城探索する吸血鬼達

「早速探索していくけど、左右どっちに進もうか......」


 窓の外を見た際に気づいたが、私達のいる場所は随分と城の上の方みたいだった。

 だから外に出るには時間がかかりそうだね。

 それに地上へ向かうにつれ、あのムキムキマッチョに会いそうだし......


「とりあえず右に行きますわよ。奥に突き当りが見えますし、探索は行き止まりに行くのが大事ですわ」

「了解っ。月明かりが窓に入るうちに探索しちゃおう」


 今は月が上がり始めたばかりで、月光が窓に差し込んでいる。

 でも時間が進むにつれ、月の位置的に月光は差し込まなくなってしまう。

 だから探索はちゃんとするけど、ささっとやった方が良いよね


「ですわね。暗いのは勘弁願いたいですし、もし魔法で部屋を照らすにしても魔力? が足りるかもわかりませんし」

「うん。シオンちゃん暗いの苦手だもんね?」

「さ、さぁ探索しますわよ! せめて蠟燭でもあるといいですわねっ」


 シオンちゃん昔っから暗いの苦手だからねぇ......。まぁ城なら蝋燭ぐらいあるでしょ。

 私達は廊下を右に曲がり、最初の扉の前へ立った。


「まずはこの部屋ですわね」

「んじゃ開けちゃうよ~」


 そう言いながら私はインベントリから片手剣を取り出し、ドアノブを回し片手剣で押し開けた。

 昔ゲームの動画で見たんだよね~扉にトラップが付いてたり、扉を開けたらいきなり襲ってくるタイプの敵が居たり、それらを少し警戒しての行動だ。


 ――ギィ......


「結構暗いな、シオンちゃん暗いの嫌だったら扉抑えて待っててくれる?」

「そうしておきますわね......」


 さてさて部屋の中は......

 

 大きな机があって、割れた薬瓶が散乱していて紙が一枚ある。

 暗闇に目が慣れてくると周囲に倒れた本棚が見え、本やら資料やらがあるが燃え尽きた後の様で読めそうにない。

 そして床には人骨? が落ちている。

 完全体ではなく、一部分しか落ちてない所から推測するに、スケルトンとして動き出したのかもしれないし、食べられちゃったのかも......ひぇ~


 とりあえず本棚とかの資料は参考になら無さそうだし、置いてある紙を手に取って部屋から出て月光の元へ来た。


「シオンちゃん。紙があったから読んでみよう」

「わかりましたわ」


――――――――――――――――――――――――

定期報告書

対象 □□□様/□□□様 □18年 1□□0□日


王都では少しずつ邪神による瘴気で同胞が死んでいっている。助手のウィリアムも死んでしまった。

先日、真祖返りの血を手に入れ試験薬と共に□□□様と□□□様に対して投薬を行った結果、浸食が進んだ体は回復。

ですが依然、意識が戻りません。

真祖返りの血と試験薬-NS50を混合させた薬なら死ぬ前に投薬する事によって同胞は救えるとわかり、□□□様と□□□様の命をつなぐことが出来ました。


これによって延命することが可能です。

意識回復については次回以降、報告書と共に資料を送りますので研究をお願いします。

最近では王都で不穏な動きがみられてい

――――――――――続きはびりびりに破られている。


 う、うわぁ......ゲーム始まって最初に読んだ書物が重い。

 同胞っていうのは吸血鬼の事かな......真祖って書いてあるし。


 まとめると、邪神の瘴気は吸血鬼を何らかの方法で死に追いやる。

 二人いる薬品の被験者ひけんしゃは大切? 偉い人? なのかな。

 真祖返りの血と試験薬を合わせた薬で、死ぬ前の吸血鬼を救えるけど意識は戻らない。


 それに報告書を書いてる途中に襲われたのかな。

 報告書を送ることも出来ずここにあるしね。

 新薬のレシピ部分も本当は続きに書かれてたのかもしれない。

 そもそも破られたり本棚が燃やされてたりとか、作為的な痕跡が残ってるのか怖いね......。


「その二人治ったけど、多分他の人は投与する前に死んじゃったのかな......でもその二人って何処かに居るのかな?」

「ねぇこれわたくし達の隣の部屋の資料ですわよね?」

「そうだね」

「という事はその二人って、わたくし達ではなくて? 高貴なる服を着ていますし」


 シオンちゃんがそう述べた。

 確かにあり得る......隣の部屋だし、棺に入れられてたし、吸血鬼的にはちゃんとしたベッドだったのかもしれないしね......?


「てことは私達ってこの城では偉い立場ってコト......?」

「S版は一人一人にストーリーがあるようですし、実はわたくし達お姫様だった。なんてこともあるかもしれませんわね」

「何それすごい!」

「まぁ姫と付いたとしても、見てわかる通りが付きますけれど」

「しかもお外はどっからどう見てもやべー奴らに囲まれてるしね......」

「まっ今は探索を進めるしかありませんわね」


 実はお姫様でした! って話でも特に意味も無いし、証明できる物もないので結局窮地に陥った一般吸血鬼と変わらないじゃないか......。

 いやまぁ......肩書ってだけでちょっと嬉しいけどさっ。

 

 私達は廊下を進み、次の部屋の扉まで来た。


「だね~次の部屋はっと、んんん? 鍵がかかってる?」

「開けられそうにありませんわね」

「まぁ仕方ないか他の部屋も見てみよ」


 こうして私達は部屋を順々と漁った。

 右の通路は行き止まりだったので引き返したし、部屋もほぼほぼ鍵が閉まっていたり物理的に開けられなかったりと特に成果は無かった。

 私達は最初の部屋から左側の廊下を進んでいき、こちらも扉が開かず。

 それでも成果はあった。


「おっ階段!」

「やっと次に進めますわね。ですが......」

「うん、これ下には行けないねぇ......」


 ようやく見つけた階段だけど、下り階段部分のみ崩落してる。

 下を覗いても真っ暗だから多分一階まで崩落してるかな。

 代わりに上階に行く方は崩落してない。


「上、行くしかないかぁ」

「現状はひたすら進める方へ進むしかありませんわね......」

「だね」


 階段を登っていくと、さっきの廊下と似たような景色になった。

 ただ似ているだけで、窓ガラスのある壁は全部ガラスに置き換わっていて景色が一気によくなった。


「こうやって見ると奇麗ですけれど、吸血鬼にとって致命的な景色ですわよね」

「だね......どうしてこんな窓ガラスになっているんだろ?」

「あれではなくて? 日が出てるうちは基本的に寝ているから、無防備な時に吸血鬼の謀反から守るとか、そういう対策なのかもしれませんわ。あと趣味の可能性も......」

「趣味を推して行きたい」


 二人で考察交じりの雑談をしながら、月光に照らされた廊下を進んでいくと......


「ヴァァ......ァッァァ......」


「ひっ!」

「っ!」


 少し遠くからの呻き声だが、窓の外に居た奴らより確実に近い。

 もりもりマッチョマンの呻き声が聞こえてきた。


「こっりゃぁやばいよ、廊下は広いから余裕で襲ってくるよ......」

「ふ、不安を煽るのはやめて早く安全な所をっ、あっ」


 呻き声に動揺してたけど声を上げず小声で話していた。

 だが声を潜める事と、ゾンビの方に注意が行っていたようだ。


 ――パリィン


 シオンが廊下にある調度品の壺にぶつかり落としてしまった。


「ッ! ヴァァァァァアッァアッァ!」

「ひぃぃぃぃぃ」

「シ、シオンちゃ、こっち!」


 ――ドッドッドッドッドッ!


 やっばい、廊下の奥の方からもりもりマッチョマンが全力で走ってきてる。

 何がやばいって早い。

 全力で逃げてるのにドッドッドッドッって音鳴らしながら、廊下の曲がり角も瞬足を履いてるのか......コーナーで差をつけに来てる。

 それでもかなりの距離を走っていたら――


「はっはっ、ア、アイカっあそこの扉空いてますわっ」

「駆け込めぇぇぇ!」

「ヴァァァァァアッァァァァ」


 ――バン!


 半開きの扉を勢いよく滑り込み、後ろ手に強く閉じた。


「ね、ねぇシオンちゃん? 絶対扉破られるし、ここで応戦しないと絶対死ぬ」

「ですが、はぁ、はぁ、やるしかないですわね。幸い扉は小さいですし引っかかってる間に攻撃しますわよ」

「おっけぇ――――


 ――ドガァッ!


