KAC20229 猫の手を借りた結果

@wizard-T

優しくしとけば良かった

「どう考えても戦果第一はクブニアだな」

「いや、サイナですよ」


 全くイヤミもなく、サラッと言いのける。


 サイナとか言うクブニアの膝の上で転がるが何をしたか、この場にいる騎士様たち全員が知っている。



 数百匹のゴブリンのうち90%ものそれを、蹴散らした猫を。




※※※※※※※※※

 



 クブニアって奴は、私らの中では代名詞になっていた。

 何の?それはもちろん、

「まったく、お前の剣術は見事だな」

「君こそ大した槍術の持ち主だな」

「でも魔術は」

「ああ、魔術はクブニアだな」




 そう、無能。


 

 みんな何らかのスキルを認められてこの学園に来るんだけど、クブニアだけは何の取り柄もなかった。

 取り柄って言うかスキルと言えば、テイマーとかって言うよくわからないそれだけ。


 先生が「どんな存在であろうが仲良くしろ」とかってうるさいから一応仲良しこよししてあげているだけで、パシリの価値もないろくでなしでしかなかった。


 実際クブニアはそのテイマーとかって能力で、寮に巣食うネズミとかゴキブリとかを駆除してはいたけど、その程度は誰でもできる。


「ようテイマーくーん、今日も掃除頼むわー」


 そう言って雑用を押し付けていたのは紛れもない事実。そのせいで先生からぶつくさ言われるのを防ぐために金を握らせていたけど、それをぜんぜん使おうとしないでせせこましく貯めるもんだから、本当にみみっちくて好感度下がりっぱなし。




 そんな奴の運命が変わったのは、西の山へ行った時。


「おいクブニア!」

「ちょっと待って」


 あいつが見つけた、小さな猫。


 黄色と黒の縞模様の、薄汚れた猫。


 

「あーあ、遅れるじゃねえかよ」

「いいんだよ、あれがあいつの趣味だから、少しは付き合ってやらねえと」

「うんうん」


 私たちはそうバカにしていた。「本業」を「趣味」呼ばわりし、必死に見下していた。実際これまでも外に出るたびに傷ついた生き物を見つけては餌付けし、テイムという名目でペットを増やしまくっていた。

 そのせいであいつは食費もまともに払えず、それで私らのバイトを請け負って食費まで稼ぎ出すんだから、本当にバカとしか思えなかった。


「って言うかあいつ、また飯抜きで過ごす気かよ」

「もうバカを通り越してなんていうか……」


 その度になけなしの食糧を与えては空きっ腹を抱えて歩き回り、必死に荷物持ちをやっている姿を見るとこっちが罪悪感を覚えて来る。

 その度にわかったよ持ってやるよとか食糧をわけてやるとか言い出させるのがテクニックだとしたら、まったく恐ろしい奴だ。


「でも今日は助けねえからな」

「うんそういう事だからー」



 私たちはあいつを置き去りにして、そのまま進んだ。


 すごく、清々した気分になれた。


 野垂れ死にした時の言い訳を考えながら、休むことなく歩き続けた。




※※※※※※※※※




「だから言ったんですよ、仲間を大事にしないと痛い目を見るって」

「…………」

「仲間だと思っていなかったと」

「……はい……」


 正直に言うしかなかった。


 だって実際、こんな無能なお人よしの権化みたいなやつを仲間と思った事はいっぺんもなかった。


「その仲間だと思っていなかったお荷物がなくなったと浮かれあがって暴走して、予想外だった大物が現れてみっともなく背中を向けていた三人を助けてくれたのはどこのどなたですか?」


 ねちっこい物言いに腹が立つが、全て正論だから何も言い返せない。




 まるで、伝説の獣のような爪牙と、それを無為にしない身のこなし。




 そんな「虎」が、あのどうでもいい猫の正体だなんて。


 


 そして、それがあのクブニアが多くの生き物を手なずけて来た結果だなんて。




 それから私たち三人はすっかりクブニアのおまけと化し、今日のゴブリン退治も「クブニアパーティー」だった。


 クブニアのペッ、いや魔物たちの面倒まで私たちは見なければならなくなり、すっかり主従逆転状態。


「みんな、みんなは仲間だからさ」


 寛容極まる統治者様のおかげで私たち元暴君は健やかに過ごせてるけど、少しでも機嫌を損ねたらあの虎の牙が迫って来る。




 ああ、私たちのバカ!


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