World Illumina Project Online ~もう一つの世界を楽しむ二人の物語~

水無月鷹野

世界の始まり

「愛華。明日、ですわ!」

「うん、紫苑ちゃん! ついに!」

「「WIPO-S-ウィーポ エスの開始日!」」


 World Illumina Project Online。

 通称WIPOウィーポ。今日はそのゲームの開始日だ。


 このゲームは最近のFDVRフルダイブヴァーチャルリアリティにはない斬新な設定で売り出されており、World Illumina Project Online -Story of the illumina-と言われる限定版が先に発売する。

 そして予定期間内に通常版のWorld Illumina Project Onlineが発売されるらしい。


 値段はWIPO-S-が5万、WIPOが2万だ。最近のFDVRゲームは平均的に2~3万する。

 しかも本体は専用のヘッドギアでなければいけない為、本体でもプラス10万だ。

 値段ぶっ飛んでるね!


 それでもなぜ売れるか。

 それは昨今のFDHGフルダイブヘッドギアでは成し得ない、完全な五感の再現にある。

 運営の所有している建物に用意された、テスト型の試験運用がテレビで生放送された。画面越しでは実際に五感が伝わる訳ではないが、試験運用した開発陣と特別体験したタレントと一般人(抽選に当選した人)の反応を見れば誰もが理解できた。

 そして信憑性をもっと上げる為に行動に出た。それが一般向けに体験できる様に、コミケ会場で有名なあそこで皆が体験出来る体験会を開いたのだ。

 WFDHGWIPO専用FDHGはWIPO-S-やWIPOを買わずとも、ある程度の専用アプリケーションが入っており、専用アプリケーションでも五感が体験できる。


 現行の五感反映システムは医療用の大型ポットに加え、大型の演算装置を置かなければならなかった。故にWFDHGを使用しない五感の完全再現には、数百万円掛った事だろう。


「明日が楽しみすぎる~! 本当に買ってくれてありがとっ、ぎゅ~!」

「んっ、人目があるのですから離れてくださいまし。丁度貴方が暇そうだったから誘っただけですわ。そういえばわたくしは色々なFDVRゲームに触れていましたけど、愛華あいかは初めてですわよね?」

「うん! ゲームは並々にやってるけどFDVRは初めてだなぁ。紫苑ちゃんは結構やってるよね」


 今話してる相手は紫苑ちゃん―東条とうじょう紫苑しおん―で、全国で幅広くなんやかんやしてる企業の東条家御令嬢さん。めっちゃお金持ちなんだ。

 紫苑ちゃんも別口で何か仕事をしてるらしいけど、聞かれたく無さそうだから聞かないようにしてる。

 身長は164㎝で茶髪のツインテールが腰まで垂れ下がってる。瞳は紫色にで吸い込まれるような瞳だ。お胸は、おっきいよ......。


 私達が知り合ったのは小学生の頃からで、クラスが一緒になって友人になったんだ。それから長い時を過ごして親友になったんだよねぇ。


 そして私は5歳の頃に子宝に恵まれなかった両親が、養子として迎え入れられた子供。瀬楽夫婦の養子だ。両親は良い人で実の親と言っても良い。関係は良好だ。

 私のプロフィールは紫苑ちゃんと同じ164㎝! 黒髪でゆるふわミディアム(ぼさっとなってるだけ)で瞳が金色。生まれた頃は黒だったから後天的になぜか変わった。胸は......察してくれ。慰めなくていいよ。


 私は親友で、ツンツンしてるけどなんだかんだ言って私の事を一番に考えてくれる紫苑ちゃんが大好きだ。

 そんな紫苑ちゃんに当選倍率が狂ってるWIPO-S-とWFDHGをプレゼントしてもらった。

 もうね、紫苑ちゃんに体を売るしか私には返せるものがないよ......。

 一緒に一杯遊んで、一緒に楽しんで、それがプレゼントへの誠意だ。言い訳じゃないよ!


