第29話

 次の朝、レオパードは朝日が昇ると共に目を覚ました。寝足りないと思いつつも起き上がると、服を着替え防寒着を着てコートを羽織ると、部屋の外に出た。使用人に案内されるがままとある部屋に入ると、朝食の用意がされている部屋だった。

「おはよう、グレイル君」

「あ、おはようございます」

 そう言って伯爵が部屋へと入って来た。立ったままのレオパードに席を薦めると「失礼します」と言って腰掛けた。

「今日発つのかね?」

「はい、そのつもりです」

 パンにバターをたっぷり塗ってそれを頬張ると、レオパードは頷く。時折茶を飲みながら食事を進めていく。

「せめてアエネからも礼を言わせてくれないか?」

「ええ、起きてくるまでは待ちますけど」

「そうかい、まぁゆっくり食事をしていってくれ」

「はい、ありがとうございます」

 そうして伯爵と同じテーブルの席で、やや緊張しつつ朝食を取るレオパード。

 そうして食事を進めていると、部屋にアエネがやって来た、フワフワの白いセーターに紺色のミニスカート、黒のニーソックスに黒のヒールを身に纏っていた。ツカツカとレオパードのところに来ると、

「昨日一緒に食事って言ったのにどうして来なかったのよ!」

 と噛みつく様に言ってくるアエネに、レオパードは正直に、

「寝てた」

 そう答えた。

「なんでよ!信じらんない!」

 プンプンと怒っているアエネを横目に平然と食事を進めるレオパード。

 それに伯爵がフォローを出すかのように、

「まぁ、アエネ。きっと疲れがたまっていたんだよ、そうだよねグレイル君」

「すみません、気が付いたら眠ってしまっていて」

 と答えればアエネはむぅーと頬を膨らましながら「もう!レオったら!」等と言いながら朝食の席へと着くのだった。

「ほら、アエネ、言いたい事があるんだろう?」

 伯爵が素直になれない末娘を思ってそう言い出すと、アエネは頬を赤めつつ、

「え、えーと……王都では助けてくれてありがと……か、感謝してるんだからね!」

「……お嬢」

 そのらしくない言葉にレオパードは少しばかり驚いた。

 素直になれない性格だと知っているからだろうか、余計に心に染み渡る気がした。

「わ、私も朝食頂くわ」

 焼き立てのパンに手を伸ばしながら、アエネはそう呟く。伯爵は嬉しそうに、

「しっかりお食べ」

 そう言うのだった。

 そうして朝食を終えると、レオパードは若い使用人の案内で宛がわれた部屋へ戻り、荷物をまとめて小さなトランクに詰め込むと、部屋を出た。

 若い使用人の案内で玄関ロビーへと案内されると、そこにはアエネと伯爵がレオパードを待っていた。

「もう行ってしまうのが心惜しいよ、いつでも尋ねてきなさい」

「ありがとうございます」

 再度両手で握手をしながらそう言う伯爵に、頭を下げながら礼を言うと、アエネがそばに寄ってきて耳元で、

「レオ、やらなきゃいけない事ってあの人の事?」

「ああ、そうや」

 頷くと、アエネは柔らかな笑みを浮かべて、

「そっか、仲直り出来ると良いね」

「どうなるか分からんけど、まぁ、何とかせなあかんな」

 そうニカッと笑うと、アエネは少し寂しそうにしながら、

「元気でね、また来てよ、約束だからね」

 アエネはそう言うとレオパードの手をぎゅっと握りしめた。その体温に嬉しさを感じながら、

「ああ、またな、お嬢」

 そう言って屋敷の外へ出ると、意志の強い眼差しで伯爵邸の門を出て行くのだった。

 探し人と再び相見える為に、その人物の居るらしき場所へと向かって歩を進めるのだった。

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群青のアハルマンド ミコシバアキラ @mikoshiba888

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