魔王をやっておりますが、全裸の勇者が攻めこんできました

ななみや

一話完結

「伝令です魔王様!! 勇者は既に魔軍四天王を打ち倒し、魔王の間の手前まで攻めて参りました!」


「お嬢! ここはもうダメです! お嬢だけでもお逃げなすって!!」



 矢継ぎ早に伝わる凶報に、側近達が慌てふためく。



「たわけ! 魔王たるもの、部下を捨て一人おめおめと逃げおおせるか!」


 狼狽する側近達を余は一喝した。



 そんなわけで、余の政権始まって以来の大ピンチである。


 言うまでもなく我々魔族と人間の歴史を紐解けば、争いの絶えない間柄ではあった。


 しかし大半の争いは互いの領土境界での小競り合いがほとんどだったし、人間如きに余の眼前まで迫るほどの力があるとは思っていなかった。



 確かに、色気を出して人間の領地にちょこっと手を出したのは謝る、ほんと謝る、ごめんなさい。



 それはそれとして、この仕打ちはあるか!?


 人間の勇者とか言うやつ、単身我等の領土まで乗り込んできたと思ったら、地方任せてた領主達ぶっ倒しまくって遂に我が居城まで攻め込んできたぞ!?


 外交とかそう言うのないの!?



 気付けば先程伝令に来ていたキング・ドラグーンも撤退を勧告してくれたダーク・ジェネラルも勇者討伐に向かったまま戻ってこない。


 いよいよ年貢の納め時と、余も覚悟を決めねばならぬのか……。





*****************************





 重厚な余の間の扉が開かれる。


 そこに現れたのは剣と盾を携えた、人間の男が一人。



「貴様が魔王か! 世界の平和のために、この俺が貴様を倒す!」



 よく通る声で人間の男が余に対して叫んだ。



「よく来たな人間の勇者よ! だがしかし、その前に言いたいことがある!」


 そう、この愚かな人間の男にひとつ、言ってやらねばならぬことがある。




「パンツくらい穿け!!!」




 なんで全裸なんだよこの男。仮にも淑女たる余の眼前だぞ?


 男の裸なんて幼少期にお父様のを見た時以来だ。目のやり場にすっごい困る。



「俺だってせめて下着くらいは穿きたかったが言い訳がある」


「なんだ、言ってみろ」


 何となく下の方に目を向けないように勇者を見る。



「装備スロットが武器と盾しかないんだ」


「どう言うことだよ!?」


 どう言うことだよ本当に。



「論より証拠なのでこれを見て欲しい。ステータスオープン!!」


 おー、これが人間に与えられた便利能力「ステータスオープン」か。いいなあ我々にも欲しいなあ。



ハルト 職業:勇者 レベル72

HP:8186/8192

MP:210/256


攻撃力:999(+285)

防御力:999(+53)

素早さ:163

魔力 :121


スキル

英雄の器

剣聖

精霊に愛されし者


装備

右手:夢幻の宝剣

左手:イージスの盾


魔法

→別ウィンドウが開きます


アイテム

→別ウィンドウが開きます



「いや、攻撃力も防御力もカンストしてるのかよ。なに、廃人なの君」



「そんなことより『装備』の項目を見てくれ。どう言う訳か『右手』と『左手』しか装備スロットがない」


「は?」


 いや、装備スロットってなんなの?


 普通に服着ればいいじゃん。バカなの??



「『英雄の器』と言うスキルの能力によってこの世に存在するあらゆる装備を使いこなせるはずなのだが、肝心の装備スロットが両手しかないんだ」



「いや、意味わからないんだが、人間の町とかで売ってる服とか着られなかったのか? 何だったら我々魔族の街にも仕立て屋はあったと思うけど」


「ああ……服を買ってみたりダンジョンで鎧を拾ったりしたが装備することができなかった……。いや、俺がまだ少年だった頃は服もパンツも装備できていたんだよ。ある日のこと『英雄の器』が開花したとき、両手以外の全ての装備が外れて以降装備できなくなった」



 そういうシステムなんだ人間って。


 なんか我々魔族とは全然違うね。



「気の毒にな……。いや、そもそも、全裸で町を歩いてて何も言われなかったのか……? 人間の国はそんなに野蛮なのか?」


「町人から王様に至るまで、俺が全裸なことは総スルーだったぞ。加えて言うが、今まで倒してきた魔族にも何も言われなかった」


「そっかー。それはそれでちょっと悲しいな。あと、部下達については再教育しておくからそこは許して」




「で、お前は全裸に武器と盾だけで、余の軍勢を討ち果たしてここまで来たというのか……」


 いや本当に。


 正直人間の勇者一人にここまで攻め込まれたのなら滅ぼされても仕方ないとは思うけど、全裸の奴にだけは滅ぼされたくない。



「うむ。ただ、一応剣と盾は持っているのだが、鍛えすぎて攻撃力と防御力がカンストしてしまいほぼ意味がない。剣を装備した時に攻撃力が+100される『剣聖』スキルも泣いている」


「『剣聖』どころか『英雄の器』もただデメリットだけが残っていないかそれ。服とか装備できないだけじゃんもう」



「ちなみにだ。『精霊に愛されし者』の効果は『装備したアクセサリーの能力が倍になる』だ」


「どうせアクセサリーも装備スロットが無くて装備できないんだろ!? お前はもう勇者じゃなくて鍛え抜かれた身体だけで魔王軍を壊滅させた、ただの変態だよ!!」


 スキル全く意味ないじゃん! せめて「勇者のスキルのせいで負けました」くらいの言い訳はこちらにも残しておいてくれよ!!



「しかしだ、よくよく考えたらお前の部下にも全裸の奴とかいたし、全裸どころか肉すら身につけてない奴もいたぞ。このくらい大丈夫だろ?」


「いやほら、アレはアレだから。スケルトンとかだから。ああ言う生き物なの。生きてるかどうか分からんけど」



 いかん、このままじゃ相手のペースに巻き込まれるだけだ。


 勇者だってここまで来るのにかなり消耗しているだろう。


 今が絶好のチャンスのはずだ。



「と、とにもかくにもだ、よくぞここまで来た勇者よ! 褒美としてこの魔王自らが直々に、貴様を葬ってくれよう!」


「世界の平和のために俺は負けるわけにはいかない! たとえこの身が滅びようとも、貴様を討つ!」


 杖を構える余と実質意味のない剣を構える勇者。


 歴史を塗り替える激闘が、今まさに始まる……!



「あーもー! やっぱり服着てくれよー!! まともに戦えるわけないじゃんかー!!!」


「俺だってせめてパンツくらい穿きたいわ!」

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魔王をやっておりますが、全裸の勇者が攻めこんできました ななみや @remote7isle

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