大切な役目
愉快なパレードの音楽、人々の楽しそうな声、キラキラと輝く遊具たち。
案内人のアルフレッドに連れられて行き着いたそこは紛れもなくディベルシオン。
ディベルシオンには幼い頃よく家族と訪れては国の至る所にある遊園地で遊んでいた。時にはソアラやカイトも連れて子供らしくはしゃぎまくっていた事もある。私の個人的な感想だがディベルシオンは好きだ。子供から大人まで楽しめる娯楽がこの国には詰まっている。そのおかげなのかは知らないがここに住む住人達も気楽というか愉快な人達が多くて一緒にいるだけでもとにかく楽しい。
だけど、私はここ数年ディベルシオンに行くきっかけがあったとしても極力行かないようにしていた。別に嫌いなわけでは無いけれど私には素直に行きたいとはなれない理由があった。
それは、
「ミユ!会いたかった!」
声が聞こえたと同時に私は誰かに抱き締められる。頭上から聞こえる声は私があまりここに来たくない理由であるディベルシオンの第1王子、クレハだった。
「ク、クレハ...久しぶりだね〜。というかちょっと離れて欲しいな〜....」
「ああ、ごめん。久々に顔を見たらいても立ってもいられなくなって....」
クレハはそっと私を離してくれた。のだけれどそのまま私の手を握ってニコニコと笑っている。いや、そういうことじゃない。手なら良いよなんて言ってない。
「ずっとこの日を待っていたんだ。ミユに会いたくて会いたくて仕方なかった。少し顔が大人びたかい?それでも昔と変わらないかわいさは健在だね。髪も相変わらず綺麗で美しい。あ、もしやその格好は制服だね?可愛いワンピースや私服でいつ遊びに来ていたからなんだか新鮮だ。とても似合っ」
「ストップストップストップ!分かったからもうやめて!恥ずかしいからやめて!」
そう、クレハは私から言うのはなんだけど
『私のことがあまりにも好きすぎる』のだ。
幼い頃たまたまクレハと遊んだ時に私に一目惚れとやらをしたらしく、それからずっとこんな感じで私を褒めちぎるわ口説くわなんやらで私はお友達でいたいと言っても止まらない。挙句の果てにミユを惚れさせてお嫁さんにする!と言って今の今まで来てしまった。
好きになることはない予定だからお嫁さんは無理だよクレハ.....先生もドン引きしてるよ。特に私を見た瞬間口説き始めるのはやめて欲しい。死んでしまう、色んな意味で。
「はは、相変わらずミユは恥ずかしがり屋さんだなあ。そんなところも愛らしいけれど。」
私はもう呆れていちいち止めるのを諦めようと思った時、アルフレッドがクレハに近付いた。
「クレハ様、お二人のお邪魔をしてしまい申し訳ありませんがお時間が迫っております。」
と一言。するとクレハが
「そうか、もう時間なのか。ではミユ、僕に付いてきてくれるかい?」
と言って私を抱き抱えた。いわゆるお姫様抱っこというやつ。どうして問いかけたのに問答無用で抱き抱えたのクレハ?
