや条理を捻じ曲げるのが当たり前になっているのでしょうね。


 コイツは一筋縄じゃあいかないデスよ!!


 回転して背後に飛んだ老人を追いかけます。


 〈ディメンションスピア〉による〈瞬殺コンボ〉、その数十五発。

 急所に向けて切っ先がグニャリと曲がって追尾します。


 それらを二、三度ほど日本刀を振って切り捨てた老人は、再び最速の一刀を私に向けて放ちます。

 第六感が遅すぎる警戒を発しました。

 白い円弧が黒の重撃に阻まれ砕けますが、老人は意にも介さず、追撃に移ります。


 クルクル回るダンスのように、私を中心にして老人が剣戟を放ちます。

 私は黒の剣で応じ、銀の連撃と切り結びます。


 ギンギン、という音が小刻みに耳朶を震わせ、両手に振動が絶え間なく伝わり、視界は黒を盾に白を阻み、拒み、遠ざけ、重い剣が細身のゆるやかな弧を描く日本刀を何度も何度も何度も何度も弾き返しました。


《ようやる。小娘のくせに》


「よくやる。老骨のくせに」


《さあさ、その首、置いてけ》


「それはできかねる相談です」


 スピードアップする死のダンス。

 テンポアップする死のステップ。


 終わりが近い。


 威圧、畏怖、誘惑。


 精神をコロせ、肉体を凌駕した化け物には死の誘惑こそが相応しい。


 さあフィナーレだ!!

 〈多重魔力腕、マジックハンド、同時発動、ディメンションソード、砕破〉!!


 四方八方から十五の剣戟が口を開けて老人を飲み込み、咀嚼します。


《お美事》


「あばよ」


 バキリ、と日本刀が折れた音がしました。


 静寂――。


 * * *


 一歩、踏み越えた感覚を得ました。

 それは神域の剣技。


 一歩、踏み越えた感覚を得ました。

 それは神域の魔法。


 我が剣は神を斬り、我が魔法は神を屠ることでしょう。


 脳がドクドクと鼓動します。


「勝ったよ、ミアラッハ」


「うん。おめでとう、クライニア」


 温かいものが背中から覆いかぶさってきました。


「死んじゃうかと思ったわ。馬鹿」


「それは――」


「もうひとりで戦わないでよ。私もアテにしてよ」


「――うん」


 私は迷宮管理から迷宮支配を実行しました。


《この迷宮を支配下に置きますか?》


 イエス。


 DPをクライニア帝国にすべて移します。


 そして迷宮破壊を起動しました。


 * * *


 迷宮都市キャストルリアーヌの中心部、大迷宮の扉はその装飾の一切が剥がれ落ち、扉は叫声を上げるかのような軋む音とともに、中の冒険者たちを吐き出し始めました。


「なんだ?」

「なにが起こった?」

「おい、どうして――」

「外か?」

「魔物は――」


 声がします。

 様々な声が地上に戻ってきているのです。


 すぐにこの場が人でごった返すと分かったので、私はミアラッハの手を取って走り出しました。


「ちょ、引っ張らないで!」


「早くここから離れよう!!」


「分かった、分かったから!」


「さあ逃げよう!!」


 私たちは走ります。

 一目散に家に向けて走りました。


 やった、ようやく大迷宮を攻略した。

 これで、私は――。


「もう、待っててば!!!!」


「あう」


 ミアラッハに引っ張られて足を止めました。

 大迷宮は冒険者を吐き出し続けています。


「ここまで来れば大丈夫でしょ?」


「あー、うん。でも早く逃げようよ。冒険者ギルドが出てくる前に」


「んんー、そうだね。でも走らなくても良くない?」


「まあね。じゃあ歩こう」


 手を繋いで、家まで歩きます。

 背後がどんどんと騒がしくなっていく中で、私たちふたりは静かにあるき続けました。


 転職を起動します。


《【転職】

 ルーンナイト(レベル45)

 ノーブル(レベル55)

 ファイター(レベル61)

 スカウト(レベル68)

 フェンサー(レベル52)

 ランサー(レベル52)

 ライダー(レベル62)

 グラップラー(レベル31)

 プリースト(レベル20)

