1-2
約150年前。トンネル開通作業の途中で偶然見付けた謎の石。会社に持ち込まれたその石を社長は作業現場の地主に返した。
地主の男はその石に秘められた可能性を見出だし業者に大金を払うことで更なる石の発掘作業を進めた。
結果、採掘された鉱石の量は全部で500kgにも満たなかった。
地主の男は鉱石の更なる研究を行う為に再び投資し、会社を興した。
研究は進み、石には膨大なエネルギーと不思議なパワーが秘められていることが分かった。
しばらくするとその情報を察知したアメリカ政府が石を回収しに来たが男は必死に抵抗した。しかし、国の力には抗えず鉱石のほとんどは政府に没収されてしまった。
そう、男が隠し持っていた極僅かな石以外は…
現在、相談屋のオフィス。
小さな机を挟んだ両側に二人分のソファーが置かれている。
片方には青年がもう片方には若い女性が座っていた。
女性の方は神妙な面持ちで佇んでいる。
そんな女性に対し青年(丈真)は紙を渡す。
「まず、この書類に個人情報書いて貰えるかな?」
「はい」
紙には名前や生年月日など個人情報に関する項目がいくつも設けられていた。
しばらくして記入を終えた女性は丈真に紙を返した。
「へぇ…早苗吹雪さんか。それで、今回はどの様なご用件で?」
その問い掛けに対し女性(早苗)はゆっくりと口を開く。
「実は…父親の会社が乗っ取られそうでどうにか出来ないかと」
「親御さんの会社が?」
「はい、私も自分なりに色々調べてみましたが何も出来ず…弁護士の先生にも取り合って貰えなくて」
「そこでこの相談屋の情報を聞き付けてやってきた、と」
「はい」
確かに、丈真が営む相談屋は正攻法で解決出来ない問題を抱えた人間が頼み込む最後の砦だ。しかし、それは裏稼業に絡んだ者やあまり表では言えない様な後ろ暗い経緯のある者の相談が大半を占める。
今回の様な普通の会社のご令嬢が相談に来る様な場所ではない。
「差し支えなければ会社の名前を教えて貰ってもいいかな?」
「はい、SGコーポレーションという会社です」
「SGコーポレーション!?」
「ご存知…ですか?」
「そりゃ、知らない方がおかしいでしょ」
丈真にとって、これ程タイムリーな話もないだろう。
"早苗"という名字に聞き覚えがあった丈真だが確かにSGコーポレーションの社長である"早苗総一郎"と同じ名字だった。
「話は分かった。その買収を俺に阻止して欲しいってことね」
「はい、難しい相談であることは重々承知しております。謝礼はいくらでもお支払い致しますのでどうかお願い出来ませんでしょうか?」
「じゃあ、前金1億円」
「え?」
「払えないの?」
「いえ、用意します!」
その答えを聞いて丈真は軽く笑う。
「ウソウソ、あんたがどれ程の覚悟でここに来てんのか知りたかっただけ」
その言葉に吹雪はホッと胸を撫で下ろす。
「それで買収についての詳しい経緯を聞かせて貰ってもいいかな?」
「はい、二週間前の話です。父がある情報筋から買収の話を聞き付けました。買収を企んでいるのはエア・エンジニアズの日本支部」
その瞬間、丈真の眉がピクリと動く。
「ちょっと待てよお姉さん。それってアメリカの大企業じゃねぇか」
そう、エア・エンジニアズとはアメリカに本社を置く企業でずっと昔から軍事兵器の生産や最先端の技術を駆使した機械の開発で第一線を走っている大企業である。
「そうです。本社が世界的にも有名な企業ということもあってかこれを聞いた時、父も自社の防衛を諦めた様子でした」
「おいおい、いくらお相手がデカイ会社だからってそんなにすぐ諦めていいのかよ」
「実は父は以前から社長の座を降りようとしていたんです。」
「ほう、そりゃまた何で?」
「昔のSGコーポレーションは科学技術を使って人々の暮らしをより良くする為に様々な電化製品や体の不自由な人のサポートをする機械を開発していました」
吹雪の説明にじっくりと耳を傾ける丈真。
「でも近年は株主の期待や幹部達の意見に押されて新薬の開発に取り組む様になったのです」
先程の長良との会話にもあった話だと丈真は頷いた。
「実際それで業績はさらに良くなり会社も好調でした。ですが自社の開発する新薬は劇薬も多く効果がよく出る反面、副作用もかなりの物でした」
SGコーポレーションの新薬開発に関する話は有名だがその詳細についてはあまり聞いたことがない。会社が情報機関に金を流し口封じでもしているのだろうか。
「そう言ったこともあって父は今のSGコーポレーションの業務をあまり良く思っていなかったみたいです」
「なるほど、それで会社から身を引こうとしてたって訳か」
「はい」
会社も長く続けばその業務内容が変わることは珍しくない。恐らく、創業者である早苗総一郎は起業当初の理念から今の会社が大きく外れてしまったことを悔やんでいるのだろう。
「エア・エンジニアズはある新薬の特許を手に入れたいらしくSGコーポレーションの買収に動き出したそうです」
エア・エンジニアズは軍事産業を主とした会社だ。新薬の特許からもたらされる何かが自社の利益に繋がるのだろう。
兎に角、まずは吹雪の父である総一郎の考えを変えなければ始まらない。
「親御さんを説得するのは難しそうなの?」
「そうですね…仮に説得出来たとしても相手が大き過ぎて対処出来るかどうか…」
「分かった。エア・エンジニアズの方は俺が何とかするからお姉さんは親御さんを説得してくれる?」
その言葉に吹雪はポツンとした目で丈真を見つめる。相手が相手だ。あれ程の話をした後でまさか協力してくれるとは思っていなかったのだろう。
「ありがとうございます。何とか父を説得してみます!」
その日は今後の流れについて少し話した後、吹雪は相談屋を後にした。
依頼主が去り一人になった部屋で丈真は早速、動き始める。
「よし、まずは買収に関する情報の収集からだな」
ミステリアスオアー -The Mysterious Ore- 千崎應鷹 @chi-taka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ミステリアスオアー -The Mysterious Ore-の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます