初めての街、そして出会い

 シオンちゃんとログアウトした部屋から出て、追われてた時に通った廊下とは反対を進んでいく。

 特に目新しいモノも無く突き当りが見えてきた。そこには大きな扉がある。


「あら、扉がありますわね」

「だね~両開きで豪華な感じだけど、そこまで大きくないし場所的に王様関係のお部屋かな?」


 考察を話しながら扉へと近づいていく。

 扉には宝石を嵌め込まれていて豪奢だけど、そこまで大きい扉ではない。

 扉の前に何事も無く着き、扉のドアノブに手をかけた。


 ――ガチャ


「あっ、すんなり開いたね」

「ですわね」


 開けて中に入ってみると――――


「......寝室?」

「恐らく王の寝室ですわね。今までの部屋と比べてお金がかかっていますもの」

「ほ~すごい部屋だぁ......」


 扉を開けて中に入って見てみると、柱に宝石が埋め込まれたキングサイズのベッド。

 観賞用の宝石のショーケース。宝石が嵌められた机に椅子。

 ソファーには二つの白骨死体が手を繋いで座っていた。


「この二人はきっと王と妃なのでしょうね......」

「......だね」


 外のアンデットたちと比べて、この二人は動く気配がない。

 きっとアンデット化しない方法で自殺を図ったのか......なんだか悲しい気分になるね。


 その白骨死体から視線を外し、部屋の探索を再開すると。


「お、なんだろこれ」


 豪奢な机の上に置かれた一つの本と紙。

 そして二つの指輪が目に入った。


「ねぇシオ――――


 ドゴォ! バキィ! バリン!


「おっおう......」


 シオンちゃん見つけた物を報告しようと振り向くと、ベッドにある宝石や高そうな生地、ショーケースに入っている宝石とか家具に嵌められた宝石を力尽くで奪い取り始めた姿が見えた。

 いや確かにね? もう王族も死んでるだろうし......でもなんだろう、それでいいのか......?


 友人の暴挙を咎めるべきか、ゲームだからと割り切るべきか悩んでいるとシオンちゃんの略奪が終了していた。


「ふぅ......これでいいですわね! ん、どうしました?」

「あっあぁ......なんかこの机の上に紙と本、そして指輪が二つあったから一緒に見よーって思って」

「そうでしたの、何が書いてあるか楽しみですわね」


 私と視線が合ったシオンちゃんに見つけた物を報告した。

 そして二人で机に近づいて紙を見てみると......


 ――――――――――――――――――――――――

 我らが愛しき娘達、アイカとシオンへ贈る。


 これをお前達が読んでいるという事は、無事に回復したのだろう。

 お前達が瘴気による症状が発症して数日で記憶を失い、困惑していたであろう。

 見知らぬ者となってしまった私達の言葉を聞き、焦っている私や憔悴してしまった妻を慰めてくれたお前達なら、きっと記憶が消えたままでも上手くやって行けるだろう。

 

 これを読んでいる頃、きっとこの国は残っていない。

 だからこの国から旅立つのだろうお前達に、昔一緒に勉強した時の古い本を出して置いた。

 この本を読んで、上手く立ち回ってくれ。お前達なら幸せに生きれるはずだ。

 それと共に指輪を置いておいた。

 指輪は数年後、お前達が成人する時に渡そうと思っていた物なんだがな......こんな形で渡すのは心苦しいが受け取ってくれ。


 記憶を失う前のお前達も愛していたが記憶を失っても尚、お前達は私達の娘だ。

 強く幸せに、生き延びて欲しい。

 それと......もし余裕が出来たなら、私達の骨を埋めるなり使うなりしてほしい。


 我らが血は、愛しき者と共に。


 ヴァルキス魔王国 国王ヅィート・フォン・ヴァルキス

 ――――――――――――――――――――――――


「「......」」


 ......私、こういうの弱いんだよなぁ。


「公式サイトには確かに、色々ある立場の中の一人とは書いてありましたが......こういうのもあるんですのね......」

「そこの二人は私達の両親、って事か......」

 

 仮想世界とはいえ家族で、しかも設定に没入できるように記憶喪失したことになっていて......

