二次元ガチ恋サキュバスは揺るがない!

フォトンうさぎ

二次元ガチ恋勢サキュバス、追放される

「落第……? 魔界学園追放……!? どっ、どうしてですか!? 私はただ二次元の精液を摂取したい、普通のサキュバスなのに!」


「この世に存在しない物質から文句言い始めるのやめてくれないかしら?」


 赤色に覆われた空の下、お城のような建物に隣接するグラウンド。その片隅で、二人の悪魔が言い争いをしていた。

 一人は小柄な少女で、もう一人はその少女より年上の女性。どちらもスタイルは良く、小柄な少女の方はトランジスタグラマーという言葉がふさわしい。


 なんでなんでなんでと地団駄を踏む少女の名を、妙齢の女性悪魔は冷たく告げる。


「魔界学園淫魔サキュバス科1年、アマネ・エヴァンジェル」


「先生! 真名で名前を呼ばないでください! 他のサーヴァントに聞かれてたらどうするんですか……!」


 いやいやとピンク色のロングヘアを振り乱してから、アマネという少女はきっと先生という立場の女性をにらみつけた。そして、ぐぬぬ顔である。

 状況をきちんと理解していないようなアマネの行動に、先生は上を向いて目頭をきゅっと押さえる。


「誰がマスターよ、ここで聖杯戦争やってないわよ。……えぇと、アマネ。あなたは1年生を留年し、時間を貰ったというのに、それを無駄に過ごしました。あなたの授業態度はあまりにも酷く、テストの解答は何かのパロディだらけです」


「くっ……! 殺せ!」


「誰がオークよ、誰がゴブリンよ。マジで殺すわよ……! あぁ、いけないいけない……。サキュバスとしての実技は0点、マイナスを付けたいほどです。二次元キャラの1分の1フィギュアに対してガチの告白する悪魔なんて初めてです。執愛もほどほどにしないと、こうやって追放――」


「失礼だな、純愛だよ」


「誰が夏油傑げとうすぐるだ! 緒方恵美おがためぐみの声マネ上手すぎてビビったわ!」


 先生はついに余裕を無くし、ぎゃーぎゃーと手を振り上げて叫ぶ。しかし、その前にいるアマネはどこ吹く風。いきなり裾からハーモニカを出して吹き始める。その後ろには赤く暗い空なのにオレンジ色の夕日が見えるようだ。二次元好きのサキュバスの特技、ここに極まれり。


「きた……! きた……! ……インフェルニティを使いそうな死神の物マネやめてくれる!? ああもうっ! とにかくあなたは、もうこの学園にいられません! 部屋はこちらで勝手に片づけさせていただきました」


「ごふっ……!? エフッ、エフッ!? みみみっ、見たのですね私の部屋を……! 恋する乙女の部屋を、勝手に……!」


淫魔サキュバスなのに闘士グラップラーせきの仕方するの、やめてくれないかしら」


 ここで、ついにアマネが焦った表情を見せた。先生は頭を片手で押さえ、ため息をついてからまた言葉を紡ぐ。


「部屋中に貼られたポスターとか、人形とか自作の漫画とか、まとめて処分します。二次元キャラの1分の1の人形とかホントどこから……」


「あっ、あれはっ、設置型の宝具です!」


「急にそんなに無さそうなタイプを挙げないでくれる? あとね、以前にもあなたのルームメイトから、グッズが多すぎと苦情が来ていて……」


「ああ、それなら大丈夫です。彼女は同じ沼に落としました。今は『抜け出せ、ないッ!!』と決めポーズをとりながら言う状態になっているので解決しています」


不義遊戯ブギウギされている時の花御はなみのような言い方!? ってか、同じ沼に落とさないでよ落第者が増えるじゃない!」


 ぶるぶると恐怖に震える先生。事態を重く受け止めてから深呼吸し、またアマネに対して告げる。


「とにかく、単位くらい取れるとは思っていたのだけど……ここまで性に関して酷いとね。サキュバスとして、恥よ、恥。成長してもサキュバスの資格は取れないわ」


「死角? ありません無敵です。 破壊殺はかいさつ羅針らしんを常時展開しています」


「お前も資格を取らないか? じゃ、ねーよ!! 落ちてゆくのは夢の中じゃなくて、お前の単位だよ!!」


 もう完全に先生はアマネへのツッコミ役になっていた。アマネはいつもこうなのだ。自分の圧倒的なペースで、周りをどんどん巻き込んでいく。一度巻き込まれたら、サムズアップしながら溶鉱炉に沈む覚悟をするしかない。