「夏休みはWIPO-S-ウィーポ エスの沼に落ちましょう。沢山楽しむのですわ!」

「うんっ沢山楽しむぞ~!」


 終業式も終え、紫苑ちゃんの送迎の黒塗りの高級車に家の前まで送ってもらった。

 さっきまでの会話は車の中での話だ。


「それでは愛華、明日に仮想世界で会いましょう」

「うん! 明日あす、仮想世界で!」


 車を降り、別れの挨拶をして私は家に帰ってきた。

 がちゃ、と音を鳴らし家の鍵を開け玄関へ入る。

 リビングへ行くとお父さんとお母さんが居て、お母さんは夕食の準備。

 お父さんは何か仕事の準備をしてるみたいだ。


「ただいま~」

「おうおかえり!」

「おかえりなさい~」


 帰宅の挨拶をしてリビングを通り抜け階段を上る。私の部屋は2階だ。

 両親の部屋は1階で、2階には私の部屋とトイレ、最後に鍵のかかった部屋がある。

 鍵のかかった部屋は私もまだ見たことが無い。昔からずっとで、最初の頃は気になったが今は気にしてない。あの両親が犯罪に手を染めてるのもあり得ないし、いつか教えてくれるだろうと静観してる。


 にしても暑かった。

 自室へ入り荷物を置き、制服を脱ぐ。

 車の冷房があるとは言え、学校内や車から降りた時の暑さは地獄だ......


 私の部屋は扉から見て、部屋の右奥にダブルサイズのベッド、ベッドの足側の小さな空間に机と椅子とパソコンがありモニターが扉から見えないように配置されてる。これは執務室みたいなイメージが解りやすいかな。そして部屋の中心にカーペットとローテーブルがあり座布団が敷いてある。

 パソコン周りとダブルサイズのベッド以外は一般的かな。一般が解らないけど私にとって効率と都合の良さを考慮した配置がこれだ。全体的にモノクロなカラーデザインだ。


 ダブルベッドである理由は単純に広いのは好きだから。昔はシングルだったけど、ホテルに泊まった時のクイーンサイズのベッドで寝た時惚れた。

 寝る時に心に余裕を持たせて寝れるから好きなんだ。私はちょっと夢見が悪い事が多いからね。


「さて冷房付けておいて浴びるか......」


 制服もハンガーにかけ、下着姿になった所で冷房を付けてそのまま部屋を出る。もちろん着替えも持ってね。

 階段を降りすぐそこのシャワールームへ行き、入浴は避けてシャワーだけにした。代わりにしっかりとお肌のケアはしておく。

 ささっと寝間着に着替えてリビングへ行く。


「出たわね。準備出来てるわよ」


 リビングへ行くと丁度お母さんが最後のお皿を机に置いた所だった。

 さて夕食の時間だ。


「あー、そういえばなんだがな愛華。お父さん達また明日から出張なんだ」

「あむっ......んっく。そう、わかった」

「本当にいつも一緒に居れなくてごめんなさいね......」


 私の両親はいつも出張で家に居る日が少ない。最近だって家に居てくれたけど、そのまた前は出張で居なかった。

 それでもいつも出張を終えて、海外に残ってた方が楽なのに家に帰ってきてくれてる。それだけで十分なんだ。


「大丈夫だよ。ふっふっ、実は紫苑ちゃんとね! 明日から一緒のゲームをやろうって決めてあるんだ!」

「あら紫苑ちゃんと! それは良かったわ......」

「どんなゲームをやるんだ?」

「えーっとね。World Illumina Project Onlineって言うんだけど」


 私がそう言うとお父さんは驚き、お母さんは動揺を隠せないようだ。

 そりゃそうだ。うちでも買えなくはないが当選は御祈りになるもの。


「そいつまた......まぁいつも通り勉強を疎かにしなければ大丈夫だ。いっぱい楽しむんだぞ!」

「うん! 勉強は大丈夫!」


 その後は学校でのことや、出張後の事を話しながら夕食を終え、自室へ戻り少し勉強と調べ物を済ませて寝た。


* * *


 「――――っ! はぁ......時間は......もう起きるか」


 また悪夢だ。夢の中で死ぬ度に起きるから時間を確認する癖がついてる。

 養子に来てからずっとなんだよね。でも両親には害意なんてありえないから原因不明なんだよなぁ......。

 ストレスなんて認識してないし、悪夢がストレスの主な原因だからますます意味不明だ。


「ん~~~、ふぅ......まずは紫苑ちゃんに連絡とるか」


 私は体を伸ばしてからスマホを取った。

 ライムと言うアプリケーションで連絡を取る。


『紫苑ちゃんおはよぅ!ついに今日だぞー!』


 メッセージを送って私は洗面所へ向かった。

 案の定リビングには誰も居ない。まぁ仕方ない、ちょっと寂しいけど......

