神神の微笑。幻談都市-火付盗賊改方編-

八五三(はちごさん)

第零話

 まったく腹立つ。

 あの、クソ、女、宇宙海賊ブラック・スワンを追いかけて来て、負けたばかりに、こんな仕事をさせられる、とは。


 高層ビルの荒れ狂う風よりも、荒れ狂った――しかめっ面をした。セレストブルー色の髪を側頭部と後頭部を短く切り揃えた、少女が立っていた。


「はい、はい。そう、イライラしない。綺麗な顔が台無しだよ、夜の牝馬ナイト・メア


 と、言いながら。高層ビルの強風のなか、少年はピクニック用のバスケットを開けようとしていた。


「うっさい、バーカ! ピクニックに来てんじゃねぇーんだよ、眠ったままの脳ナイト・ヘッド!」


 罵声をお気に入りの音楽のように聞きながら、とう製のバスケットの留め具である真鍮しんちゅうを外した。

 そのなかには、サブマリンサンドイッチが、詰め込めるだけ詰め込まれていた。

 しかめっ面をしていた少女が、チラ、と覗き。


「で、だ。オススメは」


 ぎっしりと詰め込まれている、サブマリンサンドイッチの一つに、少年は指差し。


「これかな。神威しんいくん、特製、さっぱりお酢煮、とり手羽元てばもと――サブマリンサンドイッチ。だ、ね」

死神の右腕デス・サイズ、の?」


 しかめっ面、から、困惑顔。


「大丈夫だよ。死神の右腕としても、なかなかの者だけど。料理の腕も、なかなかの物だよ」


 口調と差が生じる、へたへた少年。が、問い返した。


「そんな物騒な保証されても、な」

「じゃぁー、ボクが保証内容を語ろう」

「語る?」

「さすがに鶏手羽元をそのまま挟むことは、サンドイッチとして意味をなさない。サンドウィッチ伯爵はくしゃくに、失礼、だ。そこでだ、骨から身をほぐすことにした。これには、ボクの心が痛んだよ。骨にかぶりつく、その行為こそが、敬意を払う食べ方だからだ。しかし、骨から身をほぐす必要があったんだよ、サンドイッチという料理にするために! ぁーあー、何たる残酷な。でも、神さまが告げてこられたのだよ――美味しいサブマリンサンドイッチを作れ、と。神さまはボクを見捨てることをされなかった、神さまに感謝を。ひらめかされたんだ、手羽元と一緒に入っていた煮玉子をタルタルソースに活用することを。タルタルソースを作っているときにも、神さまは降臨されたんだ、よ。"いろどりが地味じみでは、ないか"、と、ね。そこで、だ! ボクが漬けておいた、ミョウガのピクルスをみじん切りし、タルタルソースに混ぜることにしたんだ。それが、また――――って聞いてる? って食べてちゃってる、ね」

「ぁー、あれだろ。ミョウガのピクルスが、隠し味と色合いの一石二鳥、てきな」

「そう、そうなんだよぉーおー!」


 この地球ほしで、殺し屋をする奴は――イカれてやがる、ぜ。

 しかし、

 美味い、な!

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神神の微笑。幻談都市-火付盗賊改方編- 八五三(はちごさん) @futatsume358

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