8 学園長との手合わせ

 


 マレも学園長の強さについて気になっていた。

 無駄のない筋肉と身体中にある切り傷。

 幾千の修羅場を切り抜けたはずの証が学園長の身体に刻まれていた。


 マレは先手を取り、首を狙う。

 殺すつもりはないがギリギリで止めれば問題はないので全力で斬りかかる。

 しかしその斬撃は学園長の首には届かなかった。

 その刃は華麗に受け流され衝撃を全て吸収された。


 (この人強い!?)


 鍛え抜かれた剣術はまさに百戦錬磨。

 数年でこの技量の剣術を会得することは難しいだろう。

 

 マレは受け流された瞬間、相手の攻撃を警戒する。

 学園長の剣がマレの胴体へと迫る。

 マレはその斬撃を受け流すため剣を近づける。

 しかし学園長の剣はマレの剣に当たる直前に消えた。

 比喩でもなく本当に。

 そしてその剣はマレの頭に当たる寸前で止まっていた。


 「私の勝ちだな」


 「…参りました…」


 何だ今の剣の動きは…。

 あれは僕が十年間学んできた剣の動きではない、恐らくミレボ流とは違う別の流派だ。


 「今のはどうやったのですか?」


 「フッ。それはこの学園で学んでいく内にいずれ出来るようになるさ」


 「手合わせありがとうございました」


 「これからも励みたまえよ」


 「失礼します…」


 するとマレが学園長の部屋を出ようとすると学園長に呼び止められた。


 「マレ、鍵を忘れているぞ」


 どうやら鍵を落としてしまってきた様だ。


 「ありがとうございます」


 そして学園長の部屋を後にした。


 

 「マレ、何の話だったの?」


 「僕の部屋の話です。特待生だから少し特別な部屋を用意してくれているみたいなんです」


 「特別な部屋、ね…」


 「よかったら来ますか?」


 「いいの!?」


 「はい、良いですよ」


 「ありがとう!凄く楽しみだわ!」


 そして学園長から説明された場所へと足を運んだ。


 「ここが僕の部屋ですか…」


 着いた先は一般寮と同じ建物の最上階に位置する部屋だった。

 最上階にはこの部屋のみ、一つの部屋しか無かった。


 「入ってみましょうよ」


 「そうですね」


 取り敢えず鍵を差し込みドアを開ける。

 ドアを開けた先には広々とした空間が広がっていた。


 「ちょっと何よコレ…」


 「ものすごく広いですね」


 「こんなの私の部屋に比べたら天と地の差があるわよ!なんなのよこの部屋は!広すぎよ!」


 確かに入り口を見ただけで一人で住むには広すぎる部屋だった。


 「取り敢えず入りますか」


 「そ、そうね」


 部屋の中には普通の部屋が六つ、広々としたキッチンが二つ、お風呂が二つ、トイレが二つ、軽いスポーツが出来るほどの広さのリビング、それに加え学園長が言っていた稽古場。

 広さも申し分ない。


 「ここは屋敷か何かなの?広すぎよ!」


 「こんな所に一人で住むなんて何か申し訳なくなりますね…」


 「じゃあ仕方ないから私が毎日遊びに来てあげるわ!」


 「は、はあ…」


 「何よ、嫌なの?」


 「いえ、お待ちしてますよ…」


 「そうよね」


 そんなやりとりをしているとソフィアのお腹から"グゥー"と音がなった。


 「…何よ、お腹が減ったのよ!」


 「何か作りましょうか?」


 「マレ、貴方料理ができるの?」


 「ええ、少しですが」


 「凄いわ…、その歳で料理ができるなんて…」


 「そ、そうですか?」


 「そうよ。ところで何を作ってくれるの?」


 「そうですね、材料が何もないので買いに行きますか。この学園にはいろんなお店があるみたいですし」


 「そうなのね。着いて行っても良いかしら?」


 「もちろん良いですよ」


 そして学園の中にあるお店で生活に必要な物と、大量の食材を買った。


 「少し買いすぎましたね…」

 

 「ホントよ、ったく。めちゃくちゃ重たいじゃないの」


 「手伝ってもらったのでとっておきを作ってあげますよ」


 「本当!?期待してるわよ!」


 期待されてもあまり凝ったものは作れないが何を作ろうか。


 「何か食べたいものはありますか?」


 「そうね…サッパリしたものが良いわね」


 「分かりました。ではさっき買ったトマトを使ったパスタなんてどうでしょうか?」


 「いいわね!」


 調理を始めて数十分、トマトのパスタが完成した。


 「できましたよ」


 テーブルの上に並べた料理は様になっていた。


 「ちょっとマレ、貴方料理めちゃくちゃ上手じゃないの!」


 「そう言っていただけるとありがたいです」


 ソフィア先生と一緒に暮らしている時も料理を作るのを手伝っていた。

 そのおかげで少しは料理をすることは出来る。


 「それでは食べましょう。いただきます」


 「いただきます」


 ソフィアは夢中なって食べてくれた。

 自分で言うのもなんだがかなり美味しくできたな。


 「フゥー美味しかったわ…。ご馳走様、マレ」


 「また食べに来てください。歓迎しますよ」


 「本当?言ったわね!毎日来てあげるわ!」


 「はい、待ってます」


 何の遠慮もないんだな…。

 まあ一人で食べるより二人で食べた方が楽しいか。


 食事も終わったので明日の為に就寝の準備をしようと思ったがソフィアが帰る気配がない。


 「ソフィア、いつまでここにいるのですか?」


 「何よ、迷惑なの?」


 「…僕もそろそろ風呂に入ったりしたいのですが」

 

 「私は別に構わないわよ?」


 「僕は構わなくないのですが…」


 「…しょうがないわねそんなに言うなら今日のところは帰ってあげるわ。でもまた明日も来るんだからね!」


 「……」


 「じゃあまた明日ね!!」


 少し不機嫌そうにドアを強く閉めソフィアは帰って行った。


 


 


 


 

 


 


 


 


 


 


 


 

 


 

 

 

 


 

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隻腕の剣士〜腕を失った少年、剣神に拾われる〜 御霊 @ryutamatama

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