6 祖母の話
わたしが中学生の頃です。
朝、祖母の部屋に呼ばれ、「今日は〇〇さんが何時に来るから」と言われます。わたしはその時間になると玄関でまち、来客者を祖母の部屋に案内する役目でした。前もって連絡なく直接来ることも度々あり、皆切羽詰まった状況の方です。
ある日、「今日は夕方ごろ東京から人が来るけど居ないって言って通さないように」と言われました。そう言われたのは初めてでした。玄関で丁重にお断りして帰すようにとのことですが、わたしはいつもと違う祖母の雰囲気にちょっと緊張してその時刻を待ちました。
その時刻の前、別のお客さんが帰るころ、急に曇り始め、まだ夕方だというのに夜のような暗さになりました。間もなく風が吹き始め、雨が窓を激しく叩くころお客さんがきました。
どうやって断ろう、と思いながら玄関のドアを開けた私は足元が急に冷えるのを感じました。
お客さんは二人でした。
年老いた女性と若く美しい、スーツ姿の青年でした。
「急にすみません、〇〇さんが紹介してくれたもんで今すぐに助けて欲しいんですが」
異様でした。聞き取れないほどの早口で女性の方が喋りました。
わたしは(いけない、どうにかして断らないと)と思いましたが
「でもこんな田舎に有名な方がいるなんて信じられません聞いたこともなかったですけどいつもは東京の大先生に見てもらってるんだけど今回は見れないっていうから〇〇さんに聞いたらここがいいっていうから」
とこちらが話そうとするタイミングでそれを遮るように早口で話し続けます。
その横でスーツの青年はニコニコしながら頷いています。
よく見たらこんなに激しい雨なのに、二人とも全く濡れている様子はありません。
「入ってもらって」
と後ろから祖母に声をかけられるまで立ち尽くしてしまっていました。
わたしはその雰囲気に完全に飲まれてしまい、座り込みそうになるのを堪えて玄関から案内しようとしました。
お客さんが靴を脱いだ時、ものすごい生臭さを感じ、思わずウッと声を出してしまいました。濃厚な血の匂いでした。
祖母は部屋で座って待っていました。いつもと違うのは祖父の位牌が隣に置いてあったことです。
お客さんが座った瞬間、ものすごい音を立てて祖父の位牌が縦に割れましたが、女性も青年もそちらを全く見ません。
「うーん…ご先祖さん…」
と祖母が言った瞬間
「それは無理です」
と青年が強い口調で言いました。
「じゃあ無理だね、ごめんね、助けられなくて」
と祖母は言い、それでこの話は終わったようでした。
女性は黙って封筒をわたしによこし、そのまま帰っていきました。
祖母は割れた位牌を大切そうに仏壇にもどし、「玄関の塩を換えておいて」とだけ言いました。
玄関の塩を見ると、真っ黒になっていました。
「おばあちゃん、あの二人…」
「うーん、なんの手順も踏まないままご先祖さんを捨てるとああなるんだよ、地獄のにおいがしたでしょう、守ってくれるものがいなくなると、ああやって引っ張られるんだよ」
「…どこに?」
「地獄」
そういって祖母はお客さんの帰って行った方に向かってしばらく拝んでいました。
聞いた話 おもち @aokick69
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。聞いた話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます