第11章 にぎりめし
「赤いかえでは、流れ落ち・・・」
定康と静香は唄を口づさみながら、仲良く手をつないで歩いている。
その後ろを、和正と草笛が寄り添うようについていく。
草苗は小さなため息と共に、うれしそうにつぶやいた。
「良かった・・・。ずっと遠い昔のように忘れていた思い出が、本当の事だったんだ。とうさまとかあさまが死んじゃったのは悲しいけど。こうして弟や、まだ信じられないけど・・・和正様と巡り会えるなんて、夢のようです」
和正は愛しそうに草苗を見つめて言った。
「私もです。ずっと忘れた事はなかった・・・。
姫様と会えて、本当にうれしいです」
少し離れた小川のほとりから声がとんだ。
「おほーい・・・」
定康と静香が腰をおろして手を振っている。
四人は包みを広げて食事をする事にした。
にぎりめしが数個と香のものであった。
むしゃむしゃと頬張る定康を微笑んで見つめ、静香が水を筒に入れて差し出している。
定康は胸をトントンと叩いたあと、苦しそうに流し込んだ。
心配そうに背中をさする静香のおしりを、左手でいつの間にか撫でている。
「キャッ。もう、定康様ったらぁ・・・」
その光景を呆れたように、早苗が見つめてる。
(まったく・・・スケベなんだから)
和正は含むように笑いながら、にぎりめしを頬張っている。
早苗がふと気がついたように、和正に聞いた。
「でも、どうして私達のあざの事を知っていたのですか?」
和正は一瞬ギクッとしたが、涼しい顔で言った。
「いつも・・・姫の事ばかり見ていましたからなぁ」早苗はポッと頬を赤らめると、うつ向いてしまった。
(和正、様・・・。)
満腹して人心地ついたのか定康が静香の膝に頭を乗せ、和正に言った。
「それにしても和正、二人とも奇麗な身体をしとったのぉ。でも、あの温泉は蚊が多くてまいったがのぉ」
静香はそれを聞くと、顔を真っ赤にして定康の鼻をつまんで言った。
「まー、私達の入浴するところを・・・
覗いていたんですかぁ?」
早苗が和正の方を向くと、慌てて立ち上がり向こうの方へ行ってしまった。
トンボが一匹、後ろを追っている。
定康と静香はキャッキャッと騒いで、いちゃついている。
早苗は思わず吹き出すと、小さな声で呟いた。
「ムッツリ・・・スケベ!」
ニ匹が疾る 完
二匹が、疾る(はしる) 進藤 進 @0035toto
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