本編STORY1-1 「覚醒」
冷たい床の感触に、ふっと目を覚ました。
思ったよりも視界が暗くて、自分が本当に目を開いたのかがわからなくなる。
身を起こすと、ここはどうもどこかの建物内の地下だと感じた。
透明な雫が一粒、頬を滑り落ちる感触で初めて自分が泣いているのだと知る。
どうして泣いているのか考えるが、面倒だったのでやめた。
心の底にかすかに引っかかるもの。
夢を見ていた。
どこか、間の抜けた哀しい夢。
ぼんやりとそれを思い出そうとした時、自分のすぐ近くでカツン、と靴の音がした。
バッとその場を飛び退くと同時に、臨戦体制に入って太腿のガーターにある使い慣れたナイフを取り出す。
この場にはそぐわない陽気な声が聞こえた。
「おっと、待て待て、ボクは君に何もしないよ」
少し高めのアルトが場を満たす。
少女とも少年ともとれる声で、性別を判別させるのは無理だった。
「まあ、まずは窓を開けさせてね。こう暗いと何も見えやしないから」
そう一言断って、そのすぐ傍にあったシャッター付きの窓をガラガラと上に上げた。
途端、外から一筋の光が中に差し込んだ。
思わず目をつむってから、はっとナイフを構える。
「おおっと、怖い怖い。大丈夫だってば」
そう言うのは、窓の近くにいた栗色のショートカットの中性的な人間だった。
年は私と同じくらいか、上。
快活そうな明るい翠の瞳が僕を見つめて細くなる。
まるで不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫みたいに笑う奴だった。
「…あなた、誰」
「ボク?ボクはNo.5。でもナンバーとか一々覚えるの面倒臭いから、5番からとって“いつき”って呼んでよ!」
にこにこと笑いながら大袈裟な手振りで歩いてくる。
「まあ、まずはナイフを置いて話し合おうじゃないか」
目の前までくるそいつを無視して、周りを確認すると、窓のある反対側の壁の隅に二人の人間の姿があった。
どうやらこの地下室には私含め四人の人間がいるらしい。
隅にいる二人を見つめる。
一人は大人びた表情の碧眼の少女だった。
胸許に十字架のネックレスを下げている。
金色の長い艶やかな髪が光を浴びて、キラキラと輝いていた。
もう一人はまだ年端もいかぬ少女だった。
その黒髪の少女に抱かれるようにして、こっちを窺っている。
ぱちりとした大きな紅の瞳に、セミロングの黒髪。
両手には大きなウサギとネコが合体したような形のぬいぐるみを抱いていた。
「…」
害はないとわかってナイフを下ろす。
太腿に仕舞うと、手が差し伸べられた。
「ありがとう。君の名前も聞いてもいい?」
「…No.3」
「わかった。3番だから…“みつは”だね!」
「…」
ちらりと他の二人を見る。
「…あそこの二人は」
「あの金髪碧眼の子はNo.9の“くう”で、小さい方はNo.7の“なの”。ほら、二人ともおいで。怖くないから」
おずおずと出てくる二人。
すると、なのと呼ばれた小さいのがててて、と私のところにきた。
ずいっとぬいぐるみを出されて眉をひそめる。
「…なに」
「…このこ、ぬこうさぎ」
「…?」
「ぬこうさぎ。このこの、なまえ」
そこまで話されてようやくこの謎のぬいぐるみの正体がぬこうさぎっていう名前だとわかった。
いつきが安心したように、からからと笑う。
それから、さて、と話し始めた。
「これからのことを決めようか」
_________悪夢が、始まる。
後味の悪いフリーホラーゲーム「NightMare」 雪音 愛美 @yukimegu-san
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