「いい? あなたはサキュバスなの。男をたぶらかす悪魔なの。その自覚はある? まぁ、直接的な表現はいろいろ危ないから避けるとして……色々面倒だし。あなたはサキュバスでしょう!? 夜のとばりが降りたら何をするべき!?」


五条悟ごじょうさとるが、あの何か赤い球を飛ばすシーンですか? 失礼ながら私、五条の女ではないので……」


「あなたの方がいろいろ危ない表現してるわよ!? ……おほん。あなたの可愛らしい桜色の口は何のためにあるの!? 男を誘い、ついばみ、すするためでしょう!?」


「口? 私、口でペンを咥えて絵を描けますよ?」


「寺にいる坊主か何か? もっと太いペンを咥えてほしかったわ……」


「Gペンくらいまでなら……」


「この話題止めよう、あなたがすごいのは分かった。ごほんっ、あなたの自慢の大きな蠱惑的な胸は何のためにあるの!? 男を誘惑し、挟み、搾り取るためでしょう!?」


「水の呼吸が使えるくらい息を吸えます。原稿に全集中するためです」


「別のものに集中しろ! あなたの……お腹周りは表現的に避けるとして……体は――」


「シグマタイチョウ! オカラダノホウハ!」


「ウルサイ! 細くさらりとした綺麗な足は何のためにあるの!? 男に近寄り、踏み、絡めるためでしょう!?」


「足から魔力を飛ばして、その中に突っ込んで敵を蹴り抜くためです」


「クリムゾンスマッシュができるようになっても、オルフェノクはこの世のどこにもいないのよ? 頭痛くなってきた……あなたにしなやかな尻尾があるのは何のため!? 男に巻き付け、引き寄せるためでしょう!?」


「相手フィールド上に存在する裏側表示モンスター、または選択した恐竜族モンスターのレベル未満のモンスターを合計2体まで選択し、持ち主の手札に戻すためです 」


「相手フィールド!? 恐竜族!? ごふっ、ごふっ……。あなたのサキュバスとしての役割は何!? 男に七つの大罪を犯すようにするためでしょう!」


「七つの題材を起こす……? 初心者の方が、いきなり七つもストーリーを作るのは難しいと思いますが……」


「確かに……。私も一つ題材を作るだけでも精一杯で……じゃないわよ! やめろ! その、『先生、やりますね……!』みたいな同士を見つけた表情するなぁ!」


「ありがとう、ありがとう……!」


「笑いながら手をピクピクしないでくれる!? 背中から抉られそうで怖いわ! お前の手はカギ爪じゃねーだろおぉおおぉぉお!! ぜえっ、ぜえっ……! せめて、目! 目は綺麗でしょ……」


「ランダムでいろんな形にできます」


「ギルティギアのファウストの必殺技! ……やめて、90年代のセル画の目にならないで。何種類できるのか気になるじゃない! うわっ、ギアスの再現度すごい……じゃねぇよ!! だ、駄目、ついていけない……」