「ガッ......ハッ」

「っ!あ、あいか!」


 反撃するぞと意気込んだその直後。もりもりマッチョマンが扉の枠ごと壁をぶち破ってきて、その勢いのまま私は吹き飛ばされた。

 痛い、あまりにも痛すぎる。壁に叩きつけらられ肺から空気が一気に吐き出された。

 私達は今、痛覚設定を100%にしてプレイしているから現実と全く同じ痛みを感じてしまう。


「くっ離れなさい!<ファイアーボール><ファイアーボール><ファイアーボール>!!」

「グッ......ヴァァ」


 あいつ火に怯えてんよ。

 ぐっ私も戦わなきゃ......あるのは片手剣。

 敵は筋肉もりもりマッチョマンのゾンビだ。


「けほっ......ごめん、シオン、お待たせ」

「大丈夫ですの?」

「うん、まだ何とか......何もしないで死にたくは、無い」

「可能な限り援護しますわ、一矢報いましょう」

「もちろん......ッ、にゅあああああああ!!!」


 現在の状況はシオンちゃんが入口に、ゾンビが部屋の中央に居て、私が吹き飛ばされて入口の反対の窓際に居る。

 

 この状況で、シオンちゃんの火に怯え日和り気味のゾンビに対し、私が痛みに耐えながら一気に近づき、


「<スラッシュ>!」

「グヴァアア」


 右膝裏を斬り付けてシオンちゃん側へ通り抜ける。

 

 上手く剣で腱を斬れたのか、一気に右足から崩れ落ち首を垂れるゾンビ。

 筋肉量が多いとはいえ腐敗している事には変わりなく、容易に刃が通った。

 だがそのままとはいかない、ゾンビは両手で私を掴もうと手を伸ばしてくる。


「ヴァァァァァァ」

「させない! <ウィンドカッター>!」

「っ! <スラッシュ>!」


 シオンがウィンドカッターで左手の指を狙ったなら、私は右手の指を狙うっ!


 ――スパッ!


 いい音を鳴らし指が落とされた。――シオンの方だけだが。

 私が斬り付けた方は切り落とすことが出来ずに私を掴んだ。


「ぐっふぐぅっ......!」


 キリキリと体を握りつぶされていく感覚がする。痛い骨が折れそう。

 全体的に脆くなっているゾンビの体でも、握力は随分と強いみたいだ......ッ......


「<パワーショット>! これ以上ッさせませんわッ! <スラッシュ>ッ!!」


 シオンは矢を射りゾンビの左目を打ち抜き、右腕に乗り右目を短剣で斬り抜いた。


「ガァァァァァァ」


 ゾンビは私を手放し、目を抑え尻もちをついた。

 右手で両目を守るように抑えているゾンビ。

 だが右手で抑えると左目側は指で覆う事になる。


 今だ、今しかない、剣をッ!


「うぉらぁぁぁッ!」


 ――グシャ


 指の隙間から剣を滑り込ませ、左目を刺し貫いた。


 ――ドゴッ......


「と、届いて、よかったぁ」

「危なかった、ですわね......」


 どうやら剣は無事脳まで達したようで、後ろ向きに倒れて行った。


「ぐっ、あ~~~やっばい体痛い、吹き飛ばされて握りつぶされそうになったから流石にきつい......」

「だ、大丈夫ですの!? とりあえず休む場所を......」


 実は痛覚設定によって微量ながらもステータスへの影響があって、痛覚100%ならより早くステータスが上がり、より強くステータスに影響し、よりリアルの体と同じような直感的な操作が出来るようになる。

 後もう一つの理由として、一つの世界っていうのを感じたかったから100%のままなんだ。


「出血もしてないのは不幸中の幸いだね......うぅ体痛い......」

「とりあえず移動しますわよ。ここじゃゆっくり休むことも出来ませんし」


 ゾンビの腐敗臭を嗅ぎながら休める人はそうそういないだろう。


「抱き上げますから少し痛いかもしれませんわよ。よっと」

「おわぁぁ、ちょ、ちょっと!」

「早く休みたいのでしょう?」

「そ、それはそうだけどお姫様抱っこはやめない......?」

「はい、行きますわよ~」

「むぅぅぅぅぅ」


 こうして私達の初戦闘は終わり、安全な他の部屋を探し始めた。

 なかなかつらかったよ......吹き飛ばされ握りつぶされそうになりと、普通の人間の体じゃ初手肉片だよもう......

