四 夢現

 なんとか姿は見られずに逃げおおせたようであったが、その夜は興奮してなかなか寝付けず、気づくとすでに朝になっていた。


 短い間だが、いつの間にか眠りに落ちていたらしい……。


 一度眠って目を覚ますと、昨夜見たことが夢だったのではないか? という疑問にも自然と捉われる……あんな非常識なもの、現実だという方がむしろ無理があるだろう。


 朝食をとるために台所の方へ起きて行くと、もうセンリも夜遊びから帰って来ており、いつものようにテーブルの下で老猫用のスープ餌を平然とペチャペチャ食べていた。


「やっぱり、夢だったんだろうか……?」


 常識的に考えれば夢に決まっている……だが、その夢にはやけに現実味リアリティがあって、見たことを隅々まではっきりと憶えている……。


 そこで、ご飯に味噌汁と鰹節をかけた〝ねこまんま〟で朝食を済ませた後、僕は散歩がてら、あの龍造寺前の〝会員制クラブ オードリーBAR〟のあった場所へ行ってみた。


「まあ、そうだろうなあ……」


 しかし、やはりあのクラブは影も形もまるでなく、そこにあったのはよく知る店と店の間に空いた、まさに〝キャットウォーク〟といえるような狭い隙間だけである。


 当然の結果を前にして、何もないただのその隙間を見つめながら、なにをバカな妄想をしていたものかと僕は独り自嘲する。


 もっとも、むしろクラブがなくなっていることに、内心、疑問を感じる自分がいたことも確かなのではあるが……。


 実際、あれが夢だったのか現実だったのか? それは今となっても僕自身判断がつかない。


 ただ一つ言えることといえば、この商店街の老猫達が弱るどころか前にも増して元気になっていることと、あの日以来、なんだか妙にセンリの眼が、僕の動きを監視しているように感じられてならないことである。


                          (猫踊り 了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫踊り 平中なごん @HiranakaNagon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画