第3話 異世界お好み焼き屋開店

 モース親方に金を借りて屋台でお好み焼きを焼きまくった。1ヶ月で借金を返す事ができたが、クタクタで1人では限界だった。

「アルフ、疲れているようだな」

 まだ、屋台の借金は返したが、部屋は借りていない。忙しすぎるからだ。

「まぁ、食べて行きな」

 オークの骨とキャベツのスープが疲れた身体に染みる。

「美味しい」

 モース親方は嬉しそうに笑った。

「今、この町で一番流行っている屋台のお前に言われるとはな」

 俺は親方に相談する事にした。

「屋台で手伝いを頼むってありなのか? モース親方は俺を雇ってくれていたけど、殆どの屋台は1人かせいぜい夫婦か親子だろ」

 屋台の儲けはしれている。それに俺としては店を持ちたいと考えている。お好み焼きとエール。なかなか良い組み合わせだと思う。

「そうだ、孤児院で相談してみたらどうだ? 男の子は冒険者になるのが多いが、向いて無い奴もいる。女の子も屋台で働いて良いと言う子もいるだろう」

 冒険者は若いうちに死ぬ者も多い。俺の父親もその一人だ。母親は父親が死んだ後、他の男と再婚してこの町から出て行ったみたいだ。フレアという女といい、アレフの周りの女はどうも俺の好みとは違うな。

 町には孤児院があり、そこの責任者と俺は話した。

「住む場所と食べ物、そして服を与えてくれれば良いです」

 俺はモース親方に育てられたけど、冒険者が死ぬと孤児院に子供を預ける親が多い。孤児院は常に満杯で、少しでも働ける子どもは出て行って欲しいみたいだ。

「部屋を借りたら、また来ます」

 いくらなんでもモース親方の家に手伝いの子まで住ませられないと思ったが、叱られた。

「変な場所に子どもを住ませては駄目だ。ここに住んだら良い」

 うん、俺が考えていたのはかなりやばそうな地域だ。そこぐらいしか家賃が折り合わなかったからだ。

「でも……」

 モース親方は、俺が払おうとしていた家賃で住めと言い出した。

 女の子は気を使うので、痩せっぽちのサミーを雇うことにした。この異世界では男はガタイが良く無いと生活するのが大変だ。アルフは背は高いがひょろっとしている。どう見ても冒険者タイプでは無い二人で、屋台をやっていく。

「サミー、キャベツを刻んでくれ」

 孤児院でも料理を手伝っていたのかサミーはなかなか手際が良い。手伝いを雇う前は、下拵えも焼くのも片付けるのも自分1人だから大変だった。今は焼くのに集中する。

 半年経った頃、下町の小さな食べ物屋が売りに出た。貯めた金では足りなかったが、不動産屋と掛け合って、半分は月払いにして貰う。

「異世界お好み焼き屋の開店だ!」

 小さな店だが、俺は嬉しかった。サミーと2人で2階に住む事になった。

「アルフ、頑張ったな」

 モース親方に引っ越しの手伝いをしてもらい、そのまま一階でお好み焼きを食べる。

「これはチーズを乗せたのか?」

 店を開くにあたってメニューも考えた。チーズをトッピングしたり、辛いソースも開発した。それとエールも冷たく冷やして出す。異世界ではぬるいエールしか無いのが不満だったからだ。

 ある日、あのピンクの髪のフレアがまた違う男と俺の店にやってきた。

「ふうん、小さな店ね」

 塩を撒いて追い出してやりたかったが、美味しいお好み焼きを食べさせてやる。あんな奴でも客だと我慢したのだ。

「なかなか繁盛しているみたいね」

 次々と客が出入りするのに、フレアと男は長っ尻だ。エールは出しているが、飲み屋では無い。皆、お好み焼きとエールを楽しんでは他の客に席を譲っている。

「おい、もう食べたなら席を譲ってくれ」

 虎頭のデカイ男にフレアと連れの男は追い出された。

「すみません、すぐに焼きますから」

 コップや皿を引いて、サッとテーブルを拭く。

「良いのさ、お前もあんな女に引っ掛からなくて良かったよ」

 どれだけ俺がフレアに振られたのが噂になっているのかとガッカリするが、お好み焼き屋は快調だ。ただ、このお好み焼き屋、何故か男率が高く、それもフレアに振られた奴が多いのだけは嫌になる。

 陰で『失恋お好み焼き屋』と呼ばれているとか……うん、気にしたら負けだ。

 今、俺は中華蕎麦を研究中だ。お好み焼きと言えば「そば肉玉」だからな。えっ、それは広島焼きだって! 違う、お好み焼きに決まっている。ただ、中華蕎麦はかん水とか難しいんだよな。「うどん肉玉」を目指す事にする。

 小麦粉、塩はある。前世のテレビで作り方をやっていたが、ビニール袋は無いので、スライム袋で代用だ。1週間、色々な配合で試した。足でふみふみするのも慣れたが、なかなかうどんは難しい。出来るだけ細くしたいのだ。

「まぁ、こんな物かな?」

「親方、これをどうするのですか?」

 サミーは不出来なうどん擬きを1週間食べさせられてきた。俺としては不満足でも、彼奴は結構気に入っているようだ。

「これをお好み焼きに入れるのさ。それと焼きうどんも良いな」

 サミーは少し考えて口を開く。

「スープに入れたの美味しかったですよ。それはメニューにしないのですか?」

 俺としてはうどんは鰹出汁じゃ無いと嫌なのだが、サミーはオーク骨出汁でも美味しいと喜んで食べていた。

「冬場は良いかもな」

 こうして異世界お好み焼き屋には、うどん肉玉のお好み焼きと、焼きうどん、そしてオーク出汁のうどんが新メニューとして増えた。

 どれも評判良いが、一番注文が多いのはオーク出汁のうどんだ。何故だ!

 俺としては邪道なうどんだと思うのだが、サミーは美味しいと言い切る。いつか、サミーにはうどんの屋台でも出させてやるか。

 今は前の世界のお好み焼きソースの味を復元するのが目標だ。今の甘辛味のタレや辛タレも悪くは無いが、地元のお好み焼きソースで食べたい。

「いつか寝て起きたら元の世界に帰っているのかな?」

 俺がアレフになったのなら、アレフはもしかして元の世界で俺になっているのかもしれない。うん、失業中フリーだから何とかなるだろう。貯金で食べてくれ!

 今は異世界お好み焼き屋を繁盛させる事が俺の目標だ!

          終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界お好み焼き屋、開業します! 梨香 @rika0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