 吸血鬼万歳だね......


「この部屋も扉が開いてますわね。入りますわよ」

「うん」


 部屋に入ってみると特に危険も無いようだった。

 ソファーがありローテーブルがありと、どうやら応接室の様だ。


「ソファーに下ろしますわよ」

「んっ、はぁぁぁぁ快適じゃんこのそふぁぁぁぁ」

「はい、口開けてー」

「ぁぁぁぁんぶっ!」


 ソファーの感触を楽しんでいたら口になんか突っ込まれた!


「吸血鬼用のポーションですわよ」

「んぐっ、んぐっ、んぐっ、ぷはぁありがとうなんだけど、いきなり突っ込まないでよ!」

「ポーションを忘れていた子の為に、わたくしのを使ってあげたんだから感謝しなさい」

「んむぅぅありがとうっ!」

「ふふっそれでいいですわ」


 そう言ってシオンちゃんは、私の頭の横に腰を掛けた。


「ほら特別に膝枕して差し上げてよ?」

「あ、ありがとう......でもいいの?」

「気にしないでくださいまし。わたくしの方がVRゲームは先輩なのに、アイカに任せっきりだったからご褒美ですわ」

「そんなの......それこそ掴まれそうになった時いっぱいフォローしてくれたんだから」


 ――ぐぅ~


 私が固辞しているとお腹が鳴った。


「安心したらお腹すいてきちゃった......」

「走って戦って探索も時間がかかっていましたし、ってもう夜中3時ですわね」

「えっ、あっ本当だ......吸血鬼でやってると昼夜逆転不可避だね」

「学校が始まってもWIPOをプレイするのは夕方以降で都合がいいのですが......まぁ夏休みですし別に大丈夫ですわ。日の出に寝て、起きたら課題をして、VRして、ご飯食べて、VRをすればいいのですわ!」

「おぉぅゲーマーだねぇ。私も今は両親が家居ないからそうしよっかな」

「あらまたお一人ですの?」

「うん」

「それじゃわたくしはこの夏休み、アイカの家に泊まりますわっ!」


 寂しい気持ちが顔に出ちゃってたかな......? とはいえシオンちゃんに迷惑だろうし、東条家より不便な環境だから断らないと。


「大丈夫だよシオンちゃん、それに家に来たらコックさんの美味しい料理も侍女も居ないよ?」

「構いませんわよ。それに貴方の手料理だって美味しくて好きなんですのよ?」

「え、そうだったの? それは......嬉しいな」


 料理は私自身一人で居る事が多くてVRの練習から始め、実際にちょっとした趣味みたいな感じだったから美味しいってのは家族のヨイショだと思ってた。


「あまり深く気にしないでいいのですわ。わたくしが良いと言っているのだから良いのですわ! それにお泊りってなんかワクワクしませんこと?」

「ま、まぁわかるよ夏休み一か月あるから多分新鮮な気持ちは薄れると思うけど......そこまで言われちゃったら断るのもね」

「それでは明日? 今日の夕方に向かいますわね」


 そう言った時のシオンちゃんの笑顔は凄く奇麗で純粋に嬉しそうだった。

 ドキッっとしたけど......なんだろこれ......? たまにあるんだよなぁ......。


「それでは今日はここでログアウトしますわね」

「う、うん私もログアウトして寝ようかな」

「それではまた夕方に、おやすみなさいませ」

「うんおやすみ」


* * *


 カチャッ


 ログアウトして意識が戻るとWFDHGのロックが外れる音がした。


「......ふぅ。VRゲーム初めてやったけど凄かったな」


 まさにもう一つの世界って感じで、まだ城から出てないし、全然他の所とか見れてないけど。窓から見た景色は凄く奇麗だった。

 廃墟も廃墟で月明かりに照らされ、遺跡のような神秘的な雰囲気を作り出していた。城の中の部屋も細かく作りこまれていた。


 他の街や国、色々な所も見てみたい。私はそう思うだけでも心が踊った。


「けど吸血鬼のデメリットのせいで太陽の下は歩けないな」


 吸血鬼だと太陽の元では数秒で燃え尽きてしまう。

 どこかで克服できないとイベントとかも出れないよね。

 いやイベントとかあるか分かんないけど......紫苑ちゃんがプレイしてる他のMMORPGとかはオープンワールド? でも一か所に集まってイベントとかあるらしいし、多分あるかもしれない。


