丑の刻参り

ツヨシ

第1話

休み前になると、時折神社に出かけることがあった。

それも午前二時とかそんな時間にだ。

理由は自分でもよくわからない。

ただ行きたくなるのだ。

長く行かないでいると、何日も落ち着かない日々を過ごすことになる。

もう辞められない習慣と言っていい。

それとも一種の依存症か。

午前二時の神社には、当然ながら誰もいない。

そこでしばらく過ごす。

とにかく落ち着く。

しかしただ一度だけ人がいたことがあった。

神社に入ると、本堂の裏辺りから何か音がする。

カンカンカンカン。

――誰かいるのか?

気配を消して近づくと、白い死に装束を来た長い黒髪の女が、木に何かを一心不乱に打ち付けているのだ。

よく見るとそれはわら人形だった。

――うわあ。

すると女が振り返った。

とっさに木の陰に隠れた。

――気づかれたか?

息を殺していると、しばらくしてまたわら人形を打ち付け始めた。

――よかった。気づかれてない。

俺はそそくさとその場を後にした。

そんなことが一度だけあった。

もう二度とあんな場面には出くわしたくはないものだ。


ところがそれからしばらく時が過ぎた頃、いつものように夜中に神社に行くと、聞こえてきたのだ。

カンカンカン。

恐怖心はあった。

しかし無視して帰ろうと思っていたのに、俺はその音に引き付けられてしまった。

好奇心の方が勝ったのだ。

静かに音に近づく。

すると、いた。

いや、いたというのは正確ではない。

いなかったと言えばいいのかどうか。

なんとそこには、五寸釘で打ち付けられているわら人形と、打ち付けている木づちは見えるのだが、誰の姿もなかったのである。

ただ木づちだけが、宙を激しく動いていた。

――ひえっ!

すると木づちの動きが止まった。

俺は前回と同じくとっさに木の陰に隠れた。

しばらくすると、またカンカンカンという音が聞こえてきた。

――気づかれずにすんだかな。

俺は逃げるようにその場を後にした。

――それにしても……。

死んでからも丑の刻参りをするなんて。

なんて業が深いのだろう。

俺はそう思った。


       終

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丑の刻参り ツヨシ @kunkunkonkon

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