第80話 忘れ物をして

 雅人の部屋を後にして、自室に戻った颯天はやて

 ふと、首回りの開放感に気付いた。

 湯上りから首に巻いていたタオルを話に熱中しているうちに、雅人の部屋に忘れた事に気付いた。

 取りに行こうか行くまいか迷ったが、やはり、使用済みのタオルを例え、親友の部屋とはいえ、忘れたままにしておくのは気が引けた。

 すぐさま、回収しに向かおうとした時、雅人が部屋から出て来るのを見かけた。


(あれは、雅人だ! もしかして、気付いて、タオルを届けてくれようとしている?いや、何かを手にしているがタオルではなく、ファイルのようなものだろうか? こんな夜遅い時間から、どこに行くつもりだろう?)


 声をかけようと思ったが、ふと、雅人の行動に疑問を感じた颯天は、気付かれないよう距離を開け、そうっと尾行する事にした。


(なんだかな……最近、僕はこういうの得意になっているような気がする。こういうのに抵抗が無いっていうのは、根っからのストーカー体質なんだろうか? それより、雅人の向かっている方向って、まさかと思うけど……)


 周りに対して警戒している様子も無く、雅人は、女子寮に進んでいた。

 女子寮とはいえ、男子禁制という制度も、門限のような時刻も無い自由な個室の居住空間になっている。


(やっぱりだ! 女子寮に向かっている! どうして、雅人が女子寮に向かっているんだ? もしかして、幕井さんとは、カムフラージュじゃなくて真剣交際だったって事なのか?)


 女子寮の入り口には、大和撫子隊員や訓練生女子の部屋案内が記されていた。

 男子寮と違う点は、女子寮なだけに防犯対策が為され、エントランス部分にモニター付きインターホンが有る事だった。


(ここまで来ても、訪問相手が寝ていたり、拒絶すると、雅人は戻らせれる事になる……どうなんだろう? 事前に連絡済みなら大丈夫かも知れないけど、起きていたとしても、突然こんな時間に行ったら、女の人って、化粧落としているスッピン顔とか見られたくないかも知れないし、戻って来る可能性が高いか……)


 そう考えつつ、雅人の様子を茂みに隠れ見続けていると、ルームナンバーをテンキーで入後、エントランスの施錠が解かれた。


(どうやら、相手は起きていて、拒絶される事も無かったようだ。こんなにすんなりと入れてもらえるのだから、多分、幕井さんが相手だろうな? カムフラージュ交際なんて言っておいて、実は、お互いイイ感じなのかも知れない。だったら、雅人は幕井さんの部屋で、ゆっくりしていく可能性も高いし、ここで待っていても無駄かな?)


 颯天が諦めて戻ろうと背を向けた時だった。

 女子寮のエントランスが開いた。


 自分の愚行を見られていたと思い、ドキドキしながら、誰がいるのか確認しようとした颯天。

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