「頑張って進めなくちゃ」


 生産系でどんなことできるか分かってないし、実験とかが最初はメインになってくるかな。


「まぁ次やる時考えればいいか」


 そもそもまずは城から脱出しないといけないしね。

 私はそうつぶやき、WFDHG外してから休日に行う日課を消化し、シャワーを浴びてから寝た。


 * * *


 ――ピピピッピピピッ!


「......もうこんな時間か」


 夕方近くの時間に目を覚ましアラームを止めた。

 あ゛~この時間に起きるのは久しぶりだねぇ、よっしまずはシャワー浴びに行こう。




「ふぃ~エアコンつけていたとはいえやっぱり暑くなるねこの時期は......」


 シャワーを浴び歯磨きを済ませた後、夕朝食? を作りにキッチンへ向かう。


 ――ピンポーン


「あっ、そういえば今日紫苑ちゃんが来るんだった。はーい! 今出ますー!」


 昨日紫苑ちゃんが言っていた事を思い出しながら私は玄関へ向かい扉を開けた。


「やっほー」

「あ、暑いので早く入れてくださいまし......」

「あっごめん! はい、荷物持つから入ってっ」

「感謝しますわ......」


 扉を開けてみると、日傘をさして汗でべたべたになったワンピースを着た紫苑ちゃんが見えた。

 私は急いで紫苑ちゃんを入れて、荷物をリビングに置き冷たい飲み物を用意した。

 冷たいと夏バテが~と言われているが部屋エアコン効いてるし、汗まみれでこの後恐らく浴室へ行くから大丈夫だろう。

 それにしても......夕方になっても湿気凄すぎて外の空気熱いわ......

 

「はい水」

「感謝しますわ......ぷっはぁ! いやぁ熱い体にゃ冷たい水ですわね! 生き返りますわ!」

「とりあえず浴びてきたら? 私丁度ご飯を作ろうと思ってたからさ」

「わたくしまだ食べていませんから、わたくしの分も作っておいてくださいまし」

「もっちろんよ~何が食べたい~」

「暑かったから鶏肉とレモンを使ったさっぱりした奴が食べたいですわ」

「おっけんじゃ作っておくから浴びておいで。タオルは洗面所にあるから~」

「わかりましたわ~」


 さて料理をしようか。鶏肉とレモンでさっぱりというと......

 みじん切りした玉ねぎを飴色になるまで焼いて柔らかくして、薬味ネギと混ぜてちょこっと酢をかけてまとめて、レモンを絞ったエキスと混ぜ合わせれば特製ドレッシング出来上がり。

 鶏肉は無難にチキンステーキで外面パリパリに焼いてでいいかな。

 あっ、ご飯炊いてなかったわ......それじゃ今日はパンと一緒に食べる感じになるね。後コーンポタージュでも付けておこうか。


 異世界の宿屋の飯に出てきそうな感じ......

 夕朝食を用意していると紫苑ちゃんがシャワーから上がったようだ。

 既に寝間着......! ちょっと煽情的な寝間着所々透けた感じのネグリジェですな!


