【2】

 「──で、一体何がどうすればこんな事態になるんだよ!?」


 ボクは、蛇神様の化身に文句を言った。


 『何か不満かえ? お主の献身的な協力に報いて、ワシとしては約束は守ったはずだが』


 しれっとした顔で、そう言ってのける蛇神様の化身──というか、全長30センチくらいの蛇。


 うん、確かに、この蛇神は“鷺澤繰魅の身体”からは出て行ってくれたさ。

 そのための儀式として、くるみちゃんと初体験できたのは、正直、感謝してる部分がないでもない(ヤってる最中は、くるみちゃんの意識を表に出しておいてくれたし)。


 事前の説明だと、てっきり精力を極限まで搾り取られるか、あるいは最悪、僕の体の方を乗っ取られるかもしれないと思ってたんだけど。


 『今更そんな悪霊じみた真似はせぬわ!』


 ボクの部屋のクッションの上でとぐろを巻いた蛇神様は、シャーッと舌を震わせてお怒りだ。


 「いや、この仕打ちもどうかと思うけどね」


 ボクは、複雑な表情で部屋の片隅に置かれた姿見を覗き込んだ。


 腰近くまで伸びた癖のない藍色の髪は綺麗に櫛で梳かされ、前髪のひと房をクローバー型の髪飾りでまとめられている。


 服装は、見慣れた恒聖高校ウチの制服──ただし、白のブラウスに膝丈のプリーツスカートを履き、クリーム色のカーディガンを羽織った“女子用”の合服だけど。


 顔立ちそのものはほとんど変化してないものの、眉の形を整えられ、薄く化粧されただけで、まるっきり女の子(それも結構可愛い子)に見える。


 「女装か?」って? それならまだ良かったんだけど……。


 溜め息をつきながら、大き過ぎず小さ過ぎない絶妙な大きさに膨らんだ胸に手を当てる。


──ムニュッ!


 パッドとかではあり得ない、生身の“肉”の感覚が、掌と胸そのものから伝わってくる。

 言うまでもなく下半身の方も、しっかりきっぱり女の子のソコに変わっていて、お尻はちょっぴり安産型だし、アソコも立ち小便のできない形状になってしまった。


 『うむ。氏子たるお主の、献身的な協力に感謝しよう』


 いけしゃあしゃあと、そんな事をのたまう蛇神様。


 そう、この祟り神は、“僕のマーラー様(比喩表現)”を媒体に実体化しやがったんだ!


 その“霊的な反動”とやらで、バット(比喩表現)が抜けたボクの身体は、単にチ●コがないだけでなく、ボール(比喩)も体内に引っ込んで、女性化しちゃうハメになった。


 不幸中の幸いは、蛇神様がボクの周囲にかけてくれた暗示のおかげで、元から逸架史郎(いつか・しろう)という男じゃなく、史緒梨(しおり)という女の子と認識されていることか。それはそれで恥ずかしいんだけどね。


 「まさか、ずっとこのままってコトはないよね?」


 『案ずるな。今のペースなら、半年か、長くても1年と経たずにワシが自力で実体化できるだけの霊力を蓄積できるだろう』


 最長1年かぁ。まぁ、一生このまんまなのに比べればはるかにマシだよな。

 藁にも縋る想いで、ウチの高校にいる“そのテの事”に詳しそうな人間──オカルト研の会長と、彼に紹介された“オタスケ倶楽部”とかいう同好会の連中に相談もしてみたんだけど、ソッチで霊視てもらった結果も、大体似たような結果モンだったし。


 『ただし、「今の霊力供給ペースを維持すれば」の話だぞ?』


 う……わ、わかってるよ!