 歯を磨いて顔を洗い終えたタイミングで返信が来た。


『始まりますわね~フレンドはヘッドギア共通のはずですので先に登録しておきましょう』

『どやってフレンドなるのん?』

『スマホにWFDHG専用アプリを入れればスマホからでも出来ますわよ』

『なるほど!ちょっと待っててね!』

『フレンドコードは先に送っておきますわ、フレンドコードは――――』


 私は紫苑ちゃんに教えられた通りにスマホのストアからアプリケーションをダウンロードした。

 アプリにWFDHGのシリアル番号を登録しておけば、WIFを経由してWFDHGとスマホを連動出来る様になるね。

 自室へ戻ってシリアル登録したら、アプリのフレンドタブからフレンドコードを入力して申請をした。


『どう?フレンド申請出来てる~?』

『出来てますわ! S版正式開始まで時間がありますので先にダイブしておりますわね!』

『うん!私も楽しみ(*´╰╯`๓)♬』


 よしちょっと小腹を満たしておこう......ウェーイInゼリーでいいか。

 戸締りヨシ! お花摘みヨシ! WFDHGの準備ヨシ!


「一応昨日寝る前に調べた情報を再確認しておこう」


 これはWIPO通常版WIPO-S-S版の違いを調べてた。

 まぁまずはパッケージの説明を見てみよう。

 通常版の方は公式サイトの情報引用になるかな。


World Ilumina Project Online -Story of the ilumina-

――――世界中に瘴気の影響で魔物が闊歩し始め、人類の支配領域は徐々に狭まって行く。

ある国は差別し、ある国は排他的になり、ある国は亜人狩りをし、ある国は神に盲目になった。

貴方はその中の何か。

浮浪者、奴隷、平民、貴族、王族、獣、盗賊、魔物。

貴方はその中の一人。

この世界はもう一つの世界。何を成すか、どんな物語を紡ぐか。女神様が見ている。

貴方はこの世界の存在。

時が来るまでに貴方は何を成すのか、どう生きていくのか、欲望のままに――――

EiNesis・AnotherWorld・Project (C)


 要するに世界にプレイヤーとして行くのではなく、既存の人物として始まるというわけだね。だから気分的には異世界転移より転生より? いや違うな......そうだ! 異世界憑依寄りだね! 乙女ゲーキャラに転生しました系の展開だ。

 それがS版なんだよね。皆が憑依転生しましたって感じなのが。


 そして次に通常版。


World Illumina Project Online

――――世界は邪神と人の手によって混沌に陥り、人類存亡の危機を迎えた。

教会の教皇が人類を代表し祈った。

「あぁ、我らを作りし神よ。我々の力ではもう未来がありません。どうか救いを......!」

すると主神からお告げ降りた。

「祈りは届きました。私が直接介入する事は難しいのです。

異世界から戦士を招き、その者らへ神の加護を与えましょう。

彼らと共に勝ち取るのです。人類の生きる道を。」

主神は異世界から戦士を、邪神から人類を守るように招いた。

斯くして異世界の戦士達が招かれ、時代は急速に動き始めた――――

EiNesis・AnotherWorld・Project (C)


 こっちはどちらかと言うと勇者召喚タイプになるね。紫苑ちゃん曰く「通常版はVRMMO系になりますわね。シナリオのあるタイプと予想しますわ」て事らしい。

 まぁ私達には今は関係ないね。


 そんなわけで、さっそく。


「仮想世界へ行くぞおおおおおおお!」


 スマートなヘッドギアを装着。

 体の負担が少ない態勢を確保。

 起動ボタンを押してても楽に。

 後は言葉を唱えて世界へ行く。


 ちょっと恥ずかしい語感だけどね!


「イルミナ世界へ転移!」


* * *


「ん......そろそろ起きた方がいいじゃない?」


 声が......聞こえる......


「んぅ......ぉ~ぃ、もう30分ぐらい寝てる」

「へ......あっ!」

「ぉっ、起きた」


 私は勢いよく起き上がった。

 声をかけられて目が覚めた。前を見てみると......


