第四話 キミがいいんだ
遠くから聞こえてきた声の主はこの国の第一王子シャルのものだった。
「話は聞かせてもらった。カロリーヌ、婚約を破棄されたのなら私も立候補させてくれ!」
「シャル様まで……。皆様突然どうされたのですか? わたくしは今婚約を破棄されたばかりでもう何がなんだかわかっておりません」
カロリーヌは相変わらず困惑の表情を浮かべている。
「簡単なことだよ。キミほど魅力的な女性に婚約者が突然いなくなったのだからみんな立候補しているだけだ。みんなキミと結婚がしたいんだよ」
「シャル様、そんな御冗談を。あなた様はこの国の第一王子でいらっしゃるのにわたくしなんかと」
「『わたくしなんか』とはなんだ。自分を卑下するのはやめたまえ。この会場でキミの魅力に気づいていないのはキミ自身とブロワーズだけだ。キミは最高の女性なんだよ」
「そんな……。申し訳ございません。わたくしやはりまだ困惑しております」
「それならばこの場でキミの魅力についてキミ自身に教えてあげよう。まずキミは学園一の魔法使いだね? それなのにキミは誰かに偉そうにしたことがあるかい?」
「いいえ、そのようなことはいたしておりません。わたくしはたまたま魔法の適性があっただけです。別に何が出来るわけでもございません」
「それだけでも素晴らしいことなんだよ。次にキミは誰に対しても優しく接することができるよね? この学園に平民を通わせる改革をした私は、定期的に彼らに状況を聞いている。すると平民の生徒からキミの名前がよく出るんだ。他の貴族からは侮辱され、キミからとても優しくされているとね」
「シャル様……」
カロリーヌはようやく王子が本気で求婚してきていることに気がついた。
「改めて言おう。私の妻になってくれ。私にもこの国にもキミが必要だ! 正式には父上に話をしてからになるが、キミの答えを、キミの気持ちを聞かせて欲しい。」
王子はカロリーヌを真剣な表情で見つめている。王子の登場で、カロリーヌに求婚した男たちはいつしか消えていた。
「わたくしの気持ち……ですか。わたくしはシャル様をお慕え申しております。シャル様の考え、行動力、すべてがわたくしの理想です」
「では前向きに検討してくれるな?」
「はい、シャル様。わたくしなんかで良ければ」
「また言ってる。『なんか』ではなく、キミがいいんだ」
そうして二人は婚約することとなった。
わざわざ卒業パーティという場で婚約を破棄することでカロリーヌを辱めようとしたブロワーズは父親によって勘当された。その背景にはシャル王子を慕う貴族たちからの圧力もあった。当然男爵令嬢ジョジョゼとの婚約も破棄された。
*****
「まさか魔力のほとんどない私の息子にこんなに魔法の才能があるなんてな」
「魔法の才能だけではなく、陛下に似て賢く勇敢でとても優しい子です。きっと良い王になるでしょう」
「優しさはキミに似たんだと思うがね。まぁ私とキミの子だからな、きっと良い王になるよ」
婚約破棄から始まった二人(三人)の生活は幸せに満ち溢れている。
【完結】婚約破棄をされた途端に別の男性から求婚の嵐 ~え、むしろ婚約破棄してくれてありがとうございます~ 新川ねこ @n_e_ko_
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