 そう。蛇神様のこの姿は、あくまで霊力を集めるまでの仮の身体。このままだとヤバい状況ってのは、あまり変わってないんだ。

 じゃあ、速やかに霊力を収集するためにはどうすればいいかと言えば……。


 そこまで考えたところで、ボクは背後から何か柔らかいもの(いや、この時点で何者かは気付いてるけど)に抱きつかれた。


 「おはようございます、史郎くん♪」


 制服越しにでもわかる背中に当たる双丘の感触が嬉しいこの子は、もちろんボクの恋人の鷺澤繰魅だ。

 もっとも、以前の(清楚で地味めの)くるみちゃんしか知らない人間が今の彼女を見たら、目を疑うかもしれないけど。


 もともと、目立たないけどよく見れば極上の美少女の素質はあったんだ。ボクとつきあうようになって、それが少しずつ開花してたんだけど、先日、この蛇神様がらみの事情(情事ともいう)で一線を越えてから、一気に満開状態になった。


 「ささ、今日も朝のお勤めに励みましょう」


 さらに、お互いの恥ずかしい部位や状態を思う様さらけ出した反動か、ボクに対して、メチャメチャ積極的になっているし。恋愛面でも──性的な面でも。


 「ま、待っ……むぐぐンンンーーーーッ!」


 制止の言葉を口にする前に、唇を奪われてしまう。

 ボクが男だった(いや、今だって気持ち的には男だけど)頃、何度かしたことがある拙いキスなんかメじゃない、濃厚なベーゼ。


 甘い唾液を絡め合いながら、舌を吸ったり、唇をねぶるように甘噛みされたり──それだけで、ボクの身体から力が抜けて、腰の奥がジーンと熱くなってくる。


 「んぁ……だ、だめだよぅ、くるみぃ~」

 「フフッ、そんな切なげな声でおねだりされてしまっては──わたくし、ますます昂ってしまいますわ♪」

 「そ、そんなぁ~」

 「それに……ほら!」

 「──ぁああン!」


 ブラウス越しにさわさわと胸のふくらみを揉まれて、思わず艶っぽい喘ぎを漏らしてしまう。


 「ほーら、史郎くん──いえ、史緒梨さんの胸の先っちょだってこんなに堅くなってるじゃありませんの。感じているのでしょう?」

 「そ、それは……」


 乳首の変化だけじゃなく、アソコが湿り始めているという自覚まであるので否定できない。


 「ぅぅ……これから学校なのにぃ~、また下着替えないと」

 「確かにそうですわね。じゃあ、早速脱ぎ☆ぬぎしましょ♪」


 普段はあまり手先が器用とは言えないはずのくるみだけど、こういう時だけ妙に手際よく、せっかく着替えたばかりのボクの制服を脱がせにかかる。

 しかも、“女の子の感じる場所”ばかりを重点的にさわさわと弄りながら、それをやるって言うんだから……。


 「ちょ、ちょっと、どこ触って……ひゃっ!」

 「も・ち・ろ・ん、史緒梨さんの大事なトコロ、ですわ♪」

 「ひっ……ンああぁぁぁあっ、だ、ダメェ!!」


 力の出ない身体をそのまま押し倒されて、たちまち半裸にされてしまう。

 ──というか、制服を脱がされて、ブラのフロントホックを外し、ショーツは太腿の半ばまでずり下げて、足にはスクールソックス履いたままって、下手な全裸よりエロい気がする。


 (嗚呼、どうせなら逆の立場でくるみのそんな姿を見たかった……)


