第3話 Another Romance ~もう一つのロマンス~

 昔々、あるところにお爺さんとオジサンがいました。

オジサンは、お爺さんと酒を飲み交わしながら、少し酔いも手伝ってか問わず語りに、ぽつりぽつりと話し始めました。


 「昔山奥の村に、ある夫婦が住んでいてな。夫婦は大層仲良く暮らしていたんだが、いつまでたっても子供が出来なかった。夫婦は子供が欲しかったので深く悩んでいたんだな。そこで、夫は妻に知られないように、願いを叶えてくれると言う不思議な泉に行ったんだ。その泉に体を浸し、その水を飲むと願いが叶うと言う言い伝えがあったんだよ。 同じ頃、妻も夫に知られずに願いを叶えようと、泉に向かった。 結婚してから月日が経ち美しい妻も歳をとってしまったので、泉につかり水を飲む時に、若い娘時代に戻り、赤ちゃんが産めるようにと願ってな。

すっかり若返った妻が、泉から帰ろうとした時、泉の向こう側から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきて、妻は慌てて鳴き声のする方へ駆け寄り、その赤ちゃんを探し出し抱き上げた。

捨て子だと思った妻は喜んで家に連れて帰り、夫に知らせようと思ったがどこを探しても夫はいなかった。泣きじゃくる赤ん坊の泣き声に、不思議なことに妻のお乳が張ってきたので、妻は赤ん坊にお乳をあげることにしたんだ。

さて、この後どうなったと思うね」


 「どうせお前さんの事だから、色っぽい結末を用意したんだろ? そうさな、例えば、妻は拾ってきた赤ん坊にお乳を遣りながら気付いたんだ。この自分のお乳を吸っているのは、間違いなく自分の夫であることに!

夫の吸い方は、赤ん坊並の稚拙ちせつさだったから、っていう落ちかね」


「爺さん、中々いいね。途中までは合ってるよ。 だけど、俺の用意したラストは、若返った美貌の妻に、若く美しく頼もしい男から求婚があり、妻は夫である赤ちゃんを泉に沈め、若い男と結婚し、可愛い子供を沢山産みましたとさ。子供が産めなかった原因は夫にあることが分かり、めでたし!めでたし!ってんだ」


 「ちっとも、めでたくない話だな。お前さんは、まだ若くて、わしの子供くらいの年だが、随分と世の中を斜に見てるんだな」


 「ところで爺さん、俺は子供がいないんで、良くわからないんだが、子供ってのは可愛いもんだろう?」

「当たり前さね。この世で子供ほど可愛いものは他にないね。自分の命を呉れてやってもいいくらいさね」

「そうかい。それじゃ、赤ん坊を殺すような女を嫁にする気分ってのは、どんなもんなんだい? その、嫁が生んだ沢山の子供を育てるってえのは、幸せかい?」

「どういう意味じゃ」

「ふん。爺さん、あんたの女房に伝えてくれないか。赤ん坊ってのは、生まれてしばらくは、結構上手に泳げるものなんだよ。それに、子供を欲しがる夫婦は、思ってるより一杯いるもんだってね」


めでたし めでたし


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大人の童話シリーズ 欠け月 @tajio10adonis

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