高黄森哉

羽ばたき


 そいつが入って来たのは高2の夏の終わりだったかなあ。ごくごく普通かそれ以下の奴で、ただ、覇気がなかった。転校生だから、みんな話しかけたけど、あいつ口下手で、一週間たったら、飽きられてた。なんか、クラスの不良の奴だったかな。そいつ女なんだけど、そいつのコトいじりだして、それで、だんだん、エスカレートしていったんだよね。

 

・いや、なんか、クラスに馴染めなくってさ。嫌になるよ、ほんと。あーあ、失敗した。てかさ、引っ越すたびに知り合いがいなくなる。なにやっても、中途半端なところで中断されるんだから、あー、いま、いいところだったのにな、って。思うよね。


 三年生の夏でした。なんだか、妙に涼しくて、蛹が逆光になってて青空の背景とよく似あっている、そんな形状を夏に感じたんです。ツマグロヒョウモンの金の背中を思い出したのは、妹が持ち帰って来たからで、しばらくカーテンにくっ付けてたんですけど、蜂が湧いて死んでしまいました。気持ち悪くって、捨てちゃいました。


・こっちは、もう夏休みなんだけど、そっちはどうなの。嗚呼、 まだか。そっちは、自称進学校だからか。まったく、なんで、自分の生きたい高校に入学できたのに、卒業出来なかったんだっての。部活? 入ってないよ。


 私、三年生に上がって、転校生君と同じクラスになったんですよ。そしたら、なんか元気ないみたいで、机に突っ伏したまま、動かないんです。死んでるんじゃないかな、と思って、勇気を出してゆすって見たんです。そしたら、ぐうって、お腹が鳴って。それで、ああ、良かったって。でも、首元に縦に入る傷があったんですよ。クラスメイトみんな、ためらい傷じゃないかって心配して、それで。


・うぜー。あいつら、お山の大将だって気が付かないのかな。俺の方がいろんな地域に言ってたから、知り合い多いはずなのによ。どうも、気に入らねえよな。どうもう。帰って来いって言われても遠いだろ。三日かかるわ。飛行機なら、直ぐなのになあ。


 私が教室についた時には、もう、空になってました。どうしたんだ、こんなに早くに学校に来て、って、声を掛けて、しかし反応がないから、軽い気持ちで頭を撫でたんです。そしたら、べこっと、凹みまして。ええ、それは、仰天しましたよ。そいで、背中に割れ目があったんで、覗くと中身がなかったんで、またびっくりして。教室の窓が空いてて、どうしたんだろうと閉めようとして、近寄って、ふと空を見たら、巨大な蛾が飛んでました。背中に人の目の模様がありました。あんなに大きな蛾、初めて見ましたよ。あれは、なんていう名前なんでしょうね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高黄森哉 @kamikawa2001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説

玉サバの治療

★3 現代ドラマ 完結済 1話