第81話 不審者扱い

「宇佐田さんですか……?」


 颯天はやてが振り返ると、防犯ブザー付き懐中電灯を手にした季代きよが驚きの眼差しを向けていた。


「輪野田さん……?」


「防犯カメラに、不審者が映っていたので、寮長として点検に来ました。宇佐田さん、どうしてここに……?」


(不審者って、僕か……? 防犯カメラって、エントランスのモニター付きインターホンだけじゃなかったんだ! うかつだった! 見られたのが輪野田さんのような人で、まだ良かったのかも知れない……輪野田さんって、寮長だったんだ。確かに、そういうイメージだな、強いし……)


 季代に尋ねられ、即答出来ずにいるうちに、色々頭に思い付いてくる颯天。


「あっ、僕は……矢野川の部屋に行った時にタオルを忘れて、取りに行こうとしたら、ちょうど出かけた矢野川が目に入ったから、つい気になって、後を付けていると、女子寮に入ってしまって……」


(あっ、思わずそのまま話してしまったけど、雅人が、幕井さんの部屋に行った事を知ったら、輪野田さん、ショックを受けてしまうのでは……今のは、失言だったかも!)


 既に発してしまった言葉を悔やむ颯天。


「矢野川さんが、女子寮に……? どなたの部屋に行かれたのでしょう?」


「あの、一応、お伝えしたいのですが、決して、ストーカー行為というわけではないのです。僕は、気付かれないように、雅人とは距離を置いて付けていたので、誰の部屋なのか分からないのです。誰かの部屋まで行った以上、ここで待っていても仕方ないかも知れないので、取り敢えず戻ろうとしていたところでした」


「そうだったのですか……不審者ではなくて、安心しました!」


 颯天を見かけた時と違い、安堵した表情になっていた季代。


「なんか輪野田さんには、いつも、こんな調子で尾行しているようなところばかり見られてしまって……何度も言い訳に聴こえるかも知れないですが、本当は、こういうのは趣味ではなくて、たまたまこんな感じになってしまっているだけなんです」


 季代に誤解されないよう、弁解せずにいられなかった颯天。


「そんな風に説明されなくても大丈夫ですよ! 宇佐田さんが、そんな人ではない事くらい分かりますから!」


 にこやかに笑う季代を見て、ドキッとなる颯天。


(輪野田さんって、本当に爽やかで性格の良さそうな人だな~! 僕なら、幕井さんより、雅人には輪野田さんを推したい感じだ!)


「信じて頂いて、ありがとうございます! 次回、見かける機会が有るのでしたら、まともな様子でいられると思います」


 颯天の言葉で、ハッとなった様子の季代。


「あの……宇佐田さん、とても申し上げにくい事なのですが、よいでしょうか?」


 かしこまったような調子で切り出した季代。


「はい……どういった事でしょうか?」


「私は、、いえ、新見さんと同期の事はお伝えしましたが、今日久しぶりに、新見さんのお部屋へ伺った時、たまたま、そういう流れになってしまった事が有るのです。それを伝えておかないとなりません。本当に申し訳無いのですが……」

 

 季代の恐縮しているような様子からは、憶測出来ない颯天。


「はい……そんな、僕などに対して畏縮しなくても良いですよ」


「ですが……この内容を耳にすると、宇佐田さんも躊躇われる事と思います」


「それは、つまりどのような……?」


、いえ、新見さんに、私が気になっている男性は、宇佐田さんと伝えたのです……」


 季代の言葉が予想外過ぎて、しばらく理解出来ずにいた颯天。


「えっ、そ、それは……」


 真っ赤になりながら、季代の言葉を待った颯天。

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