第82話 思わぬ展開に
「もちろん、本心ではありません!」
きっぱりと季代に言い切られ、ホッとしたような、ガッカリしたような気持ちになった颯天。
「あの……どうして、そんな流れになったのですか?」
颯天に尋ねられても、雅人に対する透子の気持ちを颯天に伝えるわけにいかず、その理由に関しては、決して口を割らない季代。
「ごめんなさい。宇佐田さんにとっては、本当にいい迷惑だとは思います……」
「いえ、その、そんな事は無いですが……」
申し訳無い気持ちで恐縮している様子の季代を見て、理由を知りたいものの、深追い出来なくなりそうな颯天。
(輪野田さんは、自分の想いを貫くよりも、友人として透子さんの想いを優先させたい謙虚な感じの人だ……その輪野田さんが、遠慮して、僕の名前を挙げずにいられない状況って……雅人の名前を出せなかったから? だとすると、先に透子さんが雅人の名前を出したから、輪野田さんが遠慮する事になったのかも知れない……)
「もしも、宇佐田さんといる時に、と、いえ、新見さんの言動に違和感が有っても、私の言葉のせいだと察して下さい」
「はい……それは、構わないです。ただ、輪野田さんが新見さんにそう伝えてしまったのは、どういった流れからだったのか、知りたかったので……もしかして、新見さんの口から先に、矢野川の名前が出たのですか?」
雅人の名前にビクッとした季代。
(否定して欲しい! でも、この線がかなり確実なのは、輪野田さんの表情を見れば分かる……)
「それは……」
友人である透子の気持ちについて、まだ数回ほどしか会っていない颯天に晒す事を躊躇う季代。
「だったら、新見さんが好きなのは、矢野川という事ですか?」
(今までだったら、自分の想いが強過ぎて、透子さんの気持ちは、証拠となるようなシチュエーションや言動が無いと分からなかった。でも、僕の中の何かが変わって、前より勘が働くようになっている気がする……変身後は、誰もがこんな風になっていくのかな?)
「……」
否定も肯定も出来ずに戸惑う季代。
「大丈夫です、輪野田さんから聞いたなんて事は言わないですから。僕が勝手に、そう思い込んでいるという状態で構わないです」
「気を遣って頂いて、ありがとうございます。私も、さっき知りましたので、心の整理が追い付かなくて、すみません」
(そうだよな……輪野田さんも、透子さんとの女子バナで、自分の想いを伝えたかったのに、先に、雅人の名前を出されたら、引っ込めるしかなかったのだろうな。何だか気の毒に思えるくらいに、輪野田さんの心境が伝わって来る……)
「ですが、矢野川が新見さんを想っているとは限りませんので、まだ、輪野田さんは諦める必要は無いと思います!」
「ありがとうございます、宇佐田さんは、本当に優しいですね。でも、私は、新見さんと張り合えるような自信は無いので、実際は難しいですが……」
嬉しそうに報告してくれた透子の輝くような美しい笑顔を思い出した季代。
「そんな事無いです! 新見さんは確かに素敵な人ですが、輪野田さんだって、負けないくらいに素晴らしい人ですから!」
「宇佐田さんも、新見さんの事がお好きなのに、社交辞令でも嬉しいです、ありがとうございます」
季代の言葉で、ハッとなった颯天。
「えっ、あれっ、僕は、新見さんを好きだって言っていましたか?」
「何となく、宇佐田さんの様子を見ていたら伝わって来たので……ごめんなさい、余計な事まで言ってしまって」
失言だったと思い、ペコペコと頭を下げた季代。
「いいえ、その通りなので、焦りました!……矢野川が相手でも、新見さんの気持ちを確かめるまでは、僕は引かないつもりです!」
「そうですね! 応援してます! と、いえ、新見さんは幸せ者ね。宇佐田さんのような優しく頼もしい人からも想われて」
羨ましそうに季代が言った言葉が、颯天の心に刺さった。
(透子さんの事は、もちろん諦めないで想い続けるつもりだけど……どうしてなのか、輪野田さんの寂しそうな笑顔も妙に気になってしまう……僕は、気が多いのかな、もしかして?)
地球史上、最強の戦士となるために ゆりえる @yurieru
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