「ん、なに?」

「いっいぇ何でもないです!」

「ふふっ」


 色素の薄い肌、白銀の長髪に赤く輝く瞳を持つ少女が見えた。

 そしてふと周りを見てみると、そこは六畳間ぐらいの部屋の中のようだ。

 私が居るのはベッドの上で、銀髪の人は椅子に座っている。


「ようこそイルミナ世界に」

「あ......あぁ! そっか今VRゲームを!」

「ん、FDVRは初めて?」

「ゲームは初めてです!」

「そう。ここは所謂キャラメイクの場所。私はネシス。君の名前は?」

「え、えと......」

「あぁ君の決めたいキャラ名で」


 あぁこれキャラ名設定の会話か! よくゲームにあるよね。「よく来たな新兵! ここは~~基地の訓練場だ!」みたいな始まり方をしてチュートリアルが始まる奴。

 あんな感じかな! 違うか......? まぁどっちでもいいや。

 キャラ名ね。


「アイカです!」

「ん、アイカです!さんか」

「えっ!? いや違いますですっ!」

「ふふっ、冗談。アイカね。本名と一緒だけど気にしない?」

「はいっ! って揶揄わないでくださいよ!」


 すごい......揶揄うほど高度なNPCって事? 実は運営が中に入ってるとか無い......?


「ん、私は運営じゃなくてこの世界の住人だよ」

「えっ!? なんで考えてることが!?」

「顔に出てる。それよりキャラメイクをしよう。このタブレットに全部書いてあるから弄ってね~」

「あっはい!」


 渡されたのはタブレットみたいな物。

 中に映ってるのはリアルと全く同じ見た目の私で、このタブレットで弄れるようだね。

 と言ってもタブレットに書いてある通り、肉体自体は弄れない。

 くっそぉ......! 胸おっきくしたかった......目の前の人は胸おっきくて許せないなぁ!


 っと脱線しちゃった。

 ん~弄るのは~髪の毛の色を桜色にして、右のこめかみにかかる髪の毛に水色メッシュを入れて、これだけでいいかな。

 プレビューを見てみるとちゃんと変わってるね。

 てかプレビュー思いっきり全裸じゃん! 見える所全部見えてるんだけど!?


「ネシスさん、プレビュー画面で私全裸なんだけど......」

「ん? あ~なんで見えるか説明聞く?」

「はいお願いします......!」


 普通ゲームでは下着より先は脱げないとかあるじゃん? あれが無い可能性がある。その可能性があるという事は......ひぇ、怖い目に合わないよね......?


「ん、じゃ説明する。

この世界にはプライベートエリアとパブリックエリアがあるの。

パブリックエリアでは下着より先は見えないし脱げない。

プライベートエリアだと、細かい設定をしてリアルでの専用書類を提出した上で脱げるようになる。”もう一つの世界”、だからね。

それにハラスメントガードシステムがあるから、不安に思う事は無いよ。

それでも不安な状態になったら、メニューからでも脳内からでもGMに通報すれば1秒以内に対応されるから。

っとこんな物かな。」

「1秒対応っていうのは、どのプレイヤーも文字通りなの?」

「そう、問題プレイヤーとかは常時監視。人手は多いから」

「なら安心ですね! あっそうだキャラメイク終わりました!」

「ん、それじゃ次にステータスについて進めよう」


 ちゃんと対策とか色々されてるんだね。それなら安心だ!

 ネシスさんが新しいタブレットを差し出してきた。

 と思ったら手元のが消えた。びっくり......。


「そこに書いてある奴を見て、聞きたい事があったら聞いてね」

「はいっ!」


 タブレットの情報を見てみると......


 ふむふむ、まずは種族を設定しないといけないんだね。

 種族は沢山あって、人じゃないのもある!

 スライムとか! どうやって操作するんだ......

 因みにこんな感じ。


 *人種

 ・原人 肉―・―・―魂―・―・―・―・―・―魔

 人種の原型、進化の可能性が秘めているがまだ進化していない段階の為弱い。

 ただの人。特に面白いものは無いわ。

 

 ・獣人 肉―魂―・―・―・―・―・―・―・―魔

 野生動物に襲われてしまった人種から生まれた新たな人種。

 特化した獣人はピーキーかも。

 種類:犬/猫/鳥/


 ・魔人 肉―・―・―・―・―魂―・―・―・―魔

 原人が魔力の濃い場所に暮らし、繫栄していく道のりにて魔力に適応した人種。

 魔力に順応した彼らは、そうでない者をどう見てるのでしょうね。

 種類:エルフ/ドワーフ/純魔人/


 ・半魔 肉―・―・―・―・―・―魂―・―・―魔

 人型を取った魔物。高度な知性を得た個体が多い。

 私はロマンがあって好きだよ。

 種類:吸血鬼/リザードマン/悪魔/アラクネ/etc......


