第8話 健康こそが平和

 扉の立て付けはどうにか上手い事繋がったようで特有の〝ガタガタ音〟が消えた。


 「後で油も挿しとくか、思ったより具合いいねこれ。ちょっと新しい楽しみかもな」

DIYというのだろうか、ただ扉を修理しただけだが直していく過程は中々楽しめた。


「…オッさんの玄関も直したいな、いやでも勝手にイジるのってすごい嫌だろうな。」

壊れているのを確認した時点で素通りするのは忍びないとは思っていたのだが、工具の性能もどれ程か分からない状態で己がそれに悦びを見出すとも思っていなかった。


「まぁ直したの一週間くらい前なんだけどな、だから楽しいとかいってもそれほど目新しい訳じゃ別に...」

聞き覚えのあるワードがあった。何か忘れていたものが吹き返したような、大事な事を思い出す感覚があった。


「そうだ、病院行かないと」

血液がそろそろ体調を知らせる頃だ。

医者の先生が言っていたから間違いはない


「保険証と...あとあれだ、何処やったっけ?」

機械を動かす為の鍵を持たされていた。確か戸棚に、財布と共に入れた筈だ


「…あったあった、あそこ結構遠いんだよな」

カーナビはいまだ付けていないが、道なりは覚えている。ショッピングモールを抜けポピンズ邸を抜けた先の白い建物。


「まだ突き刺さってるじゃん車、やっぱりあれ修理した方がいいんじゃねぇかな。」

またもや眺めて素通りし病院へ

駐車場を見つけ丁寧に車庫入れをすると、正面の自動ドアを抜け中へ入っていく。


「本当はエレベーター使いたいけどね、大概使えないんだよな最近。ショッピングモールのエスカレーターは動いてたっけ?」

自宅は何故だか電気が通る、しかし他所の店などに行くと通っていない事がよくある。


「まぁ思うほどの不自由って無いんだけどね」

階段を登り、3階へ進む。

血液が保存されている装置のある部屋は直ぐにある、しかし扉ががっしりと閉められ中へ入る事が出来ない。


「これで開くかな?」

扉の近くにあるリーダーにカードを読み込ませると『Lock』とかかれた文字が『Open』へ変わり、鍵の開く音が響いた。


「…便利だなこれ」

医師の顔写真が誇らしく笑っているように見える、勿論気のせいなのだが。


「んでもって..この装置に、よし軌道」

扉のものと似たリーダーにカード再び読み込ませると、保存された血液が容器と共に装置の中から顔を出す。


「タケシ....これだな。」

名前の書かれたものを確認すると、辺りを見渡す。肝心の検査結果は何処でわかるのか?


「紙とかないのか、結果書かれた紙みたいなやつ。..まさか測れて無いってことないよな」



「動くな!」「……は?」

迷彩柄の服を来た男に背後から銃を突き立てられる。頭に銃口を当てているところをみると冗談の類ではなさそうだ。


「ここで何してる」


「何って、コレの回収だよ!

見りゃわかるじゃん、どうみたってそうよ」

容器を指差す先を見つめ側にあるカードキーを見て衝撃を受ける。


「それ、バートンさんのか?

何故お前が持っている、まさか...」


「この先生が言ったんだよ、一週間後なら結果出るからそしたらまた来いってさ。」

カードキーを手に取り顔写真を見る、優しい印象を持っていたが今や彼のお陰でチンピラにからまれている。


「…そうか、君が選ばれたのか」「え?」

カードキーの裏に書かれたメッセージを読み解き、頭の中で状況を整理する。そうするとどうも目の前の青年は悪い奴でもないらしい


「君も私たちと同じ任務か、ならば共に持ち帰ろう。血液のサンプルも含め私が丁重に預かろう、本部へ向かおう」


本部…って、え?

そんなに検査結果悪いの」

突然〝大きな病気で改めて〟はかなり不安だ。

ただ一言「異常なし」とだけ言ってくれ


「アシストしよう、下に車が止まっている。そこに乗り込んで一気に帰還しよう」


「……いや、家そっち方面じゃないけど。」

どっちの方角かはわからないが、確実に違うという事だけはわかる。


「いくぞ!

ここも危険だ、私から離れるなよ?」

言われるがままに階段を降り下の車へ乗り込んだ。バギー的な形体の迷彩柄、ジャングルなどの保護色としての役割なのだろうが街中では決して推さなくていい模様だ。


「よく生きていたな、しかしこれからだ。

もう少しの辛抱だぞ....恐らくな」


「‥やっぱ何かヤバいの?