「ふー、お風呂とか入っていられませんわ。やっぱり冷たい水浴びて、冷たい部屋に限りますわね」

「極度の暑がりかい。風邪引かないようにゲームするときはちゃんと布団かけるんだよ」


 すごい寝間着へ目が行っていたけど、紫苑ちゃんの発言で意識から外れた。


「わかっていますわ。わたくしいつも暑くなったら寒くなるまで冷やして温めるタイプですの」

「何その寒暖差による体の修行」

「そんなことよりご飯は出来まして?」

「出来てるよ~ただ米炊き忘れてたから肉とパンになるけど」

「全然大丈夫ですわ」

「それじゃはい、チキンステーキとレモンと玉ねぎソース~ただのパンを添えて~withコーンポタージュ」

「ファンタジー物の料理見たいですわね」

「それ私も思った」

「じゃ頂きますわね」

「どーぞ、いただきます」


 ふむふむ、うめえわ。

 チキンステーキに玉ねぎとネギのレモンドレッシングがすっごい合ってさっぱりするね。

 シャクシャクといったネギたちの食感もいいね~あとこのセットにパンは正解だ。


「やっぱり美味しいですわね。わたくしは料理全然できませんので羨ましいですわ」

「紫苑ちゃんって結婚しても働く側って感じするよね。頭もいいし物事の器量の良さもダントツ、怖いのが関わらなければね」

「んも~怖いのは仕方ないと思いませんこと? それこそ愛華は主婦って感じですわね。そう思うとわたくし達は夫婦見たいですわね?」


 そういわれなんだか、うれしいという気持ちがじわじわと広がってくる。


「も、もうそんな冗談はやめてよ~女の子同士なんだよ~?」

「(冗談でないのですのに、鈍いですわ)ふふっ冗談だと思いまして? さて、夕食も食べて日も落ちてまいりましたし、そろそろWIPOを始めましょう」

「おっけー!」


 最初なんか呟いていたけどなんだろう......? まぁまずはゲームだ。

 結局今日課題をやってないけど明日頑張る!

 私達は食器をシンクに片し、私の部屋に入った。


「そういえばわたくしは何処で寝ればいいんですの?」

「う~ん勝手に親の部屋使ってもなぁ、私の部屋で良い? 私は床に布団敷いて寝るからさ」

「一緒のベッドでよくありませんの?」

「え゛っ嫌じゃない?」

「嫌なわけありませんわ」

「そ、それじゃあそうしようか」


 私はベッドの端の方により寝転がる。

 一応ダブルサイズのベッドだから大丈夫だとは思うけど......


「荷ほどきはまぁ別に後でいいですわね、それじゃ」


 ――ギシッ


 シオンちゃんもベッドに入ってきた。

 やっぱり、ふ、二人じゃちょっと狭くないかな?


「よしそれでは先に起動しておりますわね! 『イルミナ世界へ転移!』」

「えっあ、ちょっ! 布団かけてないし......」


 狭いことを告げようと思ったが起動してしまっては仕方ない。

 私は手を伸ばし布団を引っ張りって紫苑ちゃんと自分にかけた。

 そしてWFDHGを装着。

 

「イルミナ世界へ転移!」


* * *


「来ましたわね」


 ログインして目を開けると膝枕された状態で始まった。


「あれこのゲームって終わった状態から始まるの?」

「そうみたいですわね。わたくしもログアウト直前と全く同じ体勢で始まりましたから」


 ん......?

 さっきご飯食べたばっかりなのにすっごくお腹がすく......ってそうか、さっきのはゲーム外の食事だもんね。


「アイカ? どうしたんですの?」


 <状態異常:吸血衝動Ⅱ>


 な、なんか状態異常になってる......これって吸血鬼としての食事、吸血を求めていて状態異常になってる? まだ何とかなりそうだし頑張って抑えておこう。


「い、いや特に気にしないで? なんか空腹で状態異常になってるだけっぽい」

「それは大丈夫ですの?」

「うんいやなんか<状態異常:吸血衝動Ⅱ>って言うのになってるけど、吸血鬼って人の血を吸うんでしょ? 対象が居ないから頑張って我慢するよ」

「心配ですわねぇ......私が状態異常になっていないという事は、先の戦闘でのダメージとかの回復に血を使った~とかの設―――腹になって――――かも――ません――」


 あ、あれなんか音が聞こえづらく......?


「聞ーてい――の?」


 シオンちゃんの顔が近づいてきた。

 あっなんだかいい匂い......おいしそう......


「ーーー?」

「がまん、できない」


 そう言って私はシオンちゃんの顔の方に近づき、背中に手を伸ばし......


