第33話 ルビーの計画

「あなたバカよね」


 ネズミが唐突にイヌに言った。


「鈴を手に入れたときに時間を止めて皆殺しにすればよかったのに、何でしなかったの?」

「ああ、それね。あくまでも試験だからね。鈴を持っているのがバレちゃいけないんだ」

「バレたら巻き戻しすればいいじゃない」


「そう簡単にはいかないんだ。よく考えてみてよ。おいらがみんなの目の前で鈴を鳴らして止める。このときみんなはおいらが鈴を持っていることを知る。これじゃダメだから巻き戻しをする。さっきのところでバレたからその時点では使えない」


 イヌは疲れたようにうつむくと話を続けた。


「おいらもどこで誰に見られているか分からないからね。もしおいらが鈴を使うところをほかの誰かが目撃していたら。その時点でおいらはその人を巻き戻しさせに行かなきゃならないんだ。目撃した人が何も言わず黙っていたら、たとえ皆殺しをしたとしても、おいらは不合格になってしまう」


「……なるほど、いつ誰がどこで見ているか分からないから気軽に使えない」

「そうだよ」


「そんなことより。俺たちこれからどうすればいいだ? だれか、何か案はないか、生き延びれる方法が」


 トラが僕たちに助けを求めるように聞いてきた。

 僕はダメもとで提案を出した。


「あの、誰かが鈴を使って時間を止めるんです、暗殺集団が来たとき。それで、止まっている人たちを誰かの船か飛行機か分かりませんがそれに全員乗せてもらって……ダメですかね?」


