頭と尻尾はくれてやれ

hekisei

第1話

「頭と尻尾しっぽはくれてやれ」というのは相場の格言だ。ここでいう相場というのは株式市場とかFXとか国債こくさいとか。いわゆる金融という名の合法博打ごうほうばくちだ。


 もちろんジャンルにかかわらず安く買って高く売るのが基本だ。株でもべいドルでもこの原則は同じ。底で買って天井で売るのが理想であるのはいうまでもない。


 ところが底や天井の見極みきわめが難しい。「安い、こいつは底だ!」と思って買ったら下がっちまう。「高い、天井だぞ!」と思って売ったらまだまだ上がる。それはもう面白いくらいにこちらの思惑おもわく逆行ぎゃっこうしてしまう。まるで神様がオレのパソコンの画面をのぞき込んで反対向けに価格操作しているんじゃないか、そう思わされるくらいだ。


 そんなオレだが、最近になってようやくコツをみつけることができた。以来、ほぼ負けなしだ。その必勝法を読者に伝授しよう。


必勝法その1:自分に最適な相場をみつける


 どの相場を選ぶかは好き嫌いでいいと思う。オレの場合はきん・プラチナ相場だ。こいつをオンラインで取引している。


 金やプラチナのような貴金属が好きかと言われれば、それはもう大好きだ。オレは小学生の頃から新聞を見て金価格を追ってきた。大人になってからは現物を買ったり売ったりだ。金とかプラチナは地金じがねそのものに価値がある。見た目以上にズシッと重く、持っている手を通して不思議なパワーが伝わってくる。


 しかし、平日の昼間に店舗まで地金を買いにいって、それを銀行の貸金庫に入れる、というのは結構な手間だ。だからオンラインで積立てをやり、ときどきスポットで買ったり売ったりしている。店舗まで行かなくなってずっと楽になったし売り買いのタイミングを逃さない。


必勝法その2:相場との距離感をつかむ


 専業トレーダーでないかぎり、誰もが別に本業を持っている。だから5分毎に相場をチェックするわけにはいかない。オレの場合は毎日1回、金価格とプラチナ価格を確認するだけだ。時には1週間ほどチェックし忘れていることもある。その程度の距離感がオレには合っているということだろう。


必勝法その3:資本主義社会の原理原則を知れ


 いかに高い価格であっても、その値段で取引が成立しているということをよく考えなくてはならない。つまり「まだまだ上がる」という人と、「これからは下がる」と考えている人が同数いるから売買が成り立っているわけだ。つまり、この後に上がるか下がるかは半々であり、つまるところ相場は丁半博打ちょうはんばくちであるというつもりで対処した方が良い。


必勝法その4:全力勝負をするな


「ここが天井だ」と思って手持ちをすべて売るようなことをしてはならない。まだまだ上がるかもしれないので、売るのは一部にしておくこと。上がったらまた売ったらいいし、下がったら時期を見て買い足したらよい。買うのも売るのも全力勝負は避けよう。


 また、身のたけにあっていないレバレッジをかけるのはめた方がいい。100万円の資金で25倍のレバレッジをかけて2,500万円分の勝負をする、というのはオレに言わせれば正気ではない。ちょっとした相場の動きで破産してしまうリスクがあるからだ。


必勝法その5:頭と尻尾はくれてやれ


 冒頭で言ったとおりだ。天井を見極めるのは難しく、不可能といってもいい。だからオレは下がったときに売っている。つまり上昇トレンドの中で天井をこえて「下がった!」と思った瞬間に売っている。つまり文字通り頭をくれてやるわけだ。


 とは言え、先に述べたように一部しか売らないから、さらに上昇したらまた売るタイミングを探る。逆に、もし自分が売った後に価格が下がったら「あの時に売っておいて良かった!」と思うようにしている。


おわりに:最近の売買


 そんなこんなで金価格が史上最高値をつけた後、ちょっと下がったところでオレは一部を売った。きん高騰こうとうはロシアのウクライナ侵攻に原因があるのだと思う。有事のきんとはまさにこのこと。他国の不幸で金儲けするのはあまり気持ちのいいものではない。でも、自らの売買ポリシーに従って機械的に取引するのも大切なことだ。じょうに流されるくらいなら最初から手を出してはならない。


 もちろん、オレだって金価格の低迷する平和な世の中を望みたい。ウクライナに一刻も早く平和がおとずれることを祈りつつ筆を置く。


-完-

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