第32話 犯人の素性
「相談は終ったの?」
唐突にイヌが僕たちの方へ声を掛けてきた。僕たちはお互いに顔を見合わせてイヌのもとへと戻った。
「ああ、テメーをこのまま見張っている。迎えが来るまでな」
トラが挑発するようにイヌに言い放った。
「それはすごい提案だね、まさに名案だ」
イヌがそれをバカにしたようにあしらった。
「テメーには聞きたいことが山ほどある」
「ふーん、いいよ。何でも言いなよ、答えるからさ。どうせ暇でしょ」
僕たちはイヌを囲うように椅子に座った。トラが怒りを込めたように質問をした。
「なんで爆破した?」
「君たちを閉じ込めるためにさ」
「どうやって爆破した?」
「ゼリー爆弾って知ってる? 指にゼリー状の爆弾をつけて壁に塗るんだ。そうすると、あら不思議、爆弾に変わる。もちろん手袋を外してだよ」
「起爆装置はどうしたの?」
ネズミが割り込んで聞いた。
「ああ、そこにボールあるでしょ」
白いボールがイヌの少し離れたところに転がっていた。
「そこにあるのさ、起爆するスイッチが。でも、おいらがそこに触んないと起爆しない仕組みなんだ」
僕はそのボールを見に行った。何の変哲もないサッカーボールほどの大きさのボール。
「ネコのお兄ちゃん。大丈夫だよ触っても、何も起こらないから」
うれしそうにイヌが言うとネズミが質問を続けた。
「両手を開いてたのにどうやってやったの?」
「おいらの体ならどこでもいいんだよ」
「……足ね」
その言葉にイヌは頷いた。僕は恐る恐るボールを拾い上げた。少し重い。
「それで、ゼリー状の爆弾はどこに隠してあったんだ?」
今度はトラが質問をし始めた。
「ボールの中だよ」
「ボールのなか?」
「うん、よく調べて見てよ。剥がせる場所があるからさ」
僕はボールを調べた。すると少しめくれている部分があった。
「ありましたよ。剥がせそうな部分が」
「ほんとか?」
「ええ」
僕はそこを剥がす前にイヌに聞いた。
「剥がしたら、爆発しないのか?」
「ああ、大丈夫だよ。あくまでも指につけて、どこかに塗りつける必要があるからね。そうしないと爆発しないんだ」
みんなを見回して剥がす素振りを見せた。みんなはそれぞれ頷いて僕の方へ返した。
僕はボールの一部を剥がした。マジックテープみたいになっていて。ジーっと音がする。そこには、透明なゼリーみたいな物が小さな空間に入っていた。
「ありましたよ。ゼリー状の物が」
僕はボールごとみんなに見せた。みんなはそれぞれ安堵のため息をもらしていた。それから、僕はイヌに聞いた。
「いつ爆弾を仕掛けた?」
「うーん。最初にクマさんが死んだときかな、おいらが下にボールを取りに行ったときあったでしょ、そのときだよ」
「玄関も?」
「そうだよ、でも玄関に爆弾を取り付けようとしたら、ウサギさんが下りて来ちゃったから、急いでパーティー部屋に入ったんだ。ウサギさんとライオンさんが話し合っていたから、おいらは戻るふりをして、鈴を鳴らしてふたりを止めたんだ。そのあと爆弾を玄関やほかの場所にも取り付けた。2階に戻るとき、ふたりを少し巻き戻しさせて、通常に戻してから来たんだ」
「鈴はどこに隠してたの」
ネズミが再びイヌに質問をした。
「鈴はここだよ」
イヌはそう言いながら自分の首らへんを指さした。
「ここの首輪のところに鈴があるでしょ、ここに隠してあったのさ。身体検査のとき頭はつけたままって言ったから助かっちゃったよ」
首輪のなかに? 物探しがなぜ反応しなかったんだ? 試作品だからか?
僕はその疑問を解くためイヌに聞いた。
「もし、僕が身体検査のとき頭までって言ったら。それで、その鈴を怪しんでたら」
「ははは、そうなったとしても。ここはおいらしか開けることができない仕組みになっているんだ。ちなみにこの鈴の中は電磁波の影響も受けないよ」
電磁波? だから反応しなかったのか?
「じゃあ、最初の爆破のときトラさんが僕たちを廊下から呼んだときがあった。そのときライオンさんを」
「そうだよ。単純だよね。だって、両手を首もとに持って行って、怖がっているふりをすれば、鈴を使っているのがバレないんだもん。誰にも」
「なんで殺した?」
トラがぶっきらぼう言った。
「なんで? おいらにとっては昇進試験なんだよ」
「しょ、昇進?」
トラは僕たちの方をうかがった。僕は首を傾げた。
「どういう意味だ」
再びトラがイヌに質問した。
「ん? おいらたちの組織は暗殺集団なんだよ。おいらはそのなかの一員てわけ」
「暗殺集団?」
「そうだよ。そこで出された課題が、ここ。このパーティーに出席して、時間を操作できる鈴を奪い、皆殺しにしてくるということなんだ。バレずにね」
「鈴のことは知ってたの?」
ウサギがイヌに質問した。
「そうだよ。おいらたちの組織はそういった情報は直ぐに入ってくる。まあ、鈴を使うまでは半信半疑だったけどね」
「じゃあ、あなたたちが鈴を奪って」
「広く言えばね。ウサギさん、おいらたちの組織は犯罪を生業にしているんだよ。それは窃盗集団の人たちだよ」
「せっとう……」
ウサギは下を向いてうつむいているように見えた。
「おいらたち以外の組織もあるんだよ」
トラが前のめりになりながらイヌに言った。
「テメーは人を殺しても何とも思ってねーのか?」
「思ってないね。だって、おいらたちにとってはビジネスだもん。でも残念だよ、昇進試験に失敗しちゃったから、おいらは殺されちゃうんだ」
「なんで?」
「組織がおいらを迎えに来たとき、君たちが死んでなかったから、それで。ちなみに君たちも殺されるよ」
イヌの言動に僕たちはお互い顔を見合わせた。それに対してイヌは笑いながら言った。
「あはははは、残念だったね。おいらたちの組織は誰も生かさない。迎えが来たとき、直ぐに殺しに来るよ」
「テメー!」
トラがイヌを殴ろうとイヌの胸ぐらをつかんだ。僕はとっさにそれを止めに入った。
「トラさん落ち着いてください! 挑発に乗っちゃダメですよ」
トラは興奮しながらイヌから手を離すと椅子に座り、そっぽを向いた。
僕は恐る恐るイヌに聞いた。
「助かる方法は?」
「あるよ。もう分かるでしょ……リンリン」
「鈴」
「そう、まあ、ひとりだけだけどね」
くくく……と、イヌは僕たちをバカにするように笑った。
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