「ちょっと待ってなんで私お姫様抱っこされてるの???」
「これからミユを良いところに連れて行こうと思って。」
良いところってどこ?と思っている内に目の前がパチッパチッと弾けた。そして瞬きをした瞬間に場所が変わる。どうやらクレハが空間転移魔法を使ったようだ。気付けば見知らぬ場所に着いていた。ここはどこなんだろう、家というか小屋みたいな場所だけど...と思って外を見て私はギョッとした。
窓の外は1面の夜空でこの小屋はその空間にポツンと浮いているだけだったのだ。
クレハはいつも通りニコニコしながら私を下ろすと
「いい景色だよね。僕も初めて来た時はびっくりしたんだ。」
と至って平然とした様子で話している。
私は半ばパニックになりながら問いかけた。
「なんで私をここに連れてきたの??というかこんな場所ディベルシオンにあったんだね?」
「ディベルシオンは人を楽しませることを主軸とした国だからね。ただ景色を見て雰囲気を楽しみたいような人達のためにこういった場所もいくつかあるのさ。ここはまたちょっと特別だけどね。」
クレハは淡々と私の質問に答えていく。
「ミユを連れてきた理由は、ただ素敵な景色を2人で見たいから....と言いたいところだけど生憎、そうではなくてね。手伝いを頼みたいんだ。」
「手伝い?何を手伝うの?」
「もちろんこれから始まるイベントの手伝いさ。君も聞いているだろう?」
.....何も聞いていないのですけれども。もしやこれが私に届いた招待状うんぬんかんぬんの話だろうか。ディベルシオンに着いた途端、クレハに捕まったおかげで先生に聞けなかったから結局何も知らないままだ。
私は正直に招待状などの一切の内容を知らずに来たことを説明するとクレハは1からきちんと教えてくれた。
クレハの話を要約すると、どうやらディベルシオンでは近いうちに大々的なイベントを開催するらしい。大人も子供も誰でも楽しく参加出来る!といったものではなく、参加は完全招待制のイベントのようだ。招待されていない人達は観客としてその様子を見て楽しむことができるという。ゲームのルールは宝探しに近く、至る所にある宝にはそれぞれポイントが付いていてより多くポイントを集めた人が優勝。優勝者には豪華な景品があるだとか。そして魔法や物などを使った宝の奪い合いや妨害も可能で、明らかに攻撃的なものや、意図的に傷付けることを目的としたものでなければある程度は良しとされている。
本来、そのイベントに私は参加する側として招待されていたはずなのだが、私のお父様が面白そうだから学校の生徒達も参加してはどうかと提案した。多少無理な提案ではあったがお父様からのご厚意を無下にできないし良い経験にもなるのではとのことでイベント運営の方に掛け合った結果、補習者と希望者がそれに参加という形になったらしい。
「なるほど、話は大体なんとなく理解したよ。でも私元々参加する側で招待されたのに手伝う側になっちゃっていいの?」
素直に疑問に思った点だった。私としては魔法が使えないし別に優勝の景品とかに興味があるわけでもないから、ゲームに参加するより手伝う側としてやっている方がありがたいのだけどわざわざ変更するほどの何かがあったのだろうか。
「それは僕が手伝う側にして欲しいとお願いしたんだ。僕も元々このイベントの準備に携わっていてね。内容を煮詰めていたんだけれど、今回のイベントにおいて欠かせない役目が浮いてしまっていて困ってたんだ。そこでミユにこの役目を頼むのが良いんじゃないかと思って変えてもらったのさ。」
なるほど、私にやって欲しい役目。でもそんな大切そうな役目を私に任せて大丈夫なのだろうか。もっと他に適任がいそうな気がするけれど....手伝うとは言ったけど幸先が不安になってきた。出来るのかな私に。
そう考えてる私を見て何か察したのかクレハが口を開いた。
「不安になっているなら心配しないで?大切だとは言ったけどそんなに大変な役目じゃないさ。僕はこの役目はミユが適任だと思ってる。それに君にとっても良い経験になるんじゃないかな、とも思っているよ。」
「良い経験....」
良い経験になると言われてしまうとやるのが得だと感じてしまうのは言葉の力なのだろうか。私が適任だとはっきり言ってくれるクレハを見て、やりたくないと断ることは到底出来るはずもなかった。
「分かった。クレハがそこまで言ってくれるならやるよ。それで、その役目っていうのはどんな役目なの?」
クレハはその質問待ってましたと言わんばかりにニコニコしている。
「ありがとう、そう言ってもらえてすごく嬉しいよ。」
そう言ってクレハは指をパチンと鳴らす。
すると、私の目の前にふわっとシンプルなドレスが。いやドレスというかワンピース?ドレスとワンピースの中間あたりの華やかだけどドレスほど動きにくそうではないような衣装が現れる。
「ミユに頼みたい役目は、このイベントで1番ポイントの高いお宝だよ。」
「.......えっ」
私はドレスとクレハの顔を数回交互に見たあと驚き、絶叫したのだった。
ねぇ、わたしってだれ? しおん @shion_ogs
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