 心の中でさめざめと泣いているボクの心境を知ってか知らずか、くるみは、ボクのおっぱいを優しく揉みしだく。


 「ひぁっ! だ、だからダメだってばぁ~」


 遮るものがないので、乳首がツんと尖っているのが見た目にもはっきりわかる。

 恥ずかしさのあまり、ボクはフルフルと首を振りながら制止の言葉を紡ぐのだけど、じつは心の奥にもっと触って欲しいという欲望が沸き上がってくるのを止められなかった。


 「ふふっ、口ではそんなコト言って──本当はもっとシてほしいんでしょう?」


 軽い“いぢめっこモード”に入ったくるみは、左手でボクの乳房をこね回しながら、右手を股間へと移動させる。


 「に゛ゃ゛あ゛ッ! だ、ダメ……あっ、やんっ!」


 くるみの指先が、淡い陰りに覆われたボクの下肢の合わせ目へするりと忍び込む。


 「あらあら、ずいぶんと濡れているのですね。こんなになるくらい気持ち良かったのですか?」

 「ぅぅっ……そ、それは」


 恥ずかさに口ごもるボクを優しい目で見つめつつ、くるみの指は的確にボクの弱点を見つけ、クニュクニュとまさぐってくるのだ。


 「あんっ! そ、そうです、気持ちイイですぅ!」


 我慢できずにそう白状すると、くるみの笑みがよりいっそう妖しくなり、今度は胸の頂きに吸い付いてきた。


 「ひゃっ! ちょ、それは……あぅんっ、ゃはン!」


 さくらんぼのように紅く充血した乳首を口に含まれ、チュウチュウと吸引され、舌先で転がされる。


 「あぁっ……キモチいい……いっ……あっ……んぁンッ!!」


 いつしかボクも声を押し殺すことを忘れて快感に喘ぐことしかできなくなっていた。


 「──そろそろ、準備はよろしいみたいですわね」


 三日月形に口の端を吊り上げて笑うくるみも、いつの間にかスカートごとショーツを下ろしている。


 その股間には、見慣れぬ──いや、ある意味“見慣れた”突起物が、雄々しく存在を自己主張していた。


 「すごく濡れてるから、手加減は必要ありませんわね」

 「──ふぇ? あふっ、あぁぁぁぁっ……!」


……

…………

………………


 ──ってな感じで、結局、毎朝&毎放課後、快楽に悶えさられ、流されるまま手籠めにされちゃうんだ。


 ちなみ、くるみの股間にあった(パオーン)は、蛇神様が一時的に擬態した代物だったりする。 


 当初は“百合女子御用達の双頭の連結棒”に擬態して、ボクとくるみの両方から交合時に発生する余剰霊力を吸い上げるって案もあったんだ。


 でも、興味本位でいろいろ試行錯誤した結果……。

 「くるみの股間のアレと化して、彼女がボクに“精”を注ぎ、その後、ボクがイッた瞬間に発生したエネルギーを吸い上げる」やり方を試して以来、ソレが蛇神様(&くるみ)のお気に入りスタイルとして定着しちゃって、現在はボクがほぼ一方的に“受けネコ”になってるんだよね。


 そりゃ、ハンパにふたりから半々吸い上げるより、元から地元の氏子で霊力的にも相性のいいボクからまとめて吸う方が、確かに霊力吸収の効率はいいだろうけどさぁ──ボクの男としてのプライドは、割かしズダボロだよ!


 「まぁまぁ、よろしいではありませんか。わたくし、優しくて格好よい史郎くんが大好きですけれど、物憂げな美少女の史緒梨さんも同じくらい好きでしてよ?」


 シャワーを浴び、服装をキチンと整えてから、ふたりで登校する途中、ニコニコしながらそんなことをのたまう、“逸架史緒梨の親友”と周囲に認識されているマイラバー・くるみん。


 くそぅ、そりゃ女の身体は確かに気持ちはいいけど、ボクにだってなけなしのプライドくらいはあるんだい。


 「通算成績37戦35敗2引き分けとは……」

 「あらあら、それはわたくしは生まれた時から“女”ですもの。幾分奥手ではありましたけど、女性歴半月ばかりのビギナーさんに遅れを取ることはさすがにありませんわ♪」


 そりゃ、理屈では分かるけどさぁ。


 「(フフッ、わたくしに“イかされる”ことには抵抗感があるみたいですけど、女性としての交わり自体にはだいぶ慣れてきたようですわね)まぁ、そこまでおっしゃるのでしたら、次の機会では、先手をお譲りしますから、御機嫌を直してくださいまし」


 彼女にニッコリ微笑まれて、恋人繋ぎで手を握られてしまうと、ボクもそれ以上不平を言う気をなくしてしまう。

 我ながらチョロいとは思うけど、惚れた弱みだから仕方ないよね!


 ──けれど、後日。結局、なんやかやで、高校卒業するまで完全な男に戻れず、卒業アルバムには女子制服姿で載ることになって、ボクは大いに後悔することになるのだった。


-終-

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恒聖高校めたもるグラフィティ 我が校はごく一般的な普通の学校ですよ? 嵐山之鬼子(KCA) @Arasiyama

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