〝おそらく〟ってなに、こわいんだけど。」

勿体ぶるのは医者の遣り方

軍隊まで同じ事をするとは思っていなかった


「バリケードは既に壊れている、多少痛みを伴うかもしれないが我慢してくれ。」

迫り来る不死者を轢きながら車を前進させる、返り血が徐々にフロントガラスを汚していきしまいには赤か染め上げ見えなくなった。


「突っ込むぞぉぉっ!!」「嘘でしょ?」

おおよそ本部の入り口であろう場所に感覚で特攻していく。案の定ミスに終わり、入り口脇の塀に激突してしまう。


「はぁはぁ、はぁっ..無事か!?」


「無茶な事しないでよ、頼むから。」

何となくの事態を察しお互い車から飛び出し事なきを得た、咄嗟で無傷は奇跡だ。


「安心しろ、荷物は無事だ」

運転席側と助手席側のドアを開け飛び出した為車を挟んでお互いの姿が見えないが、軍人が言うには血液は無事らしい。


「ガタン…」


「ん、何の音?」

起き上がり辺りを見ると塀に刺さった迷彩車の上に小さな箱が置かれている。

持手付きの箱、病院から持ってきた荷物だ。


「何でこんなところに....もしかして投げた?」

何故そんな横暴な事を、訳を追求する為に車の尻から回り込み軍人のいる方へ。


「おい、ちょっとこれ何で放り投げて...。」

軍人は車にもたれかかり、血に塗れて倒れていた。傍には銃を携え抱いている。


「……なんだよ、事故ってんじゃん」

強がりで生存を伝えられる程余裕ある状況ではなかった筈だが、流石鍛えてるだけはある


「こっちだ!」  「ん?」

本部と見られる場所の中から手をふる迷彩、室内で保護色である必要があるのだろうか。


「生存者か、怪我は?」


「無いけど元気かは分からない。」

箱を差し出し軍人に見せる


「それ…病院から持ってきたのか⁉︎

直ぐに研究機関へ向かおう!」

長い廊下を通され真っ白な壁に覆われた部屋に連れて行かれた。


「先生只今届きました!」


「ご苦労、随分手間をかけさせたね。」

穏やかな声が活動を労い感謝する


「生存者を一人発見しました!

手当も含めケアをしてあげてください!」


「有難う、持ち場へ戻ってくれ」


「はっ!」

兵を従えるかの如く凄まじい強者感を帯びる〝先生〟と呼ばれるその男は、何処かで触れた事のある雰囲気を持っていた。


「君も大変だったろう、もう大丈夫だ。

..先ずは健康診断をしようか」

振り向いたその顔は、手元に握るカードのそれと酷似していた。


「…なんで生きてんだ?」


「生きてるとは、どういう意味だろう」

青年は携えていたカードキーに付いた写真を見せる、目の前の男と全く同じその顔を。


「そうか君はバートンの託し子、よく意思をここまで受け継いでくれたね。後は私がその重荷を引き継ごう」


「それより血液検査の結果を早く教えてくれ」

焦って仕方ない。

ここまで大きな場所は連れてこられたんだ、かなり重篤な何かが潜んでいるに違いない。


「血液検査?

..そうか、やはり体調が心配か。」


「もう摂ってあるから、早く見てくれって」


「摂ってある、その中にあるのか?

..おかしいな。何故人の血を摂る必要がある」

特効薬の生成はわかる、しかし人の血。

バートンが何かを探していたのかもしれない、直ぐに箱を受け取り検査にかけた。


「君の血は...これか。

もしかしたらアイツは薬の他の可能性を..」


「薬の他って何?

薬も効かない程ヤバいの!?」


「私の名はグリース、バートンの双子の兄だ。

彼が何かを見出しなら残された私が必ずそれを掴み...解き明かす。」


「…いや、聞いてねぇよ名前なんか。

血の中身はどうなってんだって聞いてんの!」

検査に掛けてすぐ、グリースの顔色が変わった


「こ、これは..!!

嘘だろう....こんな事が!?」


「何、やっぱヤバいの?」


「君の血液には、完全な抗体がある。」


「抗体って....あったらかなりヤバイやつ?」


「まさか、寧ろ凄まじく素晴らしいものだ。

君の身体はかなり恵まれている」

医者が歓喜し笑みを浮かべはしゃいでいる、それ程に元気な血液が流れているらしい。


「なんだ、良かった〜。」

血液の検査結果は、人より〝健康過ぎる〟という幸福の向こう側に達していた。

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