 トラがそれに対して答えた。


「それをするなら、まず暗殺集団がいつこの孤島にやって来るかだ。俺たちの乗って来た船や飛行機なんかはその前にここへ来ないといけないぜ」


 僕はみんなに聞いた。


「皆さんの乗って来た物がいつ何時ごろここに着く予定か分かりますか?」


 今まで黙っていたリスが手を上げた。


「わ、私の乗って来た飛行機は……」


 そのとき、ルビーから連絡が来た。


『ないち君どうなの? 捕まった犯人は?』

『あ、はい。イヌが犯人でした』

『そう、じゃあもういいわ。その洋館から出て来て』

『え? 出る?』

『そうよ、もう鈴の情報は手に入ったから』

『でも、このままでは……それに、廊下が爆破されて出れないんですが』

『犯人はもう捕まったんでしょ。廊下が塞がっているなら。ちょっと待って……これでいいわ』


 【時間操作】という文字が出てきた。


『あ、ルビーさん時間操作って出てきました』

『うん、そう。鈴の情報で作ったから使えるはずよ』

『あの、どういう?』

『時間操作を押してみて』


 僕は時間操作を押した。すると、ビデオの操作みたいに一時停止と巻き戻しが表示された。


『あ、鈴と同じ現象の』

『そう、それを押せば、場所が一時停止したり巻き戻ったりするから』

『場所?』

『そう、残念だけど人には聞かないわ』

『そうですか』

『さ、何もたもたしてるの。さっさとその洋館から出て来なさい。帰るわよ』

『でも暗殺集団が……』

『ああ、それ嘘よ』

『え?』

『その子は嘘をついているってこと』

『嘘ですか』

『そうよ。そんな子供だましに引っ掛かるなんて、まったく』

『子供だましって。でも人が殺されてますし。このまま帰るのは……』


 ルビーのため息が画面の向こうから聞こえる。


『いいから、早く出て来なさい! いいわね』


 そう言ってルビーからの連絡は消えた。


 1兆円のためだ仕方ない。


 僕はその場から去ろうとした。


「おい、どうした」


 トラが僕を呼び止めた。


「あ、ああ、ちょっとトイレに……」

「ああトイレか、行って来いよ」


 僕は何も言わず廊下へ出た。廊下は右も左も瓦礫の山だった。

 僕は洋館から出るため、その方にある瓦礫の山に行き時間操作の巻き戻しを使ってみた。


「え?」


 崩れた壁や床がどんどん修復されていくように見える。あっという間に元に戻った。綺麗な状態になったところで止めた。


 僕はそのまま洋館を出た。

 車のところでルビーが待っていた。僕はそこまで小走りで向かった。



「あのう、出てきたんですが」

「じゃあ、帰るわよ」

「え? あの、彼らはどうするんですか?」

「関係ないでしょ、もう」

「でも」

「はっきりしないわね。どうしたの?」

「殺された人たちもいますし、犯人もいるので。その警察とか呼んだ方が」


 ルビーはため息をひとつ吐いた。


「実は嘘なのよ、殺人とか犯人とか」

「は?」

「あなたに投入したスノーダストのテストをしていたの。彼らは劇団員たちよ」

「じゃあ……」

「そう、誰も死んでない、生きてるわ」


 そのとき、トラ、ウサギ、ネズミ、リス、イヌが出てきた。そのあとを追って、ライオン、ヒツジ、トリ、シカ、クマが出てきた。


 全員が洋館から出てきた。


「え? みんなが?」


 みんなは僕たちの周りを囲むようにして並んだ。ルビーがそれを見計らって言った。


「この方たちは劇団員で、演技の訓練をするためにこの計画に乗ってくれたの」


 僕の思考が追いつかず、思ったことを適当に聞いた。


「え? この島は?」

「ええ、もちろん、あたしの所有物よ」

「脈がなくて死んでましたけど。針とかも刺さっていましたし」

「ああ、脈がなかったのは作りものよ。とてもリアルな。針はもともと刺さっていなかったのよ。こっちで針の刺さっている映像だけを送っていたから。小道具として実際の針を用意はしたけど」

「そんなー」


 僕はその場に膝をついた。


「それでも。実際に時間が巻き戻ってましたけど……」

「ううん、違うわ。あなたのスノーダストをこっちで操作したのよ。錯覚させるために」

「もし、僕が背中に刺さっている針を触ったり、瓦礫を触ったりしたら?」

「ああ、それもこっちで触覚を感じるようにさせるから」

「じゃあ、逆に」

「そう、生きている人の着ぐるみを脱がしてその人の体に素手で触ったとしても、冷たくなって生きていないように感じさせることもできるわ」


 どこまでが本当かどこまでが嘘なのかもう分からなくなった。もう何も考えたくもなかった。僕は一番重要なことをルビーに聞いた。


「それで……1兆円の方は……」


 僕がそう言うと、ルビーは腕時計を見て答えた。


「そうね。テストではスノーダストの欠点なんかも分かったから……それは良かったけど。2億円だけね。報酬は」

「え? ど、どうしてですか?」

「制限時間をオーバーしているわ。もっと早く鈴の情報を送ってくれれば、1兆円はあなたの物だったのに。残念ね」

「早くって? 犯人がいたから」

「いつでも鈴を見つけることが出来たでしょ。ライオンがヒツジの部屋に鈴を運んでいる最中に一時停止をしたり、誰の意見も聞かずに、ずっとフロアを監視していたりすればね」


 僕自身の行動を変えていれば、もっと早く事件も解決できたのか?

 僕は1兆円のためできるだけ食い下がった。


「あのう、テストなんですよね。僕が制限時間内に鈴を見つけたら、さっき僕が洋館から出てきたみたいに強制的に終わるんですか? このスノーダストのテストもそれ以降はやらないんですか?」

「いいえ。終わらないわ。その時点であなたは1兆円もらう資格がある。でも、それ以降も続けるわよ。もし、あなたが犯人によって殺されたらその資格はなくなるけどね」


 どのみち、素直に渡してもらえないってことか。

 僕は人生で3番目に深いため息を吐いた。


「あの、ルビーさん。このスノーダスト、ずっと使えるんですよね」

「いいえ、時期に消えるわよ。その効力」

「消える?」

「治験薬って言ったでしょ」

「そんな……あのールビーさん。僕に仕事を下さい」


 こうして、僕はルビーのもとで働くことになった。残りの借金9998憶円を返済するために。

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ポレミラーヌの鈴殺人劇~時間操作する鈴と借金1兆円を返済するため、謎の治験薬を投入された男~ おんぷがねと @ompuganeto

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