第2話 何か美味しくて安い食べ物は?
昼の用意、そして晩の用意をしながらも、俺はずっと『安くて美味しい食べ物』について考えていた。モース親方は良い人だが、ずっと下働きは情けない。冒険者になるって手もあるのだろうか? 俺は冒険者達が荷馬車に乗せて帰ってきた魔物を見て諦めた。あんなデカい魔物と戦うのは無理だ。それに今の俺は背は高いがひょろひょろだ。
「あの女に馬鹿にされたままじゃ嫌だ」
俺が振られた訳じゃないが、アレフの為にも見返してやりたい。この異世界で、安くて美味しくて、作るのも簡単な物。
モース親父の家に俺は下宿しているようだ。その部屋でうんうん唸る。どうもアレフは部屋すら自分で借りれていないヘタレみたいだ。軍資金も小銭しかない。壁沿いに作りつけてある小さな机の上にポケットの中の小銭をジャラジャラと出してみる。
「これだけか……」
屋台を買うのは無理そうだ。朝、昼、夜と屋台には客が多い。その間は仕込みで忙しいが、昼と夜との間は比較的に暇だ。おやつというか腹ふさぎになる軽食。
「俺が食べたいのはハンバーガーかポテトフライ、焼き鳥、おでん、お好み焼き……キャベツはいっぱいあるよな。オーク肉も。あとは小麦粉と卵! ソースは甘辛いタレで良いか」
お好み焼きは昔は屋台で十円洋食と呼ばれていたと爺さんに聞いたことがある。半分に折れば手で食べれるかもな。
俺はモース親父に昼間の暇な時間、鉄板を使わせて貰うことにした。テコは幼馴染のテッサに作って貰った。彼奴はフレアに振られたのを、凄く同情してくれていたので格安で作ってくれた。この町では俺がフレアに振られたのを全員が知っているのではないかと思うとかなり恥ずかしいが、卵屋のおばちゃんも安く売ってくれたから良いか。小麦粉も買ったら、ポケットの中の小銭は無くなった。
「おい、大丈夫か?」
小麦粉を水で解いていたら、親方が心配そうに見ている。
「大丈夫だよ」
俺は鉄板にオークの脂身を引くと、小さな円に小麦粉の溶いたのを薄く伸ばす。そこに千切りキャベツをたっぷり乗せて、オークの薄切り肉を置く。スプーンで水溶き小麦粉をくるくると掛けて、テコでひっくり返す。ジュージューとオーク肉の焼ける香りが広がる。
「なぁ、これではバラバラになるんじゃないか?」
親方は心配そうに鉄板の上のお好み焼きを見ている。
「大丈夫、ここからが難しいんだ」
鉄板に卵を一つ割って落とす。それをテコでチャッチャッと潰して、焼いていたお好み焼きをテコ2つで持ち上げて、卵の上に置く。ぎゅぎゅと端をテコで押して形を整える。
「変わった食べ物だな?」
オーク肉と卵の焼ける香りが食欲をそそる。今回は小さ目で作ったから、そろそろ良いだろう。
テコでひっくり返して、甘辛いタレを掛ける。ジュッとタレが鉄板の上で良い香を立てた。
「モース親方、食べてみて」
テコで半分に切って、二人で試食だ。
「うん、美味しいな。それに野菜も食べれるし、肉が少しでもお腹がいっぱいになる。これは良いぞ」
俺達が試食している間にも、興味を持った客が集まってきた。
「おい、俺にも焼いてくれ!」
それから俺は夜になってもお好み焼きを
焼き続けた。親方もキャベツを千切りにしたり忙しい。
「お前、これで屋台を出さないか?」
夜、キャベツもオーク肉も無くなって、片付けていた時、モース親方が言い出した。
「でも、俺は屋台を買う金が無いから」
テコと小麦粉と卵で金は全部使ったのだ。屋台なんて無理だ。
「屋台を買う金は俺が出してやるよ。少しずつ返してくれたら良い。死んだ兄貴にお前の面倒をみると約束しているからな」
牛みたいな角の生えたモース親方は、俺の叔父さんだそうだ。俺の頭には角は生えてないが、いつか生えてくるのだろうか?
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