1章 自分が生きる理由

1章01 日が沈むあの日


「何で自分は、こんなとこに…」


 彼は全く状況が飲み込めず、ただただ道の真ん中に突っ立って唖然としている。

 辺りを見渡すと住宅街らしく、家がこれでもかと所狭しに並んであった。


「ここがorigin……?少しばかり静かすぎるないか」


 心配から溜息を漏らすと同時に風が吹き荒れ、地面を彩っていた葉が綺麗に彼の眼前を舞った。

 彼はその葉を視線で追いながら、今すべきことを空っぽの頭で考える。


「自分はどうすればいいんだ……」


 考え始め、三分程。

 一度は動いて人に尋ねに行こうともしたが、


────そこで待ってて!


 という青髪の少女の一方通行な約束が頭を遮り、この場から動いていいのか迷っていた。

 決断できずに、無駄な時間が延々と流れていくうちに段々と彼は考えるのが嫌になっていき、頭を両手で抱えながら独り言とは思えない声量で叫んだ。


「あぁもう!どうすればいいん─────」


「────君が茈志音?」


 志音の独り言を割って入ってきた男声は、心臓に直接突き刺さるように鋭い。

 オーラ、というものだろうか。志音は後ろから、ただならぬものを感じた。

 音もなく背後に近づいてきた男に、彼の危機管理能力は注意を促す。


─────何かがやばい。


 志音は体に、汗がじっとりとまとわりつくのを実感した。

 彼が急いで振り返って声の正体を確認しようとした時にはもう遅く、後ろの方から息を吸う音が聞こえると、


「動いたら殺すね。」


 と、背筋が凍りつくような冷たい声が、彼の鼓膜を一直線に直撃した。


 志音は後ろの男の言っていることが理解ができなかった。


 いや、逆にこの状況をすんなりと理解出来る人がいるだろうか。なんとも難しい、説明の出来ないむず痒い感覚が彼を襲った。


─────自分が殺される?


 『今の志音』の人格が生成してから数分ほどしか経っていない。

 正直ここで命を落とすのは生きてなかったのと何ら変わりない。


 "生まれてきたからには、生きたい"


 彼はそう思った。

 このまま死ねば、余りにも短くて、意味も無く、誰の記憶の片隅にもいることのない人生。


 そんな人生は、彼の望む「生」に該当していない。


 だから、


「嫌だ……死にたくない……」


 志音の胸の中で言葉には出来ない思いが煮えたぎった。


「殺される?そんなの嫌だ……!おかしいだろ、記憶が失くなって!目を覚した瞬間知らない男にこんなことろに飛ばされて、突然殺されるって言われて!自分が何をしたって言うんだよ。『前の自分』が何かしたのかよ、それじゃあ自分は関係ないじゃねぇかよ‼だから、何でもするから助けてくれよ、見逃してくれよ……!靴を舐めろって言ったなら靴を舐める!人を殺せって言ったら人を殺す!だから、、お願いです。命だけは、命だけはどうか奪わないで下さい。」


 感情の波が押し寄せるままに流れ、呼吸を乱し、理性を見失うほどまで混迷した。

 もう何が正しいのか、彼には分からない。

 いや、正しい正しくないなんて、そんなこと志音にはどうでもいい。


─────死にたくない。


 ただそれだけ。志音の話しを黙って後ろで聞いてた男は、面倒くさそうに溜息を漏らすと、


「────記憶が失くなった、その話しが本当だと言うなら、お前の言うとおり、お前は何もやってない。でも、『アイツ』と同じ顔してる奴をのうのうと見過ごすことなんて出来っこない。今思い出しても、12年前のことなのに、怒りが腹の底からやってくる。それに、僕は君を個人的に殺しに来たんじゃなくて、ーーーだからな。」


 最後の言葉を聞いて、志音は絶句した。


────おかしい、おかしい、おかしい、何で自分が?なんで『前の自分』との闘いに巻き込まれないといけないんだよ。


 嫌だ、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたく、、ない。


 それ以外考えることができない。


「嫌だ、死にたくない───!」


「────それが最後の言葉でいいか?さよならだ。茈志音。そして覚えておけ。僕は君という"過去の英雄"から世界を救った"英雄"……カフだ。」


────もう終わるのか?


 志音は目を瞑り、神様という幻想がいることを願って「助けて下さい」と心の底から何度も繰り返しお願いをした。


 こんなになるなら、あの少女の約束なんか無視して、とっととどっかに行っとけば良かったと心の底から思ってしまった。


 彼は彼女を信じたことを激しく後悔した。


 志音のこの短い人生を簡単に説明するならホントに最悪でしたと言っても誰も文句は言わないだろう。いや、言えないだろう。こんな一瞬の人生など、最悪以外の何者でもない。


 後ろから近づいてくる音が聞こえると、もう助からないんだなと志音はそう悟った。


 でもそんな事実は───、現実は、到底すぐ受け入れるものではない。もう志音の感情も心もぐちゃぐちゃだった。


────嫌だ、嫌だ、助からない、嫌だ、助からない、助からない。死ぬ。死にたくない。


 絶望という言葉で言い表せないほどの深く暗い感情に、胸が張り裂けそうな時だった。

 神様に助けを求めた功が奏したのか。


 それとも、こうなる運命だったのか。


「───志音!」


 後ろから、聞いたことのある声で彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。混乱からの幻聴ではない。


「き、キミはぁ…」


 情けないのない声が、思わず乾いた唇から溢れた。


 目の前に建つ、紺色の屋根をした二階建ての家の上に、息を荒くしながら、切羽詰まった表情でピースしながらこちらを見ている人物がいた。


「約束通り、助けに来たよ。」


 その人物は目を覚した志音が初めて見た人間、淡青色の髪をした少女。


─────恋七だった。


─────────────────────

主人公視点にするか、三人称視点にするか迷いました。これで良かったんだろうか……

青髪のヒロインはどのアニメも可愛いですよね

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