32 二日目⑬同じ匂いのベリー達

「黒点病もないし。何か作り物みたいなんだよな…… 何より匂いが無いって。本当に食べられるのか?」

「おい」

「食べないよ。俺の直感が告げてるんだ、何かこいつは『毒入り』か『食い物以外』じゃないかって」

「お前、それは絵入り小説の読み過ぎじゃねえか?」


 親父は息子に言う。


「そぉか? でも実際、毒のある実は虫も食わねえだろ?」

「味は…… 一緒だったんですよ」


 馬丁は少し彼等の方から離れると、喉に指を突っ込んだ。

 もし毒だったら。毒でなくとも、何か得体の知れないものだったら。

 彼はその場で、できるだけ吐いてみた。


「うぇ……?」


 吐瀉物は、驚くほどそのままりんごの色をしていた。

 いや、すりつぶしたりんごの姿のまま、その場で何となくうごめいている様な気もする。


「だ、ダクラス!」

「どうした…… ってお前のゲロか」

「ゲロなんだけど! 何か…… 動いてないか?」


 気のせいだろう、とダグラスは言いたかった。

 実際、吐かれたその場に段差があれば、多少なりとも液体となったものは動くものだ。

 だが。

 ふとダグラスは今朝のことを思い出す。

 ひたすらりんごを刻んでいたマーシャ達。

 あれは何を作ろうとしていたのだろう?


「なあ、あっちのベリーには匂いはあったか?」

「ベリー? どうだったかな」


 一度疑問を持ってしまうと、どんどんそれは心の中で膨れ上がってくる。

 もしも、昨日からたっぶり摘んでジャムにしたあのベリーにも虫の一つもつかずに、匂いもなかったとしたら。

 揃って移動する。

 ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリーのそれぞれを指で潰して、匂いを嗅いでみる。


「匂いはあるな」

「ああ」

「いや、だけどラズベリーとブルーベリーが同じ匂いってことは無いと思わないか?」


 え、と皆顔を見合わせた。



「わーい」


 午後になると、それまで大人しかったルイスが急にはしゃぎだした。


「どうしたんでしょうねえ、今朝はずっと大人しかったのに」


 チェリアはサリーとマリアにお茶を淹れながら、走り回るルイスと未だに木陰でじっとしているエメリーの間で視線を動かしていた。


「エメリー、寝ちゃってるのかしら」


 マリアは尋ねる。


「さあ、どうでしょう。確かめてきたら如何ですか?」


 そっか、とマリアは立ち上がった。

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カントリーハウスの四日間 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo

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