 *魔物

 ・モンスター 肉―・―・―・―・―・―・―・―魂―魔

 魔力を大量に吸収し、魔石を心臓とした生物。

 人じゃない、それって面白いと思わないかしら?

 種類:スライム/ゴブリン/ウルフ/スパイダー/etc......


 種族説明に感想が混じってるね......まぁいいやそれより。


「ネシスさん。この肉、魂、魔って言うのは......?」

「ん、そのバータップすれば出るよ」


 言われた通りに押してみると......


 進化・転生条件

 Race Level 種族レベル G~S


 魔法防御 魂魄防御

 Soul Density  魂密度 G~S

 Soul Capacity 魂容量 G~S

 Soul Level   魂の格 G~S


 魔法攻撃 魔法操作

 Mana Density  魔密度 G~S

 Mana Capacity 魔容量 G~S

 Mana Level   魔の格 G~S


 物理攻撃 物理防御

 Body Density  体密度 G~S

 Body Capacity 体容量 G~S

 Body Level   体の格 G~S


 各項目のランクに応じてステータスが決まります。


 うーん? えーっと要するにBodyが肉、Manaが魔、Soulが魂で、物理と魔法にステータスが寄ったり......? 種族毎に特徴があるって事かな?

 Raceが種族でこれもランクで別けられるのか。


 ん~これに照らし合わせて考え......めんどくさ。

 いや私はね、元々選びたかった種族があるのだ!

 それは半魔の吸血鬼だっ!


 てことで次の項目は......スキルだ。

 最初は6個選べるからよくよく見て決めよう――


 ――よし決めた! ≪片手剣≫≪鑑定≫≪錬金≫≪料理≫≪鍛冶≫≪採取≫で決まりだ!


 ≪片手剣≫は初期装備に片手剣がもらえるから選んだ。このスキルを育てると攻撃スキルがレベル毎に解放されるみたい。

 スキルはマニュアルとオートがあって、オートなら最適な動きがされるけど機転が利かない。代わりにマニュアルならスキルに合った動きをすれば効果が出る。

 私はマニュアルだね。


 ≪鑑定≫は相手のステータスや、物の詳細が見れるスキル。ほぼほぼ必須級だ。レベルが上がると鑑定できる物が増えたり、低レベルじゃ見れない情報が表示されたりする。

 

 ≪錬金≫は錬金が出来る! 初期装備として錬金台がもらえる。見た目は片手で持てる程度の大きさの木の板に、魔法陣が書いてあるだけの奴だ。

 

 ≪料理≫は初期装備に料理包丁もらえる。あと料理した時にバフが付いたり、レシピを知っているとシステムサポートされる。サポートについてはレベルを上げないと出来ないのもあるみたい。

 

 ≪鍛冶≫は武具の作成をする際、高品質になったり、武器の修理時の最大耐久の消耗が減る。後システムサポートが入るがこれは≪料理≫と一緒。

 

 ≪採取≫は初期装備に採取用ナイフがもらえて、採取した時の品質が上がった利する。もちろん採取時にシステムサポートがあるがこれは≪料理≫と一緒。


 とったスキルの説明はこんな感じかな。

 紫苑ちゃんはきっと戦闘職! って感じになるだろうから、私は生産をしようと思ってこういう構成になった。


「一通り終わりました!」

「ん、終わった? それじゃ......面倒くさいな、管理ドール交代」

「かしこまりましたご主人様」

「おわぁ!?」


 ネシスさんがそう言うと、管理ドールなる者が目の間に転移したかのように出てきた。

 めっちゃびっくりした......


「ん、それじゃまたねぇ」

「え、ぁ、は、はい! ありがとうございました!」


 そういってネシスさんが消えて行った。

 なんだろうマイペースな人だったな......?