「立てっ、立つんだジョー!」


「うっがあああああああああ!? うがあああああああああ!!」


 あまりにも入ってくる情報が多すぎる。先生の頭は情報と怒りでパンク。両手で押さえつけながらぶんぶんと振り回す。


 いくらか振り回した後、ピタリと止まり。また言葉を淡々と発する。つまり先生は、考えるのをやめた。


「追放先は、人間界。男を弄んで夢中にさせて、私達が許可するまで……帰ってくるな。猶予をあげるんで、それまでにサキュバスらしく男作れ」


「人間界……そんな……がっこうぐらし、させてくれないんですか……? ん? 秋葉原へ行ってもいいんですか? 聖地巡礼してもいいですか?」


「どこの次元の男捕まえるつもり!? はぁ……ゲートを用意してきたわ。これで人間界に行って、修行してきなさい」


 しかし、考えるのをやめてもアマネのマシンガンのようなパロディネタは止まらない。

 それを必死に耐えしのいで、先生は手のひらを掲げる。すると、その体の右隣が歪み、ブラックホールのような黒い渦が姿を現した。別の世界へとつながる扉だ。


「次元の男……ごくっ。ルパン三世を捕まえるのはさすがの私でも……いや、五ェ門ごえもんですか?」


「その次元じゃねーよ! 修行して、男! 現実の男を捕まえてこい!!」


「修行って……危険じゃないですか! 荒野に孫悟飯を放置していくピッコロですか!? 『門を通ったら、子供の姿になっていた!?』とかありませんよね!?」


「勝手に口から卵産む異星人にしないでくれる? それにコナン君とかジャヒー様みたいにはならないから大丈夫。もうさっさとここ通ってよ……あなたへの判決は覆らないの」


「ふんっ、嫌です。私はきちんとサキュバスとして魅力的に成長して……いつか、『魔法青年プリズム・コトミン』と誓いのキスを……!」


 つーんとそっぽを向いてから、アマネは目をキラキラさせて両手をぎゅっと握る。先生の目は死んでいた。


「いくらあなただって、ドラゴンに会ったりするような、暴漢に襲われるような窮地に置かれたら、同人誌やグッズを捨てて逃げるでしょう? 『いのちだいじに』でしょう? 助かりたいがために、男を作るでしょう?」


「えっ……? 普通に立ち向かいますが? こぶしで」


「だから闘士グラップラーの考え方やめろ!」


「追い詰められたら黒閃こくせん4連続とか卍解ばんかいとかできますが……? 受けるダメージが10分の1になったりします。あとBGMがピンチ用のものになりますね」


「どんな底力を持ったナナミン!? あとポケモン勝負じゃないから!? だとしてもあなたが覚えるべき技は、『メロメロ、なきごえ、のしかかり、しぼりとる』よ!?」


「は? 『スケッチ、スケッチ、スケッチ、スケッチ』ですが? そして特性は『せいしんりょく』です」


「おーい、誰か『はかいこうせん』のわざマシン持ってきて私に覚えさせて。今ここでコイツを消すわ」


「1、2の……ポカン! ポカン! ポカン! ポカン!」


「『はかいこうせん』しか使えないポケモンにしないで!?」


「ポケモンは恐ろしい生き物です!」


「だーれが超ウルトラ生き遅れハイパーホラー未婚ババァだってぇ!? ……って、鋼の錬金術師のエドみたいな言い方させるな! あああああああ!! もうっ!! コントロールできない!! いうことを聞かない!!」


「えっ、先生に通信交換できる相手いるんですか?」


「ポケモン交換ぐらいできる相手はいるわよおおおおおお!! うがあああああああああああああ!!」


 先生はのけぞって激高。アマネはどこか満足気だ。

 肺の中の空気をすべた吐き出した先生は、今度は項垂れて話し始める。


「思い残しがないように……あなたのグッズは今ここで処分するわ。持ってこい」


 先生が指を鳴らすと、数多くのコウモリが大きな風呂敷をぶら下げてどこからともなく飛んできた。

 降ろされるパンパンの風呂敷。地面にどすんとつくと共にびりびりと破けて、その中に大量に詰められたいくつものグッズが姿を現した。


「ぞくっ……!!」


「初めてGTロボを見た時のトリコの表情しないでくれる? ん? 何かしらあの手。それより、なんでこの量のグッズが部屋に入ってるのよ……四次元ポケットなのあなたの部屋?」


 先生が山のような荷物へと近づく。そこには、大量のグッズの中から飛び出した片手があった。


 誰かグッズの中に巻き込まれたのだろうかと、先生は思いっきり手を引き抜く。

 そして、肩口までだけの腕がすぽんと抜けた。


「ひっ!?」


「推しの手です。リアルですが作りものなので大丈夫ですよ?」


「『推しの子』みたいに言わないで!? あなたは吉良吉影きらよしかげ!?」


「真名を教えることはデメリットになるので……」


「既に名前知っとるわ! お前なんてはよ英霊の座に帰れ! ええいっ、燃やす! このグッズは燃やさなきゃ、駄目だああああああ!! 私のこの手が真っ赤に燃えるぅ! 生徒を導けととどろき叫ぶぅ!!」


