月見里なぎさの夢世界

@irekoucha

第1話 私の夢

”自分”という人間を敢えて客観的に捉えようとすれば、誰もが活発的で利口でどこまでも明るい女の子だと口を揃えて言うだろう。

当然である。私はあえて”月見里 なぎさ”という人物像を作り上げているのだから。

本当の自分は心の底まで理性的でいかなる時も冷静さを手放さない、そういう人間だ。

人間、誰かと触れ合う時は明るく振る舞うものだ。

心の中でこの人間になるべく良い印象を与えようと努力する、刻み込もうとする。

それが権力者などの場合はなおさらだ。自分の場所を作る為、もしくは見せつけるため。

そんな事は当たり前かもしれない。

だがしかしそれが常在化、”いつも”であればどうだろうか。つまり自分に関わる誰もが自分に対する好意を見せかけであれ、真実であれ抱かなくてはならない。

そして忠義に相反する事を発見した場合、密告が始まる。

そうやって結局最後には忠誠心と真の好意を擁する者のみが身の回りには残るのだ。


人間の純粋な好意とは本当に素晴らしいものだと思う。プリントを持って行く時彼の分まで持っていったり、給食を配膳する際、私の為に良いところを担当が分けてくれたり、

自分が頼まなくても周りが勝手に動くのだ。好意と忠誠心で人が自分の為に働くのである。

小六で私はその理想郷の建築に成功した。嗚呼、素晴らしかったあの日々。

先生が、”まるで月見里さんは女王ね”と言った。それは違う。

女王は王という一種の絶対的な権力が周りを動かしている。不満や反抗精神が多少入っていたとして、そうせざるを得ないのだ。

しかし周りが私の為に働いたのは自発的な私への好意が原動力となっていた。いわゆる忖度といった政治家に近い。

ここで一つの問題が発生した。私に周りがサービスできる機会は限られているのである。すると純粋な好意のぶつかり合いが始まる。

私へ渡すプリントの競争が始まるのだ。これは私が原因の諍いで、私が調停を下すのに多大な労力を必要とした。

中学に入る時、引っ越すと両親に告げられた。自分は次なる理想郷の明確な目標を定義した。”誰もが私に好意を抱き、自分の持ち場を自然と理解する事”

だがどうだろうか、私はそれに成功したかもしれない。ただ、小学校の頃とは違った意味で。



周りから見た自分の姿と自分が自覚している自分の不一致に苦悩している。自ら作り上げてしまった二重人格的な思考の構造に。


自分からこういう風に生きてきたのに、それで人を心から信じられなかったり、

だけれどもこういう生き方を選んだのはこの生き方が一番自分にとって有利だと考えたからだ。

私をとりまく底抜けに明るいバカ4匹は今日も「なぎさ〜!放課後はドーナツショップに行こう!」と言う。

2日連続で行っているが一体あんなカロリーと糖分の塊に一体何を求めるのだろうかと心底思う。「あー、うん今日はいいや。」

生返事で応える

「えぇ!?行かないんですかぁ?」

ギャルっぽい女が私の返答に不満げに言った。この女は誰だったかな?確か同じクラスの……..名前は思い出せないけど

「じゃあ、今度ね。今週の土曜日でいい?」

「やったー!!絶対だよ!!」「うっす。」

私は適当にあしらって教室を出た。

さて、今日の予定はこれで終わり。早く家に帰って計画を進めなければ。

仮想メモリヘッドデバイスを装着して横になる。

しばらくして真っ暗な闇から電脳都市のロゴが見えてくる。私の所属する電脳都市、パレス33だ。

電脳都市の中枢部にある中央演算処理装置、通称セントラル・サーバーと呼ばれる巨大なコンピュータにアクセスして様々なことができる。

まずは、自分のアカウントでログインする。

そして、自分の脳内をスキャンする。

電脳世界でのアバターは現実世界の姿と全く同じというわけではない。

例えば髪型、瞳の色、肌色など現実の自分をベースとして変更することができる。

また、現実ではできないような事も可能となる。

例えば、炎を操ることも、空を飛ぶことも可能である。

ただし、電脳世界にはルールが存在する。それは、夢を叶える為には対価が必要となること。

電脳世界に投影される夢は、必ず何かしらの代償を支払う必要があるのだ。

私が望んだ事は、誰もが私に対して好感を抱くことだった。

だから、みんなは私を愛してくれる。

でも、そんなのは間違っている。

だって、そんなものは愛じゃない。ただ、自分が楽になりたいだけだ。

だから、私は電脳世界に来てまでこんな事をしている。

自分の醜さを再確認しながら、それでも、やめられない。

自分の欲望を満たすために、他人の夢を食い潰している。

だから、これは報いだ。

あの時、私は死んだはずなのに。

なんで、まだ生きているんだろう。

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