 メイジ(レベル40)

 ブラックスミス(レベル50)

 アルケミスト(レベル26)

 マーチャント(レベル1)

 オフィシャル(レベル1)

 メイド(レベル1)

 トリックスター(レベル28)

 テイマー(レベル60)

 バード(レベル30)

 ダンサー(レベル50)

 ロード(レベル25)

 ウォーロード(レベル26)

 カースドナイト(レベル1)

 アサシン(レベル21)

 ハンター(レベル1)

 エクスカリバー(レベル100)

 グングニル(レベル100)

 ドラゴンナイト(レベル1)

 チャンピオン(レベル20)

 ビショップ(レベル23)

 オラクル(レベル1)

 セージ(レベル24)

 ウィザード(レベル100)

 サモナー(レベル60)

 ネクロマンサー(レベル1)

 パペットマンサー(レベル20)

 パラディン(レベル30)

 モンク(レベル21)

 バトルマスター(レベル100)

 セイント(レベル100)

 ハーミット(レベル100)

 ダンジョンマスター(レベル100)

 エンペラー(レベル100)

 サムライ(レベル1)

 ゴッド(レベル1)》


 クラスが増えていますね。

 サムライとゴッドです。

 ゴッドは創世神との約束通り、神になるクラスでしょう。

 ではサムライは?

 恐らくですが、最後の老人が流派創始で作った日本刀を操るクラスではないでしょうか。

 倒したことで前提を満たしたのか、それとも死の間際に老人が私に伝承したのか、分かりませんけどね。


 さてルーンナイトのレベルが40を越え【?】がひとつありますので、確定しましょう。

 新しいスキルは?

