この世界の真実

結騎 了

#365日ショートショート 051

 ぎぃぃぃんんん。

 昼下がりの街中に、拡声器の鈍い音が響く。

「みなさん、足を止めて聞いてください。お願いですから私の言葉に耳を傾けてください」

 ひとりの男が、大勢が行き交う駅前の広場で演説を始めた。なにごとかと、数人が足を止める。

「私は気づいてしまったんです。この世界の真実に。きっかけは普通の交通事故でした。頭を打ったことで、なにかのロックが外れたのでしょう。それから何年も独自に調査を重ね、真実に辿り着きました。しかし、それを誰に話しても笑い飛ばされるのです。学者や警察にも話しましたが、そろいもそろって相手にしてくれません」

 男の声色には、積年の恨みがこもっているようだ。その眼は真剣である。

「しかし、それ自体が真実の裏付けになるかもしれません。そう、この世界の住人が真実を揉み消している、ここが重要なのです。ロックがかかっていればその通りに動くしかありませんからね。いいですか、落ち着いて聞いてください。みなさんと私、この世界に暮らす人間はなんと、あるひとつの大きな存在によって造られた人工生命なのです」

 ぴたっ、と場の空気が止まった。直後、群衆は散り散りになっていく。なんだ、これじゃあ野次馬だって寄り付かない。せめてもっとマシな内容にしてくれ。

「ちょっと待ってください。みなさん、本当にそのままでいいんですか。私たちは実験用のモルモットのように扱われているんですよ。このままでいいはずがない。武装蜂起するべきです。さあ、私と一緒に立ち上がりましょう。我々の人権を踏みにじる存在を、我々自身の手で倒すのです」

 拳を大きく突き上げ、男は叫んだ。しかし、誰もまともに取り合わない。路上に座り込んでいる浮浪者ですら、薄ら笑いを浮かべている。一体こいつはなにを言っているんだ。

 やがて、警官隊が駆けつけた。必死に抵抗する男を押さえつけ、連行しようとする。

「やめろ。揉み消すな。真実を隠蔽するつもりか。やめろ。やめろぉ!」

 ほどなくして、男は駅前から姿を消した。近くのベンチで一部始終を見ていた女性の二人組は、退屈そうに口を開いた。

「とんだ茶番だったわね。気でもふれたのかしら」

「本当にくだらなかったわ。この世界がデウス様が作った12番目の箱庭で、私たちがネクストミュータントだなんて、いまどきは小学生でも知っているのに」

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