幽霊さんは僕を死なせたくないようです。

御厨カイト

幽霊さんは僕を死なせたくないようです。


はぁ、今日も疲れたな……

相変わらずの激務だった……


……早く家に帰ろう。


そんな感じでトボトボと帰路に就いていると、やっと玄関に就いた。




ガチャリ




「ハァー、ただいま~」


すると、ドタドタドタという足音と共に、


「お帰りなさい!」


という元気の良い声が響いてくる。


「……あぁ、楓さん。ただいまです。」


「今日もお疲れ様!お風呂の準備も、ご飯の用意も出来てるよ。」


「あ、ホントですか?ありがとうございます。」


「ううん、気にしないで。私が好きでやっていることだから。」


「それでも……ありがたいですね。ホントいつもありがとうございます。」



僕はこの温かい空気に思わず、微笑む。



あ……れ……?



「うふふ、だから……、お風呂にする?ご飯にする?……それとも、ワ・タ・シ?」



何だか……、意識が……遠のいていく……



「……ねぇ、流石に何か反応してよ。無反応は意外に恥ずかしんですけど……」



反応が無い事……に抗議する声が……聞こえた……気がするけ……ど……



「……ちょっと、本当に大丈夫?」



バタッ!



「え、ちょ、ちょっと!?だ、大丈夫!?め、目覚ましてよ!ねぇ!」









********






「………ん、あ、あぁ……」


「あ、起きた?」


「えぇ、はい……」


「本当に大丈夫?突然倒れるもんだからびっくりしたよ。」


「あ、そうなんですか!?それはすいません。」


僕はそんな事を言いながら、掛けてあった毛布を横に置く。


「いやいやいや、君が謝る必要は全く無いんだけどね。……本当に無理しないでね?君が大変そうにしている姿を見るのは、辛いからさ。」


「……ごめんなさい。」


「むぅ、ごめんなさいって……、本当に分かってる?」


「……」


「……私がどれだけ君のことを心配しているか……。」


「で、でも……、……皆も頑張っているから、僕も頑張らないと……」


すると、楓さんは呆れ顔をする。


「はぁ……、あのね、”皆”なんてものは気にしなくていいんだよ。自分の事は自分でしか分からないんだから、”自分”のペースで頑張らないと。」


「自分の、ペースで。」


「そう。じゃないと私みたいになっちゃうよ。」


「楓さんみたいに……?」


「そうだよ。ここで、孤独に過労死しちゃった私が言うんだから。説得力あるでしょ?」


「……それも悪くないかもしれませんね。」


「はぁ?ちょっと、いい加減に本気で怒るよ。」


今まで聞いたことが無い、怒気を込めた声で彼女は言う。


「君には、君の事を大切に、必要に思ってくれている人がいるの。」


「僕にはそんな……」


「君はそう言うかもしれないけど、確かにいるのよ。私は本当に居なかったからこそ分かる。」


「……」


「だから……、君は生きて。たとえ死にそうになったとしても、もう死んでる私が君の事を生かしてあげる。私はもう過労死とかはしないから、ずっと君の傍に入れるしね?」


「あはは、それはありがたいですね。」


「でしょ~?だから、明日はお休みしてもらおうかな?」


「え、どうして、と言うかそんないきなり。」


「だって、こんなヘトヘトになっている人を会社に行かせるわけにはいかないでしょう。ちゃんと休んでもらわなくちゃ。だから明日は会社をお休みしてください。」


「そ、そんなこと言ったって……、どうしたら……」


「そんなの簡単よ。上司や誰かに『幽霊に、今日会社に行ったら呪い殺すぞって言われたんでお休みします』って言えば納得してくれるわよ、……多分。」


「多分って……」


「まぁ、それでクビになったって、それはそれは良いじゃない。私がその会社に呪いの言葉でもファックスで送って、そんな職場とはおさらばして……、その後は株とかでもやって、億り人にでもなって富豪生活しちゃおうよ!」


彼女は目をキラキラしながら言う。

そんな彼女の様子を見てると、安心感からか自然と微笑む。

そして、瞼も重くなってくる。


「ねぇ、なかなか良い計画だと思うんだけど、君はどう……って、あらあら、うふふ、そろそろ眠くなってきちゃったかしら。」


「すいません……」


「うぅん、大丈夫、我慢しなくてもいいのよ。……それじゃあ今日はもう寝ちゃおうか。明日はお昼まで寝て、ご飯を食べて、一日中一緒にゴロゴロしましょう?」


そう言いながら、彼女は僕に優しく布団を掛けてくる。


「私はずっとここにいるから、しっかり休んでね。ゆっくりお休みなさい。」


僕はそんな彼女の優しい声に包まれながら、深い眠りへと飲み込まれていくのだった。






********





ふぅ、寝ちゃったかしら。

……うん、可愛い寝顔ね。




……それにしても、どうして君はこんなにも無理しちゃうのよ。


「あなたには、あなたを大切に、必要に思ってくれる人がいる」って私に教えてくれたのは君だったじゃない……。

まぁ、君の事だから覚えて無いかもしれないけど。



でも、そんな君がどうして……


いや、”どうして”なんてどうでも良い事ね。

一番大事なのは、「君が幸せであること」なんだから。



……私があとどのくらいここに居られるか分からないけど、君に救ってもらったこの人生、君のために使うからね。




チュッ





良い夢見てね?





よいしょっと……、それじゃあ、明日のために洗濯機を今のうちに回して、あっ、夜ご飯……。

……ラップでもしておいて明日のお昼にでも食べましょうかね。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幽霊さんは僕を死なせたくないようです。 御厨カイト @mikuriya777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説