 ......頭が痛い。何か、思い出したくないような。


 頭の痛みを顔には出さず、頭を振って切り替える。


「指輪は二人で付けて、彼らをちゃんと埋葬しよう」

「ですわね......折角ですし、指輪を鑑定しておいて下さらない?」

「あ、そうだね」


 そういえば鑑定できるんだから、どんどん鑑定しておいた方が良いよね。

 レベルアップにつながるかもしれないし。


[装備] 魔王国王族の指輪 レアリティ:S 品質:S

 ヴァルキス魔王国の王族が代々受け継いできた指輪。

 親が子に嵌める事によって、成人として認められ王位継承が行われる。

 ・これを付けるとロール<魔王>になり、魔王国領土が貴方の領土になります。

 ※現在の存在階位ではロール変更と領土取得が出来ません。


「......ほぁ」


 ロールが魔王になる指輪......しかも今ゾンビパーティーなこの国の領土が手に入る指輪......しかも存在階位なんて情報も手に入ってしまったぞ。

 指輪は奪われない様に気を付けなきゃ......

 

「結構やばいアイテムですわね......まだあっちに宝石が残っているので取ってきますわ」

「あっうん、おっけー」


 本に触れてない内にシオンちゃんが離れちゃったけど......宝石も残ってないのに行っちゃったし、一人にさせてあげよう。

 私達は物語とか読んだり見たりする時、すぐ感動しちゃうタイプだからねー。


 さて、残った本を鑑定してみよう。


[書物] しりょうまじゅつ死霊魔術かんぜんばん完全版 レアリティ:S 品質:A

 ヴァルキス国王が自ら書き出した本。

 愛娘の為に読みやすく作られており、数年経った今でも大事に保管されて奇麗。

 熟読する事によって段階的に≪死霊魔術≫を取得可能。

 

 ぅぉぅ......父上が自ら作った物って......情緒がっ!

 にしても死霊魔術か、所謂ネクロマンサーとかそういうのが使う奴っぽいよね。

 私の厨二心が刺激されちゃうぞ? どんなことが出来るのか楽しみ。

 

 熟読する事によって~って書いてあるから、今度しっかりと読んでみよう。


 さて、シオンちゃんも少し落ち着いてるし、私が両親の骨をインベントリにしまってこの部屋は探索完了だ。


「こんなもんですわね。アイカそろそろ行きますわよ」

「ほ~い」


 私達は部屋から出て行き、通った道を戻って未探索の道へと進んで行った。




「追加のゾンビが居なくてよかった」

「ですわねぇ流石に広い所では勘弁願いたいですもの」

「そしてこっちには下に下れる階段......!」

「日の落ちてるうちに脱出したいですわね」


 ゾンビの居た方を進んでいくと、下へと続く階段を発見した。

 

 階段を降りると一本道の廊下があり、廊下を進んでいく。


「城ってこういう構造してるのかな。なんかおかしいね」

「隠し階段だったのではなくて? 逃げる為に使われて、そのまま放置されたのだと思いますわ」

「確かに!」

「きっとここから、従者や避難民などを逃がしたのでしょうね......」

「......だろうねぇ」

 

 廊下を進んでいくと、石の壁が廊下側に斜めに飛び出しており、隙間からは月光が差し込んでいる。


「ほあー! ついに外だー!」

「やっとですわね!」


 半開きの扉に走って近づいて外へ出ると森が見える。

 特に危険なモンスターは見えないし、こっちは本当に安全なんだろうね!


「ですが、太陽が出たら困りますわね」

「た、確かに!? えっどうしよう......」

「進みながら洞窟でもあれば良いのですが」


 これは困った。ようやっと開始地点から動けると思ったらこれだもん。

 しかも私達って死んだら何処で始まるかも分からないし、必死に進んでもちゃんとした日影が無いとログアウトもままならない。


「とりあえず進むしかありませんわ。最悪太陽光さえ防げれば良いですし、方法はいくらでもありますわ」

「そうするしかないかぁ......よし、走るか!」

「頑張りますわよっ!」


 こうして、魔王国王城から出て森へと駆け始めた。




 走って暫く、普通に走るのが疲れた私達は雑談をしながら森の中を歩いていた。

 ゲームを始めてまだ3時間、21時頃なのでまだ後6時間は移動できる。

 リアルのご飯はゲームで日が出てからかな。このゲームはログアウトしても体は残るから、ちゃんと安全地帯を確保してからだ。

 だから結局夜ご飯は朝方になるね。まぁ夕方に食べてあるから大丈夫だ。


「始まったばっかで、まだ全然生産系に触れられてないなぁ......折角とったスキルなのに」

「今は仕方ありませんわ、街に着いたら触れましょう。......にしても、一人一人にストーリーがあると聞いていましたが、ここまでとは思って居ませんでした......ゲーム開始はせめて滅んでない国が良かったですわ」

「ほんとね! でもそのおかげ......って言うのもアレだけど、領土を得る権利を手に入れたし他にも色々スタートダッシュに使えそうなのも手に入ったからね」


 割とヘビーなスタートだよねぇ......その分の報酬はあるけどさ。

 宝石とか換金出来そうなものは換金すればいいし、重いけど恵まれてるんじゃないかな。


「確かにそうですわね......どうせなら魔王国って言うのも色々調べてみたいですわ」

「それ面白そう! 結構細かく作られてるし、歴史的なストーリーとかもあるかもね」




 あれからざっと1時間程だろうか、森の中を走って進んでいくと――――


「アイカ、何か居るわ」

「ぬ、マッチョじゃないといいんだけど......」


 シオンちゃんが何かに気づいて報告してくれた。

 といっても私には分からないから警戒するしか出来ない。


 ――ガサガサ


「ガルッ!」

「っ! <スラッシュ>!」


 周りを警戒していると、突如として茂みからオオカミが飛び出してきた。

 シオンちゃんに向かって飛び掛かったが、シオンちゃんは即座に反応してオオカミを横に避けながら短剣で首を斬り上げた。


「キャイン!」

「いきなり......危なかったですわね」


 オオカミは首から血飛沫を上げながら飛び掛かった勢いのまま地面に突っ伏した。

 ......スプラッタ! でもシオンちゃんの動きが凄かったからそっちの方に関心が行く。


「シオンちゃんすごい! 今の一瞬で反応して、しかも首を斬り付けるとかすごいよ......!」

「ふふん、当り前ですわっ。これでもわたくし、別のゲームではトップを張っていたんですのよ!」

「ほぇ、そうだったの!? シオンちゃんすごい......やっぱり二つ名とかあったの?」


 シオンちゃんとは長い付き合いだけど、結構忙しい事が多くてそこら辺の事情を知らなかったけど......とっぷすごい。

 私が興奮しながらシオンちゃんに問い詰めると、すごく恥ずかしいような顔をした。


「お、教えませんわ!」

「えぇ~いいじゃん~教えてよ~」

「あまり知られたくないんですの! 恥ずかしいのです!」

「んもぉ~恥ずかしがってるシオンちゃんは可愛いねぇ~」

「も、もう先へ進みますわよっ!」


 これ以上は聞けないなと思い、シオンちゃんを褒めて弄る事にしたら、シオンちゃんが顔を赤くして先に走り始めてしまった。


「あ~! ま、待ってよ~!!」


 ちなみにだが、シオンは別のゲームで悪辣鮮血の猟鬼敵と呼ばれていた。

 由来はとあるVRゲームにて、PKプレイヤーを悲惨な状態になるまで嬲ってからキルするPKKプレイヤーとして噂され、一定時間残る死体は誰もが目をそむけたくなるような姿になっている。

 とあるPK配信者が返り血に染まったシオンを見て、悪辣鮮血の猟鬼敵と呼ばれるようになった。


 * * *


「あっー! シオンちゃんっ人工物がっ!」

「......! あれは城壁ですわ! きっと城塞都市か何かですわ~~~!!!」

 

 森を走り始めて数時間、ついに建造物を見つけた。

 見た目は城塞都市の様で、堅牢な壁がそびえたっていて中は見えない。


「右から左まで壁が続いてる......おっきい!」


 ついにゲームが始まった感じがする!

 街の中で何が出来るのかな、生産やお買い物、生産した物を売る側とかも楽しそう?


「早く行きましょう! 街に入って宿を借りて、リアルの方で夕食を済ませてから街を探索しましょう」

「あ、そ、そうだね。先に食べちゃった方がいいよね! よーっしいざ異世界コミュニケーション!」


 太陽はまだ出てきてないから、宿を取ってささっと夕食を食べて、日が出るまで探索かな!


「そこの者!止まれ!」


 門に向かって近づいていくと城壁の上から声をかけられた。どうやら衛兵の様だ。


「こんな時間に何の用だ!」


 衛兵の強い警戒心にちょっとビビっちゃって、私はシオンちゃんに不安な目を向ける。


「ど、どうしたらいいの?」

「わたくしに任せなさい」


 シオンちゃんは自信満々な表情を見せて、衛兵へ顔を向けた。


「わたくし達はヴァルキス魔王国から逃げてまいりました! 吸血鬼ですっ!」

「なにっ!? まだ生きている奴が居たのか!?」


 ひぇっ、まさか敵対国で生き残りを残さず殺してやるって意味っ!?


「良く生きてここまで来た! 今門を開けるから早く入ると良い!」


 あ、よかった......保護的な意味合いだったんだね......

 遠くて表情は見えないけど、衛兵さんの良いスマイルが見える気がするよ。


「残されていた文書からして避難した者も居ると思いまして、賭けてみたら当たりましたわね」

「ナイスシオンちゃん!」


 私達は門からすこし離れていくと、ゴゴゴッっと音を鳴らしながらわずかに門が開いた。

 どうやらここの門は小さな通用口が無いようで、大きな門を動かさないと行けないみたいだね。


「お前さん達! 門に少し近づいて来てくれ! 検査をする!」


 普段なら門の外で衛兵が立って検査してるんだろうね。

 私達は門へと近づくと、衛兵さんが出て来た。


 検査はごくごく単純で、水晶に手をかざし犯罪行為を行っていないかチェックするだけの様だ。

 どうやらこの世界では悪意のある人殺しや、第三者から見て悪質な行為と思われる行為をすると、魂に記録されるらしい。

 基本的に水晶をだますことは出来ないんだって。

 

 ちなみに衛兵の人はドワーフみたいで、この世界のドワーフは別にちんまいとかそういう事は無いらしくただ、骨太で筋肉量が多いみたい。


「おう嬢ちゃん達は問題ないようだな、ようこそドルギスト国の街アルフィアへ!」


 門を潜ると夜の為人が少ないとはいえ、吸血鬼が避難しているせいか若干人が歩いており露店なども見える。

 生存者がいる街というのはなかなか感動するね......!


「おぉ~ついに生きてる街が見れた!」

「ファンタジーな街並みではなく、生きてる街に感動してるんですのね......」

「あっそれより、早く宿取ってご飯食べて色々進めよ!」

「わかりましたわ。中央に進めば何かわかると思いますので進みましょう」

「おう嬢ちゃん達! 宿ならこの大通りを真っすぐ進むと、左手に宿屋がずらっとみえっから入ってみるといいぞ!」

「ありがとうございますー!」


 通行人の吸血鬼が親切に教えてくれて、言われた通り街の大通りを進んでいくと、左手に宿屋が見えてきた。

 どうやらこの街は鉱山街らしく宿に泊まり鉱石を掘る冒険者や、国所属の鉱山作業員なども泊まる為宿が多いらしい。

 それに、ヴァルキス魔王国からの避難民が殺到して、宿を作らなければならなかった背景もありそう。


「シオンちゃん......宿どれにしたらいいのかな?」

「う~んゲームであればどれも変わらないのですけど、そう考えるのは短慮というものですわね。わたくし達は初期配布のお金しか持っておりませんし、入手した宝石類も今売るには警戒されそうですわ。だから安めな......あそこがいいですわね」

「ぼろっちぃけど今はそれでいいか~」


 立ち並んだ宿を眺めてみると、綺麗な所からちょっとお高そうな所まである。

 よさげな宿を探していくと、宿屋というには小さめで二階建てのぼろっちい宿を見つけた。

 

 ――ギィ......


「............んぁ!? いらっしゃいませっお泊りですか!?」


 ボロボロの扉を開けてみると木の軋む音共に、場に似つかわしくない元気な女の子が現れた。

 この店の売り子さんかな? 見た目は130㎝ぐらいで茶髪のおさげさんで赤い瞳をしている。


「えぇ泊りですわ、1日いくらするのかしら?」

「1部屋1日500イルになります!」

「それじゃ2日分お願いしますわ」

「あ、ありがとうございます! 1000イルになります!」

「はいシオンちゃん500イル」

「ん、それじゃ1000イル丁度ね」

「丁度いただきました! 鍵はこれで、お部屋はそちらの扉を通って右手のお部屋をお使いください!」

「は~い」

「わかりましたわ」


 なんか親とか見えないし一人でお留守番なのかな?

 そんなことも思いつつ部屋に向かい入ってみると、建物自体はぼろぼろだったけど部屋自体は清潔になっている。

 建物はあれだとしてもサービスは行き届いてるねぇ。


「それじゃベッドでログアウトしましょう」

「は~い」


 ベッド二つあるのにさりげなく一緒のベッドに入ってきた......まぁいいか、ちょっと嬉しいし。

 

 〇ログアウト


* * *


 ――カチャッ


 ログアウトしヘッドギアのロックが外れた。

 ヘッドギアを頭から外してみると......


「おわぁ!?」

「ふふっ」


 外したらツインテールを解いて茶色の髪の毛がカーテンとなって私達の顔を包んで、目の前に見えるのは微笑み顔の紫苑ちゃん。

 顔が良すぎるし、近いし、微笑み顔が尊くて心臓に悪いよ......


「びっくりさせてごめんなさいね? それじゃ夕食をお願いしますわ、わたくしは作れませんので」

「はいはい、任せて~今日は何か食べたいものはある?」

「う~ん特には無いから好きなのを作っていいですわよ、食べれないものは特にありませんわ」

「わかったよ~それじゃポトフ作っちゃうねぇ~」


 紫苑ちゃんは話しながら離れてくれた。

 そのまま起き上がって部屋から出ようとしたので、私も急いで起き上がって付いて行く。

 

 キッチンに入って、冷蔵庫の中には~うん材料はありそうだね。

 用意しましたは、ウィンナー、じゃがいも、玉ねぎ、ブロッコリー、コンソメの固形奴!

 ささっと野菜類を洗ってじゃがいもの皮をむいて玉ねぎをある程度カットしておく、次に鍋にコンソメとじゃがいもと玉ねぎを入れて煮る。そしてウィンナーとブロッコリーを入れて軽く煮て~うん、こんなものでいいかな!

 後はパンを持って行けばこれでよし。

 ポトフとパン! まぁこの後ゲーム続けるしこんなもんでいいよね。


「紫苑ちゃん出来た~今日はポトフとパンだよ!」

「今日もなんちゃって冒険者食ね。すんすん......ポトフの香り良いですわね~」

「ほい食べちゃって~」

「いただきますわね」

「はいどうぞ~私も頂きます!」


 趣に力を入れて、木製のお椀に木製のスプーン。

 スプーンでじゃがいもとブロッコリーを掬い取って一口。


「どの具も美味しいねぇ~」

「ですわね~ホッとしてどれもほくほくして美味しいですわ。温まりますわ~」

「エアコンつけて、体が少し冷えたから丁度いいねぇ」


 今は......夜中1時あたりかな、日の出まで数時間ほどだし、食べ終わったら続きが出来そう!


「ふふっ、はまってますわね?」


 考えてる事が表情に出たのか、紫苑ちゃんに頬っぺたを突かれながら言われた。

 因みに紫苑ちゃんは対面じゃなくて、横にさりげなく座ってる。

 

「うん! まさに異世界って感じで風景を見るだけでも楽しかった......だからもっと色々見て回りたいし、出来る事を色々やりたいっ!」

「それならよかったですわ、ごちそうさまでした」

「お粗末様でした! それじゃ続きやろっか!」

「ですわね」


 食器をシンクに置いて、水につけて私達は自室へと戻った。

 さっきと同じく先にゲームを起動した紫苑ちゃんに、お布団を掛けてから私もゲームを起動した。


 * * *


「ん......」

「戻ってきましたわね。早速色々探してみましょう」

「はーい!」


 ベッドから二人で起き上がり、特に準備も何もの無いので部屋からそのまま出て、鍵を閉める。

 そして入口まで進むと、さっきの子が居たので鍵を預けようと声をかける。


「すみませーん」

「あ、はい。お出かけですか?」

「うん外出するから鍵を渡しておくね。そういえば名前は何ていうの? 私はアイカっていうよ」

「あっ! すみません言い忘れてました......私はマリスって言います!」

「わたくしはシオンと言いますわ。親御さんはいらっしゃらないの?」

「はい、私一人です......昔両親が邪神教徒との争いで命を落として......」

「わっごめんね辛い事聞いちゃって......何かあったら相談乗るから!」

「そうですわ、何かあったら言ってくださいまし。わたくし達はここに泊まっていますから言ってくれれば手伝いますわよ」

「あ、ありがとうございます! 何かあったらよろしくお願いします......」


 まさかこんな小さな子が一人で切り盛りしてるのか......ちょっと心配なのと、出来れば手助けしたい気持ちが湧いてくる。

 それに邪神教徒......邪神を信仰するやばいやつらなんだよね。

 この人たちのせいで瘴気以外の被害が多いって......もしかして王城で研究資料を燃やしたのも邪神教徒のせいなのかな......?

 ま、とりあえず記憶の片隅に置いて、マリスちゃんに何かあったら手伝ってあげよう。

 まずは色々街を見て、お決まりのギルドとか探さないとお金がなくて困っちゃうし。


「それじゃ私達は冒険者ギルドに行ってくるから!」

「行ってらっしゃいませ!」


 健気だねぇ......あの子の為に何かしてあげられたらいいんだけど......

 というかこの時間まで起きてるなんて本当に大変だね......


「あの子が気になりますの?」

「うん......一人で宿屋経営して、しかもあんなにぼろぼろで。何か手伝ってあげられたらいいんだけどなぁって」

「アイカは優しいですわね。それでも今はわたくし達にはお金もないですし、力もありません」

「うん、わかってるよ。まずは自分の出来る事をやって行かないとね」


 私達は話しながら街の中央へと向かって行った。

 街は大陸の北にある大きな山の麓で、半円状に城壁が立っている。

 街の北は鉱山と鍛冶関連の建物が建っており、東には住居と宿屋が建っておる。私達が入った門は東門だったみたい。

 南には商業関連の建物が建っており、西には領主の屋敷と領主軍関連の建物が建っている。

 そして中央には冒険者ギルド、商業ギルド支部が、そして生産ギルドが建っているようだ。

 3種のギルドはそれぞれが提携し全国で支部を作っており、国には属さない組織らしい。

 

 そんな紹介を検問の時に軽くしてもらったから、今はその中央へと足を運んでいた。

 中央に来て見えるのは、南寄りに商業ギルド、東寄りに冒険者ギルドが建っているようだ。

 私達が泊っている宿は東側だから近くて楽だね。

 でも私は生産がメインだろうから、北側に位置する生産ギルドに良く通いそうだね。


 ――カランカラン


「おぉここが冒険者ギルドか~」

「中もきれいで役所みたいな感じですわね」


 入ってみると右手にすっごい大きい掲示板、左手にはイスと机がたくさんあって待ち合わせとかミーティングが出来る所かな?

 前の方には複数のカウンター、左端に階段があり上は......見えないけどたぶん誰でも入っていい感じの所かな?


「とりあえず登録をしてしまいますわよ」

「あの~登録しにきました~」

「はい、冒険者登録ですね。こちらの水晶に触れて頂けますか? この水晶はステータスを読み取って記録し、記録からギルドカードを発行をする為の物です」

「了解でっす」


 二人で別々の水晶に手をのせた。載せてみると軽く青色に発光したぐらいで特に何もない。


「はい、読み取りが出来ましたので少々お待ちください。今ギルドカードを発行してまいります」

「は~い」

「簡単に登録できますのね」

「だねー! てっきり何か書くのかと思ったよ」

「そうですわね」


 二人で雑談しているとさっきの受付嬢さんが戻ってきた。


「お待たせしました。こちらがギルドカードとなります。他のギルドの登録の際にはこちらのカードを出して頂ければ、1枚で済みますので覚えておいてください。

 冒険者ギルドではF.E.D.C.B.A.Sとランクがあり、各等級に合わせて掲示板の依頼受注が可能です。それと自分のランクの一つ上まで受注が可能です。

 何か質問はありますか?」

「お金は預けられますの? それと預けられたとして、どのギルドに行っても預け金は共有されるのかしら?」

「はい、お金はギルドカード情報に記録される形となりますので、どのギルドでも預入と引き出しが可能です。他にありますか?」

「アイカは何かあるかしら?」

「昇格するときは試験みたいなのってあるんですか?」

「いえ、ギルドへの貢献度と本人の種族レベルに合わせてランクを上げますので、昇格時は受付にて報告させて頂きます。他に質問はありますか?」


 ほーん自動で上がるのなら楽だね! ラノベとかだと試験やらなんやら必要で面倒そうだから、そういうのが無くて良かったよ。

 にしてもテンプレートな感じを楽にした、ゲームならではのご都合的でいいね!


「シオンちゃんが無いなら特にないかな」

「そうですわね」

「わかりました、以上で登録は終わりです。依頼を受ける際には依頼ボードの依頼を受付にて、受注処理をしていってからクエストをするようにしてください」

「ありがとうございました~!」


 受付で登録も済んだし、これからどうしようか。

 探索しても良いし、無難に観光しても良いし、でも時間も無いしなぁ......


「わたくしは早速依頼を受けようと思っていたのですが、アイカは確か生産をすると言っていましたよね?」

「うん! 鍛冶とか錬金をしたいかな~って思ってる」


 私のスキル構成が完全に生産系に寄ってるからねぇ......

 実際に現場でシオンちゃんと行動したいけど、何より支えられる様な立ち位置は絶対に欲しい。

 

「でしたらクエストを受けてクエストついでに鉱物類の採取と錬金素材の採取をしましょう」

「お、そうしよっか。鉱物の採取となるとつるはしが必要だよね」

「つるはしは北の鉱山区と南の商業区、どっち売っているのかしら」

「とりあえず観光ついでに南の商業区行ってみない?」

「そうですわね、でもまずはクエスト受けましょう」

「あ、忘れてた! さて何を受けよう~」


 セーフ、シオンちゃんが居なかったら危なかったぜ......完全につるはし調達して鉱石掘るだけになってたよ。

 掲示板前に来てみるとまぁ夜中だから全然人が居ない、そしてクエストも全然ない。

 ただ恒常クエストの薬草採取とウルフ、ボア、ラビットのどれかの肉を納品があるからそれにをやる感じかな?


「常備クエストは~受注しなくても良いって書いてありますわね。それじゃ商業区へ行きましょうか」

「いこー!」


 恒常クエストはしなくていいのは楽だね。今の時間は人が全然居ないから、並ばなくても良いから関係ないけど。

 冒険者ギルドから出て南の方へと進んでいくと、夜だけど結構露店がある。

 新米鍛冶師の武器が売ってたり、アクセサリーとかそれこそ魔物のドロップ品とかも売ってる。


「へぇ色々あるねぇ~」

「ですわね。見た感じNPCの中にプレイヤーが混じってるっぽいですわね」

「ほーついにプレイヤーに出会えるという事ですな!」

「一応コレVRMMOですわよ」

「あ、あそこ武器の中につるはしが混じってるよ!」

「行ってみましょうか」


 こういう生産している人って自分で素材取ったりするのかな?

 売ってるの買ったりするにはちょっときつそうだけど。

 そう思いながら露店へと近づいた。


「いらっしゃい! 見た感じプレイヤーさんだな? こんな時間にやるなんて廃人さんかい?」

「そういう貴方も似たようなもでしてよ? それにわたくし達は種族的に昼には行動出来ませんもの」

「てことは吸血鬼か!? 掲示板じゃぁハードすぎて皆やらないみたいだが」

「まぁわたくし達は学生で夏休みですから丁度いいのですわ。それよりそこのつるはしを買いたいのですけど、いくらになるのかしら?」


 おぅ私を置いてがつがつ行ってる......

 まぁ私じゃ交渉とかそういうの出来ないし任せるしかないか。


「これか、こりゃただの鉄で作った練習用でな、耐久値が低いから――――…

「――――ルが妥当ですわ。それに壊れるのが早いなら次にも買ってもらえるように安くすべきだと思いますわよ?」

「――――00イルに負けてやるから次も買いに来てくれよ?」

「それでいいですわよ」


 おぉ......これが交渉って奴かぁ!

 私も生産品を直接売ろうと思ったけど、無理だなぁって思っちゃうよ。

 

「うし500イル丁度! お前さんらの名前教えてくれや、珍しい吸血鬼プレイヤーだしな。俺はドワーフでガテツってんだ」

「わたくしはシオンと言いますわ。こちらはアイカ」

「アイカです! よろしくです!」

「おっこっちの子は元気だな!」

「それではわたくし達はクエストをしますので失礼しますわね」

「おう、また買ってくれよな! (......ん? シオンって名前でお嬢様口調、悪辣鮮血の猟鬼敵と一緒だな......でも雰囲気が......別人か?)」


 ドワーフ族のプレイヤーでガテツさんと知り合う事が出来たね。

 なんか離れ際にシオンちゃんの事を知ってそうな声が聞こえたけど......まあいいか。


「東門の、入った方の門から出て」

「おーついにクエストだー! 恒常だけど!」

「森で恒常のエネミーを狩って、麓の鉱山へ向かいますわよ」

「鍛冶スキルもあるからねっ、シオンちゃんの装備は私が頑張って作るよ~!」

「っ/// それは嬉しいですわね......では貴方の事はわたくしが、しっかり守りますわ」

「うん......でも守られるだけじゃ居られないからねっ頑張るよ!」

「ふふっ」


 私達は話しながら商業区から出て、東側の門へと足を運んで行った。

 つい言っちゃったけど、シオンちゃんに守られながらってのもちょっとドキッとしちゃうなぁ~

 でもそれじゃ置いて行かれそうで......だから自分の身は自分で守れるぐらいにはならなきゃね!

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World Illumina Project Online ~もう一つの世界を楽しむ二人の物語~ 水無月鷹野 @LelGysEagle

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