 先生が掲げた右手に、激しい炎が宿る。この先生は本気だと気づいたアマネが、その右手にすがり付いてなんとか止めようとした。


「松田ああああああ! 何をやっているうううううう! ふざけるなぁ! やめてっ、ほんとやめてっ、やめてくださいぃぃぃいいぃ!! 私の青春が! 術式白であるDEATHよまれたらしぬノートや原稿を、反転術式黒えんぴつとかインクで埋めた私の思い出が!」


「だから最強の呪術師から離れろ! なぁ、サキュバスだろお前! なぁ、なぁ、グッズ置いてけ、なぁ! サキュバスだろ、サキュバスだろ、グッズ置いてけ、なぁ!!」


 先生は物凄い形相でアマネを睨む。顔が真っ黒に見えるくらいの迫力だ。アマネは恐怖し、つい先生から離れてしまった。


「ひぃっ……! わかりました……! わかりましたから、島津の武将みたいな怒り方しないでくださいぃ……! シンデレラグレイのオグリキャップみたいな顔しないでくださいぃ……!」


「隙ありっ! 消毒だああああああああ!!」


「あ゛っ……!? ぐああああああああああああああああああああ!!」


 手から放射される炎、燃え上る推しのグッズ、真っ赤に染まるグラウンドの端っこ。

 グッズを焼く炎を見て……アマネは人生の中で一番大きな声で絶叫した。


「ギガブレイクを受けた時のクロコダインの声出さないで!? ……いや表情!? 飛行機を撃ち落とした時の衛宮切嗣えみやきりつぐ!! 罪悪感半端ないわ!!」


 燃え盛る推しのグッズ。何度も地面を拳で叩き、何度も叫ぶアマネ。

 しかし……その叫び声にある共通点があることに先生は気づいた。気づいて、しまった。


「ぐぎゅぐばあああああああああ!!」


「ディアルガ!」


「ぱるぱるうううううううううう!!」


「パルキア!」


 そしていきなりすっと涙を引っ込め、勢いが収まり始めた炎を死んだ目で見る。


「………………」


「うわぁ!? 急に冷静にならないで!? ダークライ? ダークライよねそれ!?」


 いくらかの時間が経って……炎と熱は完全におさまった。アマネは立ち上がってふらふらと残った灰に近づき、その手前で崩れ落ちる。


「えぐっ……えぐっ、えぐっ……!」


 アマネはそっとグッズの灰を両手でかき集める。先生は少しやりすぎたかと可哀そうに思った。しかし、その動きも……。


「ぐすん、ううぅ……!」


「甲子園の土を集める高校生!」


「ぐすっ、ぐすっ……炎炎えんえんの炎にせ、ラートム……」


「私が人を殺したみたいな表現やめてくれるかしら……」


 ぼうっと青い呪力をまとうがごとく、アマネの体がオーラに包まれる。勢いよく先生の方に振り返って、涙を流しながら力の限り叫んだ。


「お前がぁ! お前が推しを殺したぁ!! これは、間違った死だ……!」


「あなたは既に少し錯乱している!! モウヤメルンダッ!! 瞳孔開いてるわよ!? それにあなたは虎杖悠仁いたどりゆうじじゃないでしょ!? ……ん? し、死んでる……立ったまま……」


 アマネは立ったまま停止していた。さながら、武蔵坊弁慶のように……。

 そしてまた、いくらかの時間が流れ……。


「どれだけ死んだふりしても、ザオリクはかけないしTーウィルスも打ち込まないし、死者蘇生も発動しないわよ」


 先生の冷たい言葉を受けて、アマネはやっと動いて、また崩れ落ちて拳で何度も地面を叩いた。


「私の居場所はここじゃないんですね……! ちょっと電脳世界へINTO・THE・VRAINSイントゥ・ザ・ヴレインズしてきます。公園にいる子供達をさらって人工知能作って、電脳世界で推しと添い遂げます……!」


「それはやめろおおおお!! なんかとんでもないヘイト稼ぎそうだからやめろおおおおお!! ていうか私、さっきからずっとゲートを開いているの! 魔力消費がキツイのよ!? ええい、必殺のぉ……Are You Readyアー・ユー・レディ?」