 ――ガプッ、はむはむ


「ーーー!?」


 大切な友達を傷つけ過ぎないように優しく首筋に噛み付き、背中に手を回して抱きつく。そして大きくじゅるじゅると血を吸う。

 あ、ちがたれてる、もったいない。


「んくっ、じゅるるぅ、れろ、ちゅる」

「あ、あいかぁ......? も、もうわたくしも我慢できませんわ......」


 ――カプッ


 シオンちゃんはそう言って私の首元に嚙みついた。

 シオンちゃんもおなかすいてたのかな。


 じゅる、じゅる、れろ、ちゅ、じゅるぅ


 城の一部屋で二人の吸血鬼がソファーで一心不乱に、お互いを傷つけないように吸血し合っていた。

 ソファーに寝ころび紫苑が覆い被さるようにして愛華を襲っているように見えるが、愛華もその紫苑に抱きつき吸血している。

 その姿は他の人には見せられないような、欲情し合いお互いを貪っているようにすら見える。


「じゅるぅ、こくっこくっ、ハッ、はぇ?」

「ちゅぱ、あら意識が戻りまして? 貴方いきなりわたくしの首元に噛みついて血を吸い始めたんですのよ?」

「あっ、あえ、ご、ごめん! 大丈夫!? 痛かったよね!? 傷つけてごめん......うぅぅぅ......」


 あああああやってしまった。自分の欲を優先して友達を傷つけてしまった......


「アカネ? わたくしは気にしていませんわよ。寧ろずっと空腹でつらい状態になって貴方が苦しんでしまう方が嫌ですわ」

「で、でも私達吸血鬼同士で......あ、あれ? 空腹感がない......」


 ステータスを確認しても状態異常にはなっていたなかった。

 いなかったが......


「多分これのおかげですわね」


===================

名前:アイカ 称号:<セットなし>

種名:吸血鬼 種族:D


ー種族基礎ステータス

〇戦闘スキル

≪片手剣4≫


〇補助スキル

≪鑑定5≫≪錬金1≫≪料理1≫≪鍛冶1≫≪採取1≫

New≪探索1≫≪暗視1≫


〇種族スキル

≪日光脆弱≫≪血液操作1≫≪吸血捕食≫

New≪専属吸血Ⅰ≫≪専属献血Ⅰ≫


ー称号リスト

ー装備

===================


 色々増えてたりレベル上がってたりしてるけど......これの詳細を見てみよう。


=============

≪専属吸血Ⅰ≫

同じ吸血鬼種族同士で吸血し、お互いを認め合うと手に入るスキル。

特定の吸血鬼が相手であっても空腹を満たせるようになるが、他の生物や吸血鬼を吸血しても何も効果は生まれなくなる。

<専属対象:シオン>

=============


 これの効果に吸血鬼でも空腹を満たせるって書いてあるって事はそういう事なんだね。

 今思うと他の人の首に口を付けるってなんか嫌だし......それに認めてって書いてある通り認めてくれたんだ、これ以上自分を責める事なく受け入れよう。


=============

≪専属献血Ⅰ≫

同じ吸血鬼同士で吸血し、お互いを認め合うと手に入るスキル。

特定の吸血鬼に対して吸血された際に効果を発揮する。

・自動回復:5分持続

<専属対象:シオン>

=============


 これは吸血された後、5分間リジェネで回復するスキルみたいだ。

 専属になってスキルも上位になったのか、吸血された分回復できるようになったって事かな。


「わたくし達は特に人間を襲わずとも、二人で完結できるってことですわね」

「だね、また変に吸血衝動が出て襲わないように、お腹がすいたらお互いちゃんときゅ、吸血、しよっか」

「そうですわね」


 それにしても、この気持ちは何だろう。

 シオンちゃん以外に吸血したくないとか、なんだか体が血じゃなくてシオンちゃんを求めるような......


「回復もして準備も整いましたし、そろそろここから脱出を目指しませんこと?」

「あぁそうだったね。よし! 次はあのゾンビにやられないように頑張るぞ!」


 こうして私達は脱出に向けて探索を始めた。

 にしてもこの気持ちは何なんだろう......? 最近シオンちゃんの事でドギマギしちゃったり......

 私は少し混乱しながらシオンちゃんの後をついていくのだった。

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