「それではアイカ様、必要な説明事項について説明させて頂きますね。まずは――」


 メイド服を着た管理ドールさんが説明を始めて、質問にも適度答えてくれた。

 話した内容をまとめると――


 ・世界に降りたら、メニューモーション設定を意識しながらモーションを設定してメニューを開き、ステータスを確認してね。

 ・このゲームはRPGみたいな固定ダメージではなく、限りなく現実に近い仕様になってるため、生物の弱点を突けば即死する。それに空腹が続けばいずれ死ぬし、水も同様。ただ排泄はしなくて大丈夫との事。

 ・代謝が仕様としてある為、汗を水で流したり体を洗わないと汚れたり臭ったりする。

 ・後は自由。何を成すにも自由。ただし行動によっては現実への介入も検討されるため、別の世界とはいえプレイヤー同士での行動は考えてやろう。NPCも死んだら終わりだという事も理解しておこう。


 って感じかな。他にも説明を受けたけど重要なのはこんな物。


「他に質問はありますか? お答えできる事に対してはお答えします」

「う~ん。特にないかな!」

「かしこまりました。サービス開始までもうしばらくありますので、ごゆくっりお待ちください」

「あ、あの! 待ってる間に一緒に始めてるはずのフレンドと一緒に待機出来ないですか?」

「少々お待ちください。確認を取ってみます」


 結構早く終わっちゃったから紫苑ちゃんと一緒に居たいな~って......

 にしても凄いなぁ......これがNPCでしょ? もう人じゃん。正直ゲーム開始した時点でもうNPCをNPCとして見る人なんて居ないんじゃないかな。

 このキャラメイクの所で解らせられるというか......


「アイカ様。許可が下り、先方も同じ要望が出ていましたので専用フィールドへ転移させます」

「おぉ大丈夫だったんですか! よかった~! 私こういうゲームするの初めてだったので出来ない物かと......」


 私は旧型のFDHGを持ってるけど勉強とか料理練習とかにしか使ってなかったからなぁ......。

 まぁ配信とかは偶に見てたけどね。


「いえ一般的なのであれば出来ない物だと......。では転移させますね<テレポート>」


 管理ドールさんがテレポートと唱えた瞬間、視界が一気に変わった。

 目の前広がるのは――


「う、うわぁぁぁぁ......奇麗......」


 ――奇麗に整った芝生、奥には広がる海、左には宮殿のようなおっきな建物、右の奥には森が見える。

 そして後ろを振り向くと、


「あらいらっしゃい」

「ん、やほ」


 芝生の上にガゼボ東屋みたいなのが建っている。

 そこにはゴシックドレスを身に纏ったネシスさんと、メイド服を着た背の高い茶髪の人が紅茶を飲んで座っていた。


「愛華!」

「あっ紫苑ちゃん!」


 少し遅れて紫苑ちゃんも転移して来た。


「髪の毛金色にしたんだね......凄く似合ってるよ」

「っ/// もう恥ずかしいですわね......あ、愛華も凄く似合っていますわ」

「えへへ! 嬉しいなっ!」

「あらあら仲がいいのねぇ~話をするならこっちに来て座ったら? 紅茶もあるわよ」


 紫苑ちゃんと話していると、メイド服を着た人が笑顔で誘ってくれた。


「あ、はい! 失礼します!」

「御一緒させて頂きますわね(......え、どういう事ですの......?)」

「いらっしゃ~い。はい、紅茶」

「感謝しますわ......っ! 美味しいですわね......これがVR空間での味覚。全然現実と変わりませんわ」

「紅茶おいしー!」


 てか味覚とかそれ以前に、この紅茶美味しくない? 紫苑ちゃんとのご相伴に預かったりで飲むことがあるんだけど、飲んだことないよこの美味さ。

 私の語彙力じゃ表現出来ない美味さがここにある。


「そういえば愛華はキャラ名何にしましたの?」

「私はアイカ、カタカナでそのままって感じ」

「まぁ、わたくしもシオンでカタカナ表記ですわ。そもそも変えなきゃいけないほど特徴的な名前ではありませんものね」

「だねぇ~」


 治安がすごくいいからねぇ~バレても悪用しようとしても出来ない世の中よ。

 そもそも名前だけ知ってどうするんだって感じだけど。


「種族は何にしましたの? わたくしは吸血鬼にしましたわ!」

「えっ!? 私も一緒だよ~! スキル構成は生産寄りにしてるけどね」

「んふふっ、種族は一緒ですのね......! 種族毎にある程度開始地点が変わるらしいのでよかったですわ。因みにわたくしのスキル構成は攻撃ばかりですわね!」

「おっやっぱり攻撃系か! それにしても、ふふっ。一緒なの嬉しいんだぁ~?」

「な、か、勘違いしないでくださいまし! 誘ったのはわたくしですし、貴方一人では心配だから――」

「心配、してくれてるんだぁ~?」

「んもぉぉ!」


 ポコポコポコポコ!


