沈丁花パーティ 💐
上月くるを
沈丁花パーティ 💐
いつもより長かった冬がようやく去り、梅と桜が一度に咲く春がやって来ました。
サユリおばあさん宅の玄関先でも、福寿草や黄水仙が太陽の色を輝かせています。
――くんくん、ねえ~、なんだかふんわりした香りがして来ないこと?🐈
ふんふん、日当たりのいい東側の庭から得も言われぬ香りが……。🐕
仲よしの猫さんと犬くんは顔を見合わせて「ははあ~ん」とうなずき合いました。
きびしく長い寒さに縮まっていた堅いつぼみを、ゆっくりと開いてくれたものは、
――
「みゅ~ん」「わ~ん」声をそろえて、うれしそうに目と目を見かわせた2匹は、さっそくサユリおばあさんが大事にしている東側の庭へ、トコトコ行ってみました。
*
でも、小さな庭に着いてみますと……。
まあ、これはいったい。🐤🐦🦚🐞🐝
ウグイス、メジロ、ヒバリ、キジ、生まれたての仔雀、この春一番乗りのツバメ、さらに、気早なモンシロチョウやミツバチ、コガネムシまで押すな押すなの大騒ぎ。
それぞれの首から「welcome」の札を下げ、四六時中とびきりの笑顔をふりまいている2匹のナビゲート犬(置き物)たちも、いつもより困り眉をかたむけています。
*
で、ときならぬ騒動を見かねた猫さんと犬くんは、沈丁花さんパーティの会場係はわたしたちに任せておいてと言わんばかりに、警備員を買って出ることにしました。
――さあ、みなさん、お行儀よく1列に並んでくださいませ~。😸
沈丁花のお花さんはどこへも行きませんから安心してね~。🐶
すると、聞き分けがいい自然界の動物たちは、ささっと1列になってくれました。
それも、だれかが言い出したわけでもないのに、身体の小さい子から順番に……。
先頭のコガネムシが薄紅色の花群れに近寄って、うっとりと芳香を吸いこみます。つぎはミツバチ、モンシロチョウという具合で、最後のキジまで行くと2周目です。
*
心ゆくまで花と香を楽しんだ動物たちは、口々にお礼を言って帰って行きました。
最後に残った猫さんと犬くんにも、2匹の「welcome」犬たちが「ありがとう」。
――こんなにみんなが押しかけて来たのは、冬が寒かったあかしだよね。🪟
あなたたちも、凍てついたお庭の守り、さぞや大変だったでしょう。🧱
猫さんと犬くんに褒めてもらった「welcome」犬たちは、うすく頬を染めました。
秋からの一部始終を見ていた沈丁花さんも、ふと、なみだぐみそうになりました。
自分というものがなにかの役に立っている。🪅
それにまさるよろこびはありませんからね。🌞
でも、お気に入りの籐椅子でお昼寝中のサユリおばあさんはなにも気づきません。
やわらかな光を地上にあまねく降り注ぐ太陽は、すべてをご存知でしたけれども。
沈丁花パーティ 💐 上月くるを @kurutan
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