 【?無効】です。

 どうやら属性ひとつを選択して、それを無効化するようですね。

 ここは時空属性を指定しましょう。

 精神汚染のある闇属性と迷いましたが、精神攻撃には〈マインドプロテクション〉があります。

 時空属性の攻撃魔法を無効化する方がお得でしょう。

 というわけで【時空無効】を習得です。


 ひとまずルーンナイトは置いておいて、ゴッドにクラスチェンジしてみましょう。


《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ゴッド レベル 1

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【ルテイニア地方語】【算術】

     【礼儀作法】【宮廷語】【全属性魔法】【闘気法】【真闘気法】

     【聖闘気】【神気】【練気】【仙術】【呪歌】【魔曲】【舞踏】

     【馬術】【騎乗】【人馬一体】【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】

     【量産】【人形使役】【剣技】【剣術】【葬剣】【剣理】【槍技】

     【槍術】【葬槍】【槍理】【鎚技】【剛力】【二刀流】【多刀流】

     【武器伸長】【霊鎧】【聖殻】【素手格闘】【投げ】【関節技】

     【無刀取り】【格闘術】【回避】【対人戦闘】【先の先】【後の先】

     【魔法斬り】【鎧貫き】【手加減】【突撃】【気配察知】【罠感知】

     【罠設置】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【魔法収束】

     【魔力自動回復】【同時発動】【多重魔力腕】【消費魔力軽減】

     【多重詠唱】【無詠唱】【魔法武器化】【魔力強化】【耐性貫通】

     【怪力】【宗匠】【俊足】【跳躍】【魅力】【気品】【美声】

     【カリスマ】【威厳】【獅子心】【幸運】【夜目】【鷹の目】【心眼】

     【第六感】【過去視】【未来視】【夜の王】【毒無効】【時空無効】

     【不眠不休】【誘惑】【威圧】【畏怖】【指揮】【鼓舞】【士気高揚】

     【戦技教導】【福音】【変身】【光輪】【光翼】【飛翔】【不滅】

     【絶対命令】【聖戦】【魔法創造】【剣術創造】【槍術創造】

     【流派創始】【創世神信仰】【神託】【シャルセアとの絆】

     【ルマニールとの絆】【ヨルガリアとの絆】【アルマルドとの絆】

     【小型召喚】【騎獣強化】【迷宮管理】【迷宮帰還】【迷宮の申し子】

     【迷宮外設置】【迷宮介入】【迷宮破壊】【才気煥発】【経験値20倍】

     【熟練度20倍】【転職】》


 【神気】が増えましたね。

 これが魔法の武器さえも遮る神の纏うオーラですか。

 攻撃に乗せることで相手の神気を相殺もできるらしいですね。


 さて家に戻って、〈ディメンションゲート〉で帝国に帰還します。

 冒険者ギルドにはグレータードラゴンとエルダードラゴンの素材を卸しました。

 エルダードラゴンも死んだところで神性を失ったらしく、オリハルコンのナイフで解体ができるらしいです。

 剥製にしますか? と問われましたが、グレータードラゴンの剥製もあることですし、素材にしてもらうことにしました。


 夕食を摂ったら、リュートの練習です。

 神になったからと言っても、上達するわけじゃないですからね。

 地道な努力が必要なのです。


 夜が来ました。

 さあゴッドを鍛えましょう!

 莫大なDPが入ったので、オーガ先生を強化します。

 ランサー100レベル、グングニル100レベルです!!

 さあ、いざ尋常に勝負!!


 オーガ先生の攻撃を敢えて受けてみましたが、神気と聖殻でほぼノーダメージですね。

 即死無効の防具を着ているし、時空属性も無効です。

 安心してオーガ先生を蹂躙しました。


 夜が明ける頃になったので、ステータスを確認しましょう。

 …………は?

 ゴッドレベル43て。

 どうやらゴッドはレベルが上級クラスより上がりにくいらしいですね。

 さすが神、一筋縄じゃいきませんか。

 とはいえレベル20と40のスキルが増えます。

 新しいスキルは?

 【神の手】と【千里眼】です。

 神の手は生産系スキルに高い補正があるというものです。

 千里眼はその名の通り、遠くの景色を視ることのできるスキルです。

 どちらも強力ですが、もっと破壊力を高めるスキルが欲しかったものです。


《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ゴッド レベル 43

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【ルテイニア地方語】【算術】

     【礼儀作法】【宮廷語】【全属性魔法】【闘気法】【真闘気法】

     【聖闘気】【神気】【練気】【仙術】【呪歌】【魔曲】【舞踏】

     【馬術】【騎乗】【人馬一体】【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】

     【量産】【神の手】【人形使役】【剣技】【剣術】【葬剣】【剣理】

     【槍技】【槍術】【葬槍】【槍理】【鎚技】【剛力】【二刀流】

     【多刀流】【武器伸長】【霊鎧】【聖殻】【素手格闘】【投げ】

     【関節技】【無刀取り】【格闘術】【回避】【対人戦闘】【先の先】

     【後の先】【魔法斬り】【鎧貫き】【手加減】【突撃】【気配察知】

     【罠感知】【罠設置】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【魔法収束】

     【魔力自動回復】【同時発動】【多重魔力腕】【消費魔力軽減】

     【多重詠唱】【無詠唱】【魔法武器化】【魔力強化】【耐性貫通】

     【怪力】【宗匠】【俊足】【跳躍】【魅力】【気品】【美声】

     【カリスマ】【威厳】【獅子心】【幸運】【夜目】【鷹の目】【心眼】

     【第六感】【過去視】【未来視】【千里眼】【夜の王】【毒無効】

     【時空無効】【不眠不休】【誘惑】【威圧】【畏怖】【指揮】【鼓舞】

     【士気高揚】【戦技教導】【福音】【変身】【光輪】【光翼】【飛翔】

     【不滅】【絶対命令】【聖戦】【魔法創造】【剣術創造】【槍術創造】

     【流派創始】【創世神信仰】【神託】【シャルセアとの絆】

     【ルマニールとの絆】【ヨルガリアとの絆】【アルマルドとの絆】

     【小型召喚】【騎獣強化】【迷宮管理】【迷宮帰還】【迷宮の申し子】

     【迷宮外設置】【迷宮介入】【迷宮破壊】【才気煥発】【経験値20倍】

     【熟練度20倍】【転職】》


 久々に鍛冶をしてみるのもいいかもしれませんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「ステータスバグで人生が終わった!!」と思ったら前世の記憶が蘇り日本語で書かれたチートスキルを入手したご令嬢の冒険譚 イ尹口欠 @14ibuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