異世界お好み焼き屋、開業します!
梨香
第1話 目覚めたら異世界
「酔っ払って寝たのか?」
昨夜は
「痛っ」凄まじい頭痛で膝を突いた。その時、初めて違和感を覚えた。俺はこんな服を着ていたか? まさか酔っ払い追い剥ぎに遭ったのか? 俺は背もそこそこ高く、ガタイは良い方だ。これまで25年生きてきてカツアゲにも遭ったことがない。しかし、昨夜はしこたま飲んだ。意識がないなら、看護スリとかもあるか。だが、服を着替えさせるか?
「兎に角、家に帰ってシャワーを浴びて寝よう」
ふとズボンのポケットに手を突っ込むが、財布は無い。何かコインがジャラジャラとあるだけだ。
「家に帰ると言っても電車賃も無さそうだ。スマホも無いな……交番で借りよう」
薄汚れた狭い道を出て、俺は目を疑った。これは日本では無い。そして外国でも無い。ここは異世界だ。うさぎ耳の可愛い子ちゃんはコスプレかもしれない。そして虎男も。でも、頭の上には2つの太陽が輝いている。
「家に帰ってシャワーのプランは無いな」
俺は裏通りに戻り、ポケットの中のコインをジャラジャラと取り出す。つまり、これで生活していかないと駄目なのだ。
「喉が渇いた……このコインで何か飲めるのか?」
一度、喉の渇きに気づくと他の事など考えられなくなった。冷たい水が飲みたい。いや、冷たくなくても水が飲みたい!
ふらふらと細道から出ると、屋台が並んでいた。どうやら異世界の俺もしこたま飲んで、酔い潰れていたようだ。
「アレフ、何をしてるんだ! 今朝はお前が買い出し当番だろ!」
俺の後ろ頭を思いっきり引っ叩く男がいた。
「何をするんだ!」
振り向くと立派な角を生やした親父がモーモー怒鳴っている。うん、コイツを怒らすのはまずそうだ。モーモー親父は俺に大きな袋をドサっと持たせると、スタスタと歩き出す。
喉の渇きは我慢できない。
「喉が渇いて死にそうだ!」
親父の後ろから怒鳴ると「少し待ってな! 二日酔いに良いジュースを作ってやる」と俺に向かって笑う。このモーモー親父は悪い奴では無いのかもしれない。それに、どうやら
モーモー親父は俺がやっと持って歩いている袋を二つ軽々と担いで、小さな屋台の前で止まった。ここが俺の職場みたいだ。
「アレフはその野菜を煮込んでな!」
子どもが入れそうな大鍋をドンと竃の上に置く。俺は袋からキャベツを出してザクザクと切ってはその鍋に入れていく。文句を言わないからこれで良いのだろう。親方は隣の屋台からオレンジっぽい赤い果物を貰い、キャベツを半分に切ると、果物と一緒にギュッと絞る。絶対に親方に逆らわないでおこうと俺は決めた。
「ほら、アレフ飲んでみろ。フレアに振られたからって自棄酒なんか飲むなよ。お前に相応しい女もいるさ」
木のコップになみなみと注がれたスムージーは苦くて酸っぱかったが、喉の渇きは癒えた。
「ほら、キャベツを切ったら、コイツだ!」
ドンと置かれた肉に気絶しそうになった。これは異世界物によく出てくるオークじゃ無いか。それも頭!
「無理ですよぉ」
中華街の鳥の丸焼きはまだ良いが、豚の頭は目を逸らした俺だ。
「相変わらず情けないな。そんなんだから冒険者になれないんだぞ。なら、耳を細く刻んでおけ」
耳をポイとこちらに投げてよこすと、親方は器用に皮を剥いで、肉を削っていく。俺は耳を恐る恐る細く切っていく。
切った耳はサッと湯掻いて、ザルにあげる。それを小皿に盛って、タレを掛ける。タレはピリ辛だ。摘んでみたが、なかなかいける。
鉄板ではオーク肉の切り落としがジュージュー良い香りをさせている。竃ではキャベツとオークの骨がコトコト煮込まれている。
「モース親父、肉と耳を一皿ずつ頼む」
匂いにつられて冒険者っぽい男達が集まってきた。俺も忙しくなる。何故、異世界にきたのかも考えられない。
「スープも一杯欲しいな」
スープは少し深い器に入れて渡す。木のスプーン付きだ。
戦場のような忙しさが終わった頃には俺はヘトヘトだった。
「アレフ、これを食べな!」
近くの屋台のパンに焼いたオーク肉を挟んだのと、スープの残りだ。腹が減っていた俺は、夢中で食べた。うん、美味い。スープは塩味だけだが、肉には甘辛いタレが掛かっているから丁度良い。
腹がいっぱいになってご機嫌だったのに、変な女に絡まれた。彼方から大きな剣を背中に負ぶった男の腕に胸を押し付けるように歩いているピンク髪の女がこちらに歩いてくる。わっ、性格悪そう! それが俺の第一印象だった。
「アレフ、こんな所でまだ下働きしているのね。なんなら肉でも買ってあげても良いわよ」
なんだ、この上から目線女は?
「フレア、もう構うなよ」
モース親方が女を追い払う。そうか、
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