 揶揄っていたら可愛らしい叩き方で叩かれてしまった。可愛いなぁもう。

 そんなこんなで二人で話していたり、偶にネシスさん達から質問されたりしていたら時間が来たみたい。

 すっかり話し込んじゃってたな。


「さぁ転移の時間よ」

「わざわざありがとうございました!」

「場所と紅茶、感謝しますわ」

「ん、感謝するのはいい事。それじゃ楽しんでね<■■■■■>」


<称号:女神の興味 を獲得しました>

<女神によるデーta――――――――


 何か最後にシステム音声が――


* * *


「――ん......ここは......」


 暗い......何も見えない。箱......? 仰向けになっている? 左右には壁がある。


「ア、アイカ~そこに居ますの~? 暗くて何も見えませんわ......」


 シオンちゃんの声が聞こえた。

 仰向けだったが起き上がることは出来たから、私は立ち上がって箱から出た。


「シオンちゃん! ここに居るよ~!」

「み、見えないですわ! あ、そうだ。<ファイアーボール>!」


 シオンちゃんが何かに気づき、魔法を唱えた。

 するとシオンちゃんの手のひらに火の玉が見えて、光源となり場所が分かった。


「射出しなければ光源になるんですのね」

「すごいっ頭いい~!」

「ふふん、当然ですわ」


 光源によって照らされて見えたのは、石の壁に石の天井で窓は無い。

 床には高そうだけど煤けたカーペット。そして蓋の壊れた棺桶が二つ部屋の中心に鎮座している。


「この棺桶から出た設定かな?」


 ピピッ


「「ん?」」


 通知音みたいなのが聞こえた瞬間、直接脳内に指示が来た。


「あっ、あぁ忘れてた。メニューを開くモーション設定をしなきゃ」

「ですわね。指示がなかったら忘れたままでしたわ......」


 私はどうしようかな......指で b を描く動きで登録しよう。

 ......お、出来たね。どれどれ、メニューを開くとタブが複数出てきた。


〇ステータス・装備

〇インベントリ

〇フレンドリスト

〇ギルド<現在使用不可>

〇パーティー設定

〇設定

〇ログアウト


 ふむふむ、そういえばステータスを開いておけって言ってたね。見てみよう。


===================

名前:アイカ 称号:<セットなし>

種名:吸血鬼 種族:D


〇種族基礎ステータス

肉―・―・―・―・―・―魂―・―・―魔

Slv:G Mlv:G Blv:G

SD:E MD:C BD:G

SC:C MC:B BC:F


〇戦闘スキル

≪片手剣1≫


〇補助スキル

≪鑑定1≫≪錬金1≫≪料理1≫≪鍛冶1≫≪採取1≫


〇種族スキル

≪日光脆弱≫≪血液操作1≫≪吸血捕食≫


〇称号リスト

<称号:女神の興味>


〇装備

頭<なし>

腕<なし>

体<吸血鬼の高貴なる服>

腰<吸血鬼の高貴なるズボン>

足<吸血鬼の高貴なるブーツ>

アクセサリー<なし>

===================


 ほぅほぅ! こんな感じにステータスが見れて、この 〇 を押すと ー になってタブを閉じれるんだね。基本的に種族ステータスは閉じとこ、基礎って書いてあるから成長とか無いんだろうし。


 後今気づいたけど、私達が来てる服って貴族の服なんだね! 女物じゃなくて男物なのが気になるけど......。ちゃんと女物手に入れなきゃ。

 それになんか称号あるし......これ絶対普通じゃないよね......?

 まずこの種族スキルってやつだよ! 詳細見なきゃ......!


==============

≪日光脆弱≫

日光によるダメージを受ける。

==============


 これ吸血鬼特有のデメリットって奴かぁ!

 日の元を歩けないの大変すぎないか......?


==============

≪血流操作1≫

自分の血を操作する事ができ、レベルが上がると操作範囲が増える。

==============


 これはロマンあるスキルだぁ!

 ただ技みたいなのが無いから完全に自分の操作に依存してる感じかな?


==============

≪吸血捕食≫

吸血する事によって満腹度が増え、食品による満腹度上昇量が少なくなる。

==============


 まぁ吸血鬼だもんねぇ......まぁ料理は料理で回復できるならよかった。一応ってレベルなんだろうけど。

 料理スキルが死ななくてよかった......。まぁあれは料理にバフがあるから、死にスキルにはならなそう。


 そしてメインディッシュというか何というか......称号見てみようか。


==============

<称号:女神の興味>

女神の興味を引いた者に送られる称号。

ん、期待してる。

思うがままに楽しみなさい。

・■■■■■■■■

==============


 ぬぉぉぅ......これで不幸や厄事を招かない事を祈る......

 でもなんだかセリフの口調が......さっき聞いたばかりな気がするよ!!!


「シオンちゃん......」

「お、おち、おちつくのよ? 大丈夫、神様が見守ってくれてるだけだわ? なんてことないわ?」

「シオンちゃんが一番焦ってるよ! 大丈夫だよ大丈夫!」

「いや考えて見なさいな。この口調、さっき話していたお二方よ」

「あっ、ネシスさん......? ま、まぁ大丈夫だって! さっきだって楽しく話してただけなんだから」

「そ、そうですわね......」

「それより部屋から出ない? 太陽光に気を付けてまず周囲の状況を調べないと」

「で、ですわね!」


 一応インベントリも確認してみよう。


07/50

所持金:1000イル

〇武器・防具・道具

・片手剣

・錬金台(最下級)

・料理包丁(最下級)

・採取用ナイフ(最下級)

〇回復・食品

・吸血鬼用HPポーションx3

ー素材

ークエスト用


 鉄製片手剣、錬金台(最下級)、料理包丁(最下級)、採取用ナイフ(最下級)、吸血鬼用HPポーションx3、1000イル......イルっていうのはこの世界の通貨だね。

 こういう感じになってるのか......50個しかものを持てないって、拠点とか考えないといけないね......

 こうして私達はようやく部屋から出た。


「開始時間が夕方に近くて、ステータスチェックに時間を使ってよかったですわね」

「だね。今は日が落ちてるけど、扉の向こうが日の目を浴びる環境になってるとは思わなかったよ......」


 私達が部屋から出ると正面に窓があり、外は暗くなっている。

 この世界はリアルの時間と同期されているから、今はもうリアルの方は日が落ちた時間帯になってるんだね。

 そして周りを見てみると廊下になっていて、左右に道が伸びている。

 所々扉があり、扉の反対に窓がある。


「あ、アイカ......外を見てみないさい......」

「ん~? おっ、おぁ......」


 シオンちゃんに誘われて窓の外を見てみると......

 月の明かりに照らされた大きな街......そして窓の下の方に見えるのは城壁。

 街の方は廃墟になっているのが見える。

 そして何より......


「グルルルル」

「ヴァァァァァァァァ」


 クッソ強そうな筋肉モリモリマッチョマンのウルフとゾンビ。

 そして――


「カタカタカタカタ」


 スケルトンドラゴンが見える。

 スケルトンドラゴンはぶっちゃけ問題ないと思ってる。

 それよりウルフとゾンビだよね。モリモリでマッチョな野郎共だもん。暴力は数だよ兄貴......。

 それにこれゾンビ、でしょ? この街の市民分居るんじゃないの......?


「シオンちゃん。VRゲーム初心者だから分からないけどこれが普通?」

「こんな普通があるわけありませんわよっ! どうしましょうこれ......」

「ま、まぁまだ私達の居る建物も探索してないし、何か希望があるかもしれない。あのマッチョゾンビじゃ大きさ的に建物内じゃ動きずらいはずだし、最悪一体一体狩ってレベルを上げればどうにかなるかもしれないよ!」


 キャラにレベル表記は見当たらないけど、スキルにはある。

 キャラに隠されてレベルがあったりしても、しなくても戦闘スキルは確実に上がるからきっと大丈夫!

 

「そ、そうですわ。VRゲームの先輩であるわたくしが恐れていてはダメ! まずは探索から、ですわね!」

「うん! この建物も城壁内って事は城だろうからきっと宝物庫があるかもしれないしね!」


 こうして私達はもう一つの世界、イルミナ世界。

 World Illumina Project Online -Story of the ilumina-のプレイが始まった。

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