第9話 凝り出すとやめられない誘惑。

 完全抗体の明確な答えは大いなる〝拒絶〟

寄せ付けないであったり嫌うといった安易な意味合いでは無く、無視をされるという事。


 「採取した血液から作り上げたワクチンを打てば感染はしなくなる。その代わり...」

殆どの生存者は投与を拒んだようだ、助かりたいし平和を取り戻したいがその後は今まで以上に大きく変わる。


「…そうか、ならばこちらの特効薬を量産して改めて投与しよう。」

あまり感覚がわからなかった、小さい頃から影が薄く隅に寄りがちだったからだろうか。


「相手されないってそんなにイヤか?」

襲われたくはないし、危険な目には遭いたくないが放置されるのは好まないらしい。


「看護師泣いてたな、可哀想とかいってたけど優しさの出し方間違えてるぞ」


〝私なんかもったいない〟

と、告白もしてないのに振られた感じだ、別に好きでもなかったのに。


「きっとアレだな。

一人の楽しさ知らねぇんだな」

説明の途中で帰ってきてしまった、今は自宅を目指して車を走らせている。途中晩飯などを色々買い足して、抜け目なく爆進中だ。


「……やっぱり直すか」

ポピンズも本部に居たらしいのだが、会う事は無かった。というより合わなかった。看護師のメグミは姿を見つけて駆けつけたようだが、他は特別会いに来る事もなかった。間抜けな殻になった邸宅に車を停め、素通りすることなく玄関の修理に取り掛かる。


「久しぶりだな、これ乗るの」

玄関に突き刺さった車をゆっくり慎重に取り外し、穴の空いた家を眺める。


「こりゃ随分とかかりそうだねぇ」

工具はしっかり買い揃えた、電動から手動のものまで。幾つか木材も積んである。


「これ一人じゃ無理っぽいな、どうするか..」

労力のかかる仕事のどれから取り組むか、頭の中で整理しながら考えていると茶々を入れるように耳障りな音が響く。


「…なに、車?」

タイヤが擦れて動く音、確実に近くを車が走行しこちらへ近付いてくる。


『ブロロ..キキッ』


「………え、なに?」

迷彩柄のバギーが目の前で停車する、中から出てきたのは見覚えのある穏やかな女性。


「手伝います、タケシさん..!」


「一人で来たんだ

..ってか勝手に外出ていいのあそこって」

帰ると伝えたときも随分と煩く止められた。

医者が事情を説明する直前まで兵隊に呼び止められたがよく突破してこれたものだ。


「私も〝相手にされません〟から。

...摂取したんです、平和に生きたいから」


「……あ、そうなんだ。

じゃ直ったらここ住みなよ、多分あのオッさんもう帰ってこないだろうし」

力仕事は任せられない、とはいっても大体力のいる作業ばかりなのだが。


「あと車乗りなよ」


「え、いいんですか?」


「別にいいよ。さっき久々に前の車乗ったらやっぱり乗りやすくてさ、完全に壊れるまで直してのり回してやろうと思ってんの」


「…実は凄く乗ってみたかったんです。

ポピンズさんのお話し聞いて興味があって」


「結構いいよ、シートがフカフカでさ...」

話が弾み口が回った。趣味の話をここまで人にした事はなかったこもしれない、その後も作業を進めながら沢山の話をした。


「あ、車庫の中めちゃめちゃ広いから気をつけてね。まぁ直ぐ慣れるんだろうけど」


「そんなに広いんですか?

私けっこう方向音痴なんですよね..」


「だったらこれ使いなよ、夜とか暗いとこわかんないだろうし。」

差し出したのは懐中電灯、長居をするであろう新居へのアシストをするシグナルだ。


「‥有難う御座います。」


「取り敢えず今日まで出来るとこ直しちまおう。続きは明日また来るよ」


「……あのっ!」 「なに?」


「家が直るまで泊めてくれませんか?

..アナタの家に、お願い...します。」

広い家に一人では寂しい。

そもそも摂取したのは〝一人以外〟になる為


「…いいけど、ウチベッド一つしかないよ?」


「構いませんっ!」


「そっか、ならいいけどさ。」


青年は純粋に思った

あぁ、やっぱりこの人は

       〝このままついてくるんだ〟

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