心の揺れ

#365日ショートショート 057

　教室が縦に揺れた。

「早くっ！机の下に！」

　先生の叫び声が、揺れる机の音にかき消される。うふふ。隣の席の深山くんは、頭に手をやって震えている。後ろの園山さんは、不安そうな顔でうつむいている。うふふ。まだ、縦だ。あ、今度は横だ。うんん、長いなあ。もし今ここで立ち上がったら、どんな景色が見られるだろう。みんな机の下に入り込んでいるんだ。僕だけがこの教室にいるような、そんな気持ちが味わえるのだろうか。

「順番に！前の子を押さないで！避難訓練を思い出して！」

　うふふ。先生が一番焦ってるじゃない。おかしいの。みんな、顔が引きつってる。今この列を急に離れたら、先生はどんな顔をするだろう。トイレに行きたいって言ってみようかな。うふふ。誰もいないなら、職員室に忍び込んだりできるかな。あ、せっかくなら校長室に入ってみたいなあ。わくわく。なあんだ、もう揺れがおさまってきちゃった。

「みんな、前の出席番号の子はいますか。誰もはぐれていないですか。一人ずつ確認していきます」

　校庭に全校生徒が集まる。うふふ。みんな、あたふたしちゃって。巣に水を流し込まれたアリみたい。あ、チャイムが鳴った。ざんね〜ん、算数の授業はもう終わっちゃったね。やった。この後の体育もなくなればいいのに。このまま家に帰れたりしないかなあ。うふふ。ああ、だめだ、笑っちゃう。だめなんだよね、こういう時に笑ったら。嘘でも、真剣な顔をしないといけないんだよね。でも、楽しいなあ。