第7話 まだ始まったばかり

それからの事を話すと――。


「松本君松本君。女の子めっちゃ喜んで帰ってきたよ!」


夕方。俺は食堂の片付けをしていると、食堂の方にそんなことを言いながら大羽根さんがやって来た。ってか大羽根さん。マジで仕事してる?だったのだが……まあそれは置いておいて。

大羽根さんの方を見ると――あれだ。多分女の子真似だろうと思うのだが――。


「あのね。あのね。お父さんがお弁当を開けたら、お手紙みたいに卵で蓋がしてあってね。それでなんだこれ?って驚いてくれてね。それからね。卵を開いてみたら。海の中みたいでね。お父さんがすごいね。って喜んでくれたの。イカリングが美味しいってお父さん何回も言ってたよ――だって。とっても女の子嬉しそうに話してくれたよ」


うん。とってもかわいいバージョンの大羽根さんを見れた。ってそれは置いておいて――。


「それはよかった。大羽根さん見てると女の子がどれだけ喜んでたか良く伝わって来たよ」

「演技上手でしょ?」

「凄いです。はい」


うん。大羽根さんの報告を聞いている時は何かむず痒かったが――まあやったね。という感じだった。うん。満足。ってか安心だな。よかったー。だった。


まあまだ1回目だが――これがどうなるか。うん。果たして今週。次の注文があるかは――この時は全くわからなかったし。そもそも――これはどんな効果があるのだろうか……だったが。うん。とりあえず。お客さんがちゃんと喜んでくれたのでよしとした俺だった。


――――。


それから数日後。

そうは上手い事毎週お弁当の注文が入るということはなかった。なかったのだが――大波は突然やって来た。


それは俺が食堂で片付けをしていた時の事だった。

って、うん。お弁当より。食堂が何故か大繁盛だったりする。

気が付けば毎日。出来れば3食とかいう要望が職員から入っているとかないとか――うん。俺1人なんですよ。この食堂。だから俺にも休みくださいなんだよ。うん。まあとりあえずそんな時だった。お弁当は――1回で終わっちゃったかなー。と思いつつ片付けをしていると――。


「松本君!松本君!」

「—―うん?」


大羽根さんが食堂。休憩室へと飛び込んできた。何やら大慌てで……。

そういえばお昼の時間。大羽根さんは見なかった気がするから――何かが忙しくて、お昼ご飯食いそびれたか?と俺が思っていると――。


「大変!これ見て」

「うん?」


大羽根さんがカウンターにスマホを置いた。

俺が覗き込んでみると――。


「—―小学生の娘が私に内緒で、鉄道会社が始めたという要望を聞いてくれるという駅弁を注文。私を泣かせてきた。娘の要望を聞いてくれた鉄道会社の人。作ってくれた職員さんに感謝。そしてイカリングがめっちゃ美味かった――ってか知らない間に娘が成長していた――見逃した!」


何かどこかで見たような――いや、聞いたような文章がネット記事?に書かれていた――タイトルには「パパいつもありがとう弁当~大好きなイカ入れてもらったよ~」と書かれていた。


ってか。社長もだが。サブタイトル?みたいなの付けるの流行ってるの?と、俺は思いつつ――ってそれじゃなくてだ。


「—―ちょっと待て。これって――俺が作ったやつでは?」


スクロールすると今度は画像があり。

卵を切り開いた状態で出てくる。ウインナーで作ったタコ、さかな。そして葉物の上に乗っているイカリングに――卵の上に置いてあったヒトデの形。まあ人参を星型にくり抜いたやつなんだが。それがあって――その下にはミックスベジタブルで作ったご飯。

うん。俺が作ったやつじゃん。というのが――めっちゃ綺麗に、プロの写真家が撮ったのかよ!?ってくらい綺麗に映っている写真が掲載されていた。


「そうなの!これ今ネットでどんどん拡散されてるみたい」

「—―えっ?」

「とにかく、いつ受け付けているのとか。連絡がひっきりなしに事務所に来てて大変なことになってるの!」

「……はい!?」


それからすぐに、社長も食堂へと乗り込んできて――なお社長が走っているところを初めて見た俺と大羽根さんだったりするが――今はそんなことより。

何か大変なことになりつつあった。だったのだが――それはまた別の話。


今回は女の子を笑顔に出来たからいいじゃないか。ってことで――って、いやいやどうするのこれ?ホント。パニックなんですけど!?


とりあえず綺麗に終わらすだけ終わらせて。うん。そのあとは何とか考えますから!はい。えっ何を言っているかって?とりあえずパニックなので、質問は後日!じゃ。終わり!





――社長の思いつきは、時たま大当たりする。収拾がつかなくなるレベルの大当たりする。


「松本君!松本君を今すぐ50人いや100人集めるんじゃ!そして全てのお客様に笑顔を!」

「社長!意味わかんない事今は言わなくていいですから!」

「笑顔を!松本君を作るのだ!」

「……何言ってるかわからん。ダメだこりゃ」


俺は社長は放置して、大慌ての大羽根さんの方のヘルプに向かったのだった。





(おわり)

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オリジナル鉄道弁当販売中 ~あなたの希望する駅弁作っちゃいます!~ くすのきさくら @yu24meteora

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