<一話>旭陽

「それでよぉ~!…おい律、聞いてる?」


「…あ。ごめん、なんだっけ」


大学の帰り道。

コンビニを背景に、目の前で桜色の髪がひょこひょこと揺れる。


僕の幼馴染__旭陽は、その猫目をさらに釣らせて、

僕の腕を軽く小突いた。


「はぁ、、、人の話くらいちゃんと聞けよ。

だから、姉ちゃんが女と付き合ってんの。」


「........うん、それで?」


「父さんと母さんがさ、

普通じゃないとか跡取りがいないとか、家帰るとうるっさくて!」


マジめんどいんだわ、と旭陽は頭を掻く。


イラついている時に頭を搔くのは旭陽の癖だ。

どうやら本当に参っているようだった。


「というか、何で僕にその話題をふるんだよ」


いじってるつもりか?と皮肉気味に問うと、

彼は少し気まずそうな顔をして、


「いや、なんつうかその…、

俺、よくわかんねえからさ........

お前なら分かんのかなって。姉ちゃんの気持ち。」



___旭陽は唯一僕のすべてを知る人だった。


僕の好きなもの、嫌いなもの、

そして、僕が男とはちょっと違うことも。


僕らはずっと小さな頃にピアノ教室で出会って、

その時から毎日のように一緒にいる。


まあ旭陽は、

‘‘こんな女々しいことよりサッカーがしたい’’

とすぐにやめてしまったのだけれど。



「旭陽は、」


「?」


「旭陽はどう思ってるの?」


工事してすぐなのか、まだべたつくアスファルトを見て問いかける。


「俺は........難しいことはよくわかんねえけど、

姉ちゃんには幸せになってほしいって思ってる。」


「そっか。旭陽はずっと味方でいてあげてね。」


「勿論。」


「好きな人を否定されるのは、凄く........辛いから。」


旭陽は数秒僕を見つめた後、‘‘そうか’’といって僕の頭を撫でた。


軟弱な僕とは違って、鍛え上げられた旭陽の手は少し痛く乱雑だ。


「にしても寒いな~」


「夜は雪降るらしいよ」


「げっ、マジ?」


他愛もない日常。

朝起きて、大学行って、旭陽がいて、夕飯を食べて眠りにつく。


そんな日々の隙間、未だに君を探している。

僕の日常を奪っていった、色鮮やかな景色をくれた君を。


会いたい、君に会いたいよ。

ずっと会いたいんだ______。


「めぐみ、」



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タナトフォビアの君へ 日暮 ミケ @nyapiruno0

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