記憶3

 ニッと笑った森の小鬼レッサー・ゴブリン森の妖鬼ゴブリンに何か話しかける。森の妖鬼ゴブリンは次第に表情を変え大きくニッと笑ったかと思うと、グリンッと音がなりそうなほど首を回しこちらを見る。


 おかしい。なぜか嫌な予感がするのと、あの森の妖鬼ゴブリンが俺だけを見ているような気がする。


 一歩ずつこちら側に歩みを進める森の妖鬼ゴブリン。いつもであれば顔を下に向け、絶対に目が合わないようにするところなのに、森の妖鬼ゴブリンと合ってしまった目を離すことができず、ジッと見つめてしまう。


 嫌な予感ほどよく当たるもので、森の妖鬼ゴブリンは真っ直ぐ俺の元へ歩みを進め、拘束具を外される。そのまま戦闘場所に連れて行かれ、木剣を渡される。


 いつの間にかカイトの遺体は撤去されていたようだが、地面に残ったままの血溜まりが、俺に死の現実を残酷にも突きつける。


 森の小鬼レッサー・ゴブリンのほうも準備ができたようで、すぐに戦闘が始められた。


 俺の方の心の準備なんてできているはずもないが、無情にも森の小鬼レッサー・ゴブリンの鉄剣は俺に向けて大きく振り下ろされる。


「っく……っそ!」


 森の小鬼レッサー・ゴブリンの体格に微妙に合っていない長剣は、俺がなんとか見切ることができるスピードだったので、なんとか反応し回避する。


 震える手で握りしめるのは、持ち慣れていない長剣。どう扱っていいかわからないので、見よう見まねで振り回すことしかできない。


 周囲からはゲキャゲキャという笑い声が絶えず聞こえる。


「くそ!くそ!くそぉ!」


 俺は木剣をめちゃくちゃに振り回す。モンスターを前に冷静さを欠くことは悪手なのだが、この状況で冷静でいれる人の方がおかしいと思う。


 ——パコンッ。


 運が味方したのか、俺の木剣の先端が森の小鬼レッサー・ゴブリンの頭をヒットする。もちろんそれが致命傷になるはずもなく、今まで楽しそうに騒いでいた森の妖鬼ゴブリンたちと森の小鬼レッサー・ゴブリンに沈黙が流れる。


「ゲシャァア!!」


 木剣の当たった部位を押さえた森の小鬼レッサー・ゴブリンが怒り狂ったように叫ぶと、周囲から断罪しろと催促する音が鳴り始める。


 ——ドンッ。ドンッ。ドンッ。


 その音はまるで、死までのカウントダウンのようだった。

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光と夢幻のルゥスリィス 抄録 家逗 @aoharuyamai

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