「できてるよ……! ハッ!?」


 先生が口にした決め台詞につられ、アマネも左手を前に向けた決めポーズと決め台詞で対応していた。

 くそっ、やられた……! Lエルに先手を打たれた夜神月やがみらいとのようにアマネは頭を抱えた。


「勝った! 第1話、完!! 言質取ったわよ。行っていいってさ……!!」


「くっ!? せ、せめてっ、三次元の男の人ではなくドラゴンボール7個や、眼魂アイコン15個を集める試練にしてくれませんか!? ……ごめんなさい嘘です。香燐かりんを千鳥で貫く時のサスケの表情しないでください」


 ついに先生の怒りが頂点に達し、アマネは縮こまる。

 諦めて項垂れて、アマネは黒い渦の前へと歩いていく。そして、先生の顔を儚げに見た。


「先生……」


「ん?」


「まさか闇のチップを乱用してないですよね? ダークチップとかでHPが1ずつ永久的に減ったりして無いですよね?」


「いきなり何の話!? あっ、ダークホールか! うん、確かにそれっぽいね!? うるせぇ私のHPはお前に削られてるよ!! お前のヘビーゲージのせいでリカバリー使えねぇんだよ! お前だけフルカスタムでコンボ決めてくるんじゃねぇよ!!」


「……あの、網走あばしり監獄から出た囚人の皮を全部集める試練にしちゃダメですか? ナインボール・セラフを作り上げる試練じゃダメですか?」


「どこのゴールデンなカムイ!? こえぇよ!? あとお前が作り上げるのはセラフじゃなくてセフレな!? さっきちょっとだけお前のノート見たけど、セラフの設計図ガチで作るな! ナインボール・セラフの妄想は終わりにしとけ!!」


「終わりのセ――」


「言わせねぇよ!? もう本当にさっさと行って!! 第1話からこんなにネタ出したら、後の話が面白くなくなるでしょ!?」


「ならば、つまらなくしてやる!」


「オルドナ・ポセイダル!? あなた頭の中にネタのバイオリレーションシステム積んでるの!? いい加減にしないとMAP兵器版のバスターランチャーで、1ターンでこの物語終わるわよ!?」


「ふぅ、わかりましたよ……。行けばいいですよね行けば。先生、私は必ず戻ってきます……! 理想の二次元の男性を……必ず推しを抱いて……! 私は、生きて推しと添い遂げる!」


「最終回でメガ粒子砲ぶち込んでやろうかコラ。さっさと行け。頼むから私のツッコミに対して『倍返しだ』しないで。私どうしても反応しちゃうから、ノリス・パッカードのようにはじっとできないのよ」


「くくくっ、私がインポスターではないとしても後悔しないでくださいね? では……SAYONARAサヨナラ!」


 右手を肩くらいまで上げて伸ばし、サムズアップしたままアマネは闇の中を歩いていく。アマネは振り返らず歩いていって、暗闇の中に消えていった。


「しめやかに爆発四散したのか、エンディング前のNエヌのどっちかしら……」


3式機龍さんしききりゅうでーす! さんしききりゅうでーす! さんしききりゅうでーす……!」


 姿の見えなくなった暗闇から、アマネの返事が木霊こだまする。

 ぶちっと先生のこめかみの血管が切れ、先生も先程のアマネのように、人生で一番大きな声を出して叫んでいた。


「うるっせえええええええ!! ブラックホールに飲み込まれるお前ゴジラなら、スペースゴジラのシチュエーションだろうがあああああああああ!!」


 先生の叫び声がアマネに聞こえてたのかは不明である。だがアマネが人間界に行ったのは確か。どっと脱力して、先生はその場で片膝をついた。


「厳しい戦いだった……! デスピサロやオルゴ・デミーラよりしぶとかった! アマネVSスペースアマネから全てがデストロイされる展開にならないことを信じて! ご愛読、ありがとうございました……! それにしてもあの子、遊戯王の最終回みたいなゲートの通り方していったわね……ん?」


 ブラックホールのようなゲートの中から、ひらひらと一枚の紙が舞ってきた。先生はそれをキャッチし、折り目が入ったそれを開く。


「手紙? あの子から……。そうよね、友達にお別れくらい告げたいわよね――」


『わたし、どうなて。かゆい、うま』


「……バイオハザードォ!!」


 先生はかのヒイロ・ユイより強く手紙を破り、